臨床産業医オフィス
<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>
産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者
飯嶋正広
産業医による就業上の措置に関する意見のあり方について(No1)
―事業者が医師から適切な就業上の意見を聴取できるための諸課題―
労働人口の高齢化、業務の高密度化や有所見率の上昇により、健康診断結果に基づく事後措置の重要性は以前に比して増しています。
労働安全衛生法により、「事業者は、健康 診断の結果に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師の意見を聴かなければならない」と定められています。
しかし、この義務規定は、産業医の選任義務がない事業場においても適用されます。
そのため、労働者数 50名未満の事業場において産業医が選任されていない場合は産業医以外の医師が意見を述べることになっています。
しかし、それらの産業医でない医師は、 職場環境や作業の実態を十分に把握しているとは言い難いです。
一方、適切な産業医活動が行われている事業場においては、経年的な健康状態の把握が行われているため、 健康診断の機会で新たに見出された疾病によって就業配慮をする機会以外に、経過観察中において慢性疾患の管理が不良となったり、疾病により長期休業したりするなど、 多様なきっかけをもとに就業上の配慮が行われています。
職場の健康診断に関して、事業者がしなければならない作業は数多くあります。
それでは、この実務を担当するのは誰でしょうか。労働安全衛生法が想定しているのは、衛生管理者です。
ですから、衛生管理者またはそれに準じる職員が選任され機能していない限り、健康診断を実施することはできても、法が求める「事後措置」の実行は難しくなります。
衛生管理者や産業医が選任されている事業場では、いちおう「事後措置」の実施体制の基礎が構築されているとみなすことができるでしょう。
そこで、一般定期健康診断が実施されることになりますが、「健康診断」の実施の後に、その結果に基づく「事後措置」がなされます。労働者にも受診義務が伴ないます。
平成8年(1996)に行われた労働安全衛生法の改正(同法第66条の3第2項)に基づいて「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」で、職場の健康診断結果に基づく措置に関する事業者の義務が具体的に強化されました。
「事後措置」の流れとしては、
まず、<無所見>者および<有所見者ではあるが医療上の措置不要>と判定された受診者には、その結果を検査データを含め文書で通知します。
また、<要観察>、<要医療>と判定された受診者には、生活状況調査や精密検査などを受けるように伝え、そのために必要な支援を行います。
ただし、一般健康診断の有所見者に対して疾病の診断や治療を受けさせる法的な義務は、事業者には課されていません。ただし、産業医は、該当労働者の就業に関する意見及び関連する作業環境管理・作業管理上の問題点についての意見が求められています。
産業医は、その労働者が<通常勤務可>、<就業制限>、<要休業>のいずれに該当するかを判定するとともに、作業環境管理・作業管理上の問題点について事業者に報告します。
事業者は、産業医の判定について、その労働者の意見を聞き、必要があれば産業医との調整を行ったうえで、就業上の措置を決定し、その結果を検査データを含め文書で通知します。
また、必要な者について、産業医に「保健指導」を依頼します。
なお健康診断の実施および受診者への文書による結果通知(罰則付き強制規定)、
産業医の意見聴取(罰則なしの強制規定)、保健指導(努力義務規定)とされています。
このような現状認識をもとにすれば、事業者が医師から適切な就業上の意見を聴取できるためには、多くの課題を検討する必要があります。
これらの課題は、①制度面の課題、②手順や判断基準に関する課題、③体制や人材に関する課題に分けられます。これらの課題について、次回から、個別に検討を加えてみたいと思います。
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