内科認定医、心療内科指導医・専門医 飯嶋正広
呼吸器画像診断:胸部単純CT読影
<私が判断に迷うであろう腫瘤影:円形無気肺>
日常診療における診断において悪性腫瘍との鑑別を擁する画像診断ほど神経をすり減らす作業はありません。その一例として、円形無気肺を取り上げてみます。
円形無気肺は臓側胸膜(肺の周囲を二重に囲んでいる胸膜のうち、肺の表面にピッタリと張り付いているほうの胸膜で肺胸膜ともいう)の病変によって発生する円形ないし類円形の2.5~5.0cm代の末梢性無気肺です。
診断画像では腫瘤影を呈し、典型的な症例ではCTやFDG-PETなどの画像検査で診断が可能であるとされています。好発部位は、右下肺野(肺の背側側、傍脊椎領域、特にS10領域)とされています。通常、胸膜肥厚(プラーク)や癒着を伴うことが多いが、胸水は伴わない場合もあります。
外科的治療の必要はなく、経過観察で良いとされています。しかし、腫瘤影が増大する症例がまれに存在し、石綿暴露歴のある中高年の喫煙男性などに発症例が多く、咳、痰、胸痛、呼吸困難などの症状を伴うことがあります。そのため、しばしば、結核種や石綿肺(アスベスト偽腫瘍、ブレソフスキー症候群)、肺癌との鑑別が問題となり,診断および治療方針の決定に難渋します。
造影CTでは類円形、均一に造影され、肥厚した胸膜に接した円形腫瘤映画認められ、気管支や血管が腫瘤影にまきこまれる陰影(comet-like tail)が観察されます。経過観察において、大きさが不変であることや縮小傾向を示すことは良性であることが示唆されます。❶ 胸水または肥厚した胸膜に接する肺末梢の腫瘤、❷ 胸膜と腫瘤影のなす角度は鋭角で、❸ 腫瘤辺縁に気管支透亮像(air bronchogram)を認めることが多く、❹ 肺血管、気管支の収束像(comet tail sign)が特徴的で、その結果、❺ 肺葉の容積が減少することがあります。
そのため画像所見のみで診断できるとされますが、それでも画像での診断確定は名人技に近いのではないかと私は感じます。専門医の試験問題であれば、訴訟のリスクがゼロ(試験不合格のリスクのみ)なので「経過観察」を正解としますが、実際の臨床の現場では、肺癌の可能性を容易に否定することは危険です。
私が教育病院での指導医であるならば、研修医に対して、特徴的な所見が見られなければ生検が必要、と教えることでしょう。
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