心療内科についてのQ&Aをご紹介いたします。
それは日本心療内科学会のHPです。
心療内科Q&Aのコラムを読むことができます。
Q&Aは、想定した事例です。Q&Aや疾患についてのご質問、病院の紹介等は、受け付けておりませんのでご了承下さい。※「質問」をクリックするとが表示されます。
と書かれています。
高円寺南診療所に通院中の皆様が、一般論であるこのQ&Aを読んでいただくためには、実際に即した具体的な解説が必要だと考えました。そこで、「質問」「答え」の後に、<高円寺南診療所の見解>でコメントを加えることにしました。
「質問13」
認知症で精神科にかかっていますが、呼吸器、循環器、消化器などの不調を訴えていますが、心療内科で診て頂けますか?
「答え」
認知症の方が身体症状を訴えた場合、幾つかの点に留意する必要があります。
まず、認知症の重症度です。
認知症が軽度から中等度ならば身体症状をほぼ正確に訴えることができるのですが、高度の場合は自分の身体症状を適切に訴えることが難しくなります。
高度認知症では言葉によるコミュニケーションをとるのが困難だからです。
ただし、高度認知症であっても咳・痰、食欲不振、嘔気・嘔吐、下痢・便秘、頻尿などの兆候や、しかめ面、うめき、頻回のナースコールなどといった不快感を示唆する行動があると身体症状のあることがわかります。
また、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)として拒食、過食、不眠、大声だしなどの症状があると、身体疾患がなくても何らかの身体疾患があるのではないかと疑われることもあります。
さらに、甲状腺機能低下症、ビタミンB1欠乏症など認知症様症状を来す身体疾患があります。
この場合はそれぞれの疾患の身体症状を伴います。
認知症の方の身体症状の評価は必ずしも容易ではありませんし、身体疾患の有無を検査で確かめるにしても患者さんの協力を得られるとは限りません。
さて、心療内科は心身症の患者さんを対象とする内科であります。
認知症の方でも環境の変化や様々な心理的ストレスに曝されると身体疾患を発症したり、身体疾患の経過に影響のでることがあります。
このような患者さんは心療内科医が診断し、保険適用のある心身医学療法を用いるのがよい場合もありますので精神科の主治医とご相談の上、受診されることをお勧めいたします。
ただし、高度認知症では心身医学療法を行うことが難しいでしょう。
なお、精神科に入院している患者さんを内科・外科医が診察・治療にあたると、心疾患、糖尿病、肝硬変、骨折など幾つかの特定の疾患について精神科身体合併症管理加算が保険診療で認められております。
(佐々木大輔)
<高円寺南診療所の見解>
精神科と心療内科の併診というケースは、認知症に限らずに日常的に増えています。
「質問13」の質問者が認知症だとしても、精神科と心療内科の違いが理解できる高度な知的水準を維持しているものとの推定が可能です。
回答者の佐々木大輔先生がコメントしているように、認知症が軽度から中等度ならば身体症状をほぼ正確に訴えることができますが、相談者の認知症の重症度が高度であるとは考えにくいです。
まず、言葉によるコミュニケーションをとるのが困難ではなさそうです。ですから、この方の身体症状の評価は特別に難しそうではないし、身体疾患の有無を検査で確かめるに際してして必要な本人の協力も十分に期待できそうです。
そこで、この質問者への回答は、ずばり、「あなたを心療内科で診させていただくことは可能です。」ということになるでしょう。
私は、この質問者は認知症としてより、むしろ軽度認知障害としての可能性を考えます。
認知症ですでに精神科に受診中であるとすれば、少なくとも認知機能は低下していることでしょう。
しかし、認知機能が低下した状態には、正常とも認知症ともいえない状態が存在することが知られています。これを「軽度認知障害」(mild cognitive impairment : MCI)と呼びます。
MCIの背景となる病態は多様で、認知症疾患の前駆状態として出現するほかに、他の脳気質異常や代謝・内分泌異常など身体疾患が基盤になることもあります。
なお、うつ病などの精神疾患による認知機能低下をMCIに含めるかどうかは、診断基準によって扱いが異なります。
この質問者は精神科受診中であり、うつ病が原因で認知機能が低下して認知症と診断されている可能性は完全には否定されません。
その理由は、診断基準によっては、MCIもしくは認知症に該当する可能性があるからです。
さて、佐々木先生は、「心療内科は心身症の患者さんを対象とする内科であります。」と述べておられますが、それでは認知症は心身症なのでしょうか。
認知症は心身症とは区別されるのが普通です。
認知症は成人におこる知能障害で、多くの場合、脳の器質性病変を基礎に持っています。
これに対して、心身症は「身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し、器質的ないしは機能的障害が認められる病態」をいい、原因はともかく身体の病気であることが前提です。この場合の身体とは、脳の器質性病変は除外して考えるのが通例です。
しかし、脳も身体の一部を構成する臓器であり、脳を含めて体であると考えることも不可能ではなく、実際に、神経内科では脳を臓器として、つまり身体の一部として扱っています。
このように考えていくと、認知症を心身症から完全に切り離して考えることは難しいように思われます。
また、佐々木先生のコメントでもあるように、認知症の方でも環境の変化や様々な心理的ストレスに曝されると身体疾患を発症したり、身体疾患の経過に影響が現れたりすることがあります。そのような症例では、経験豊富な心療内科専門医が大きな役割を果たすことが可能です。
心療内科専門医に求められるのは、まず軽度認知障害(MCI)の早期診断だと思います。
2011年に米国国立老化研究所とアルツハイマー病協会はMCIは臨床症状で判断するとして、以下の診断基準を示しました。
① 患者、家族、医師によって以前より明らかに認知機能が低下していることが確認される
② 記憶、遂行機能障害、注意、言語、視空間機能の領域の1つ以上で年齢や教育歴から予想されるレベルより明らかに低下していることが確認される
③ 複雑な仕事は以前より難しくなっているが、日常生活では自立していること
④ 認知症には至っていないこと
とくに、②ではエピソード記憶障害がある場合は、アルツハイマー型認知症へと進行する例があるので注意
なお、佐々木先生も触れていますが、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)についての観察を怠らないことも大切でしょう。
より厳密には神経心理学的評価を行いますが、年齢教育歴平均の1~1.5SDの他覚的認知機能低下の存在が指摘されています。高円寺南診療所でもMMSE検査は導入していますが、CDRの他に、今後はモントリオール認知評価(Montreal Cognitive Assessment : MoCA)の導入も検討中です。
最後に、認知症の薬物療法・非薬物療法の原則について
多くの認知症では、薬物療法・非薬物療法のいずれにおいても根本的治療はありません。
そこで、生活の質(QOL)を損ねている要因に着目して治療を行うことで、効果を挙げることができます。非薬物療法では本人が参加して楽しく思えるものでなくてはなりません。ただとえば、アルツハイマー型認知症などでみられる多くのBPSDは、認知機能トレーニング、運動療法、音楽療法に代表される非薬物療法によるケアアプローチを試みることが大切です。
高円寺南診療所が開発した水氣道や聖楽院(声楽療法)は、最初から認知症の治療を目的としたものではありませんが、軽度認知障害(MCI)の段階での早期発見や発症予防を含めて大いに役立てていきたいと考えています。
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