Q3.実効再生産数とは何を意味するのでしょうか。
この概念を理解していただくために、私はまず、「基本再生産数」の説明から始めることにしています。これは病原体自体の感染力の強さの指標になるからです。“まだ誰もその免疫を持っていない集団の中で、1人の感染者が次に平均で何人に感染させるか”を表す指標です。基本再生産数は「R0」の記号で表されます。
たとえばインフルエンザの基本再生産数はおおよそ1~3、麻疹(はしか)ではおおよそ12~18、これに対して新型コロナウイルでは1・42という報告があり、この報告を前提として大雑把に言えば、新型コロナウイルスの感染力はインフルエンザなみ、ということができるでしょう。
さて、話題の「実効再生産数」ですが、これは、「基本再生産数」との違いは評価集団の状況です。「実効再生産数」は、すでに感染が広がっている状況であることを前提とします。
こうした状況において、1人の感染者が次に平均で何人に感染させるか、を示す指標が実効再生産数です。
実効再生産数は「Rt」の記号で表されます。
これは感染拡大を防ぐ努力が行われていたり、すでに免疫を獲得している人がいたりする集団の中で、平均で何人にうつるかを導き出す指標なので、時間と共に数値も変化していきます。
実施した感染症対策などの効果の評価や、感染状況の未来の動向を予測するための要素の一つとして利用されています。
Q4.実効再生産数のデータは何を示唆しているでしょうか。
昨年12月中旬から厳格なロックダウンをしているデンマークからも、従来の流行株は実効再生産数が0・5~0・7ほどでした。これに対して英国型は1・14だという報告があります。この実行再生産数が1を超えると、感染が拡大し、容易に収まらなくなることを意味します。
英国では当初、現実社会(リアル・ワールド)では、変異株が大人より子どもで広まっていたことから、子どもの感染しやすさを指摘する声が上がっていました。これに対して、英科学誌ネイチャーの先月の記事では否定的です。その根拠としては、職場や店舗が閉鎖されていた時期に学校は開いていたたことが、子どもの間で感染が広がるという結果を招いた可能性を指摘しています。
Q5.変異株が症状や致死率にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
いずれもはっきりしていません。ただ、重症化のしやすさが変わらなくても、高い感染性で患者が急増すれば、医療体制を圧迫し、通常なら助けられる命が助けられなくなることが危惧されています。
南アフリカ、ブラジルから報告された変異株は「N501Y」変異に加え、従来の流行株に感染して得た免疫が効きにくくなるおそれがある「E484K」という変異もあります。南アフリカでは、一部のワクチンの効果が低かったという報告も出てきました。
新しい技術を使って開発されたワクチンは、従来のワクチンに比べてウイルスの変異に対応しやすいとされています。ワクチンを開発する英製薬大手アストラゼネカは変異ウイルスに効くようにワクチンを改良するとしていますが、予定では今秋まで待たなければならないとのことです。
欧州を含め、世界的に感染者数が減っている状況もあり、行動制限などの対策で感染の抑え込みは可能だという意見もありますが、そもそも感染者数は日本と比較して桁違いに多く、重症者や死亡者が少なくない現実を忘れてはならないでしょう。
そして東京医科大の濱田篤郎教授(渡航医学)も「日本でも変異株が増えれば、『第4波』につながる可能性がある」と懸念しています。この懸念は至極尤もだと思われます。
Q6.今後問題になる対応策は何でしょうか。
ずばり水際対策だとされています。しかし、これはほぼ不可能であると私は心配しています。
政府は1月の緊急事態宣言に合わせて海外との往来制限を強めましたが、この期に及んでもなお「世界中に変異株が広がるなか、日本だけ鎖国することができるのか。検疫の強化など緩和に向けた対応の検討が必要だ」というような手ぬるいことを議論しています。
そもそも、東京オリンピックを開催することでどれだけのリスクが増えるのでしょうか。少なくとも、リスクが低下する要素は考えられないため、真剣な分析に基づく対策が必要なはずです。しかし、そうした情報は皆目得られていないという、情けない現状にあります。日本の舵取りと国際社会に対する責任の所在とあり方について、一人の日本人医師として大きく憂えるばかりです。
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