最新の臨床医学 6月26日(水)内科Ⅲ(糖尿病・内分泌・血液・神経)

経口血糖降下薬の使い方(2)

杉並国際クリニックでは、日本人にとっての人種的ウィ―クポイントである膵臓β細胞保護の重要性に鑑みて、前回(先週)紹介したα-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)とSGLT2阻害薬を、適応があれば今後さらに積極的に処方したい経口血糖降下薬として検討しています。

 

これに対して、インスリン分泌を促進するスルホニル尿素(SU)薬は、これまでより慎重に処方することとし、已むを得ない場合には、即効型インスリン分泌促進薬から開始することを考えています。

 

なお、チアゾリジン誘導体に関しては、現時点では積極的に処方するのは控えたいと考えております。

 

 

以下、その結論に至った背景を説明いたします。

 

α-グルコシダーゼ阻害薬(α‐GI)

α-グルコシダーゼは澱粉のグルコシド結合を加水分解する酵素です。α-GIは唾液プチアリン、膵アミラーゼおよび小腸細胞の刷子縁に存在する二糖類分解酵素の作用を競合的に阻害して単糖類への分解を抑制します。その結果、糖の消化・吸収を遅らせます。

 

糖尿病では血糖上昇に比して、インスリン分泌のタイミングが遅れているので、α-GIにより糖質の分解・吸収を遅らせることによって、血糖上昇とインスリン分泌のタイミングが合うようになることで、食後の過血糖を抑制することができます。

 

したがって、空腹時血糖はさほど高くなく、食後に高血糖になる軽症2型糖尿病には単独使用されます。

 

また食後高血糖が著しい例であれば、SU類やインスリン治療患者でも、このα-GIを併用することにより血糖コントロールが改善します。

 

α-GIの阻害作用は競合阻害なので、小腸で糖質と同時に存在することが不可欠となるため、α-GIは食事開始と同時に服用するように指導しますが、服用を忘れたことに気づいた場合は、食事開始15分後までなら血糖上昇抑制効果は期待できるとされています。

 

現在使用されているα-GIは、アカルボース(グルコバイ®)、ボグリボース(ベイスン®)およびミグリトール(セイブル®)です。これらのすべてが、二糖類分解酵素阻害作用を有しますが、アカルボースはαアミラーゼ阻害作用もあります。

 

副作用としては、服用開始時の腹部症状(腹痛、腹部膨満感、便秘、下痢、放屁)の増加などを自覚することが多いため、特に高齢者、腹部手術歴のある患者では腸閉塞用の症状を起こすことがあるので注意します。こうした副作用の予防策としては最初は1日1~2回で、しかも、少量から開始して、腹部症状の有無や程度を観察しながら徐々に有効量まで増量します。

 

また、単独使用で低血糖を起こすことはまずありませんが、インスリンやインスリン分泌促進薬と併用した場合には低血糖に注意します。もし低血糖が起こったらブドウ糖あるいはブドウ糖が入っている飲料を与えます。

 

 

SGLT2阻害薬

この薬剤は、腎臓におけるブドウ糖再吸収の90%は近位尿細管S1セグメントに存在するナトリウムグルコース共輸送体2(SGLT2)により、また10%はS3セグメントのSGLT1によって行われています。SGLT1は小腸においてブドウ糖吸収を担っていますが、SGLT2は小腸には存在しません。したがって、SGLT2に選択的な阻害薬は小腸におけるブドウ糖吸収に影響することなく、腎臓におけるブドウ糖再吸収を抑制します。これによって尿糖が増加し、体脂肪や体重の減少が期待されます。

 

副作用としては、浸透圧利尿による脱水が問題になります。とくに高齢者では口渇感を感じにくいため注意を要します。本剤服用者に脳梗塞が報告されています。75歳以上の高齢者、65~74歳の老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)を伴う高齢者や利尿薬使用者については特段の注意が必要です。脱水はまた、高浸透圧高血糖状態やビグアナイド(BG)類による乳酸アシドーシスのリスクになることも指摘されています。

 

SGLT2阻害薬を選択するにあたっては、概ね65歳未満の肥満者であれば、脱水および脱水にもとづく高浸透圧高血糖状態のリスクを減らすことができ良い適応であると考えています。

 

 

スルホニル尿素(SU)類

SU類は、膵β細胞にあるSU受容体と結合し、アデノシン三リン酸(ATP)感受性Kチャンネルを閉鎖して、β細胞膜の脱分極をもたらすことによって、電位依存性Caチャンネルより細胞外Caが流入してインスリン分泌を起こします。したがって、SU類が適応となるのは内因性インスリン分泌能が残っている症例であり、対象となるのは食事療法や運動療法を十分に行ってもコントロールが得られない非肥満2型糖尿病です。

 

グリペンクラミド(オイグルコン®、ダオニール®)はSU類の中で最も強力で、長時間作用するため、1日に1~2回の投与です。

 

グリクラジド(グリミクロン®)は血糖低下作用以外に抗酸化作用や血小板機能亢進を抑える作用があり、糖尿病の血管病変への効果が期待されています。

 

グリメピリド(アマリール®)はSU受容体との結合解離速度、結合親和性が、従来のSU類と異なり、インスリン分泌促進作用は弱いです。しかし、血糖低下作用はグリペンクラミドとほぼ同等で、広く使用されています。

 

SU類でもなお血糖コントロールが不十分な場合、持続型インスリンを追加するBOT(basal supported oral therapy)が行われます。この方法によって、インスリンにより血糖が改善し、糖毒性が解除されβ細胞の機能の回復やインスリン抵抗性の改善が期待されます。

 

 

即効型インスリン分泌促進薬

スルホニル尿素(SU)類のようなスルホニル尿素(SU)構造をもたないが、膵β細胞のSU受容体と内向き整流KチャンネルからなるATP感受性Kチャンネルを抑制することにより、SU類のようにインスリン分泌を促進します。これらのインスリン分泌促進の特徴は服用からインスリン分泌効果発現までの時間が極めて短く、かつ血中インスリン上昇のスピードが速いが、インスリン分泌持続時間が短いことです。

 

血糖改善効果はSU類ほど大きくないので、空腹時血糖はあまり高値でないが、食後の高血糖がみられる患者によい適応となります。

 

現在、ナテグリニド(ファスティック®、スターシス®)、ミチグリニド(グルファスト®)、レパグリニド(シュアポスト®)が使用可能です。

 

 

チアゾリジン誘導体

チアゾリジン誘導体は脂肪細胞の核内の転写調節因子であるPPARγのアゴニストで、脂肪細胞の分化を促進します。チアゾリジン誘導体が作用すると、前駆脂肪細胞は小型脂肪細胞に分化し、大型脂肪細胞はアポトーシスを起こします。ヒトではTNF-αの産生を抑制してインスリン抵抗性が改善すると考えられています。

 

その他に、PAI-1(plasminogen activator inhibitor-1)の発現抑制は抗動脈硬化作用にも関係すると考えられています。

 

現在わが国ではピオグリダゾン(アクトス®)が使用可能です。適応となるのは、食事療法・運動療法では効果が十分でなく、インスリン抵抗性が推定される2型糖尿病〔BMI≧25㎏/m²、空腹時血中インスリン≧10μU/mL、インスリン抵抗性指数(HOMA-IR)≧2.5など〕、あるいは他剤でコントロールが十分でなく、インスリン抵抗性があると思われる症例です。

 

副作用としては、水・ナトリウムの貯留作用あるため体重がしばしば増加します。特に女性ではその傾向が強いので、女性では1日1回15㎎から投与を開始することが望ましいです。浮腫が強い場合はフロセミドなどの利尿薬を併用します。心機能低下状態にある患者では心不全の進行が認められることから、心不全および心不全の既往のある患者には禁忌であり、心不全発症の恐れのある心筋梗塞、狭心症、心筋症、高血圧性心疾患などの心疾患のある患者には慎重に使用すべきとされています。

 

その他、血清乳酸脱水素酵素(LDH),クレアチンキナーゼ(CK)などの上昇もみられます。なお、膀胱癌との関連が一部で指摘されているため、投与開始時にはこれについて説明し、特に膀胱癌治療中の患者へは投与しないことになっています。

 

インスリン分泌促進作用はないので、単独投与では低血糖の危険性は少ないです。しかし、SU類との併用では低血糖に注意する必要があります。