診察室から:インフルエンザのワクチンが必要なわけ

サノフィ・メディアラウンドテーブル開催

 

( 2018年10月19日 06:10 )

 

医師専用の電子ジャーナルの一つ、Medical TribuneのLuxeに、とても興味深い有益な記事がありましたので、若干、読みやすく修正したうえで、途中で解説を加えてみました。ご参考になさってください。

 

国立感染症研究所の調査によると、日本における昨シーズン(2017年9月〜18年4月)のインフルエンザ感染者は2,230万人を超え、1999年の統計開始以来、最高となりました。(関連記事:「インフルエンザ3週連続で過去最高更新」)。

 

特に65歳以上の高齢者では免疫力が低下しているためインフルエンザウイルス感染により入院や死亡のリスクが高いです。そのため専門医からはワクチン接種率向上の必要性が指摘されています。9月5日、サノフィが都内で開催したメディアラウンドテーブルでは、米・Brown UniversityのStefan Gravenstein氏と国立病院機構東京病院の永井英明氏が講演し、高齢者がインフルエンザワクチンを接種する意義などについて説明しました。

 

 

インフルエンザ感染が急性心筋梗塞のリスクに!

 

一般に65歳以上の高齢者では循環器疾患などの慢性基礎疾患を抱えていることが多いです。インフルエンザウイルス感染はそれらの慢性疾患を悪化させ、重症化の原因となることが珍しくありません。

 

最初にGravenstein氏が、循環器疾患に対する影響を中心に、インフルエンザワクチン接種の有効性を説明しました。

 

高齢者では、加齢、糖尿病などの慢性疾患や、インフルエンザ、市中肺炎、帯状疱疹といった感染症の罹患に伴い、血栓が生じやすくなります。特にインフルエンザに感染すると、頻脈、低酸素症、急性炎症、血栓形成を来し、急性心筋梗塞のリスクが高まります。

 

同氏は、インフルエンザワクチンの接種が、こうした急性心筋梗塞の予防に有効であることを解説しました。

 

心血管リスクを有する6,735例(平均年齢67歳)を対象としたメタ解析で、インフルエンザワクチンの接種が心血管イベント発現を36%低下させたとの報告(JAMA 2013; 310: 1711-1720)を紹介しました。「ワクチンの接種により入院が減少し、医療費を抑制するというベネフィットも得られる」と述べ、医療経済の観点からもワクチン接種の勧奨は重要であるとしました。

 

日本のインフルエンザワクチン接種率は、小児で59.2%、一般成人で28.6%、高齢者で58.5%とされます。これは、先進諸国と比べて決して高い水準にあるとはいえません。

 

高円寺南診療所からのコメント:

高齢者でさえ60%未満、一般成人に至っては30%未満の接種率というデータは、インフルエンザワクチンの意義について、日本では理解が相当遅れていることを意味するものだと思われます。

 

 

以上のような現状について、Medical Tribuneでは同氏に追加取材を行い、その考えについて尋ねています。

 

「ワクチン後進国」と呼ばれる日本の現状について

同氏はまず「抗原量を増やした高用量ワクチンでなく、まず標準用量のワクチン接種率を向上させる必要があるのではないか」と指摘しました。

 

その上で、「米国でも、『ワクチンが悪い』とメディアで報道されることがある。しかし、その年の流行を防げなかったとしても、ワクチンの有効性を示す試験結果は出ている」と話し、メディアなどを通じてワクチン接種の意義を啓発する重要性を強調しました。

 

接種率上昇には公費助成の適応拡大を!

 

続いて登壇した永井氏は、日本の高齢者におけるインフルエンザワクチン接種の現状を説明しました。

 

インフルエンザによる入院と死亡は高齢になるほど増加します。その死因の多くは、うっ血性心不全、慢性閉塞性肺疾患、喘息、糖尿病などの慢性基礎疾患の悪化として分類されます。

 

これらの疾患は、いずれも日本人の死因の上位を占めます。そして同氏は「高齢者の死因として、インフルエンザは過小評価されているのではないか」との所感を述べました。

 

インフルエンザワクチン接種による予防は、死亡数を減少させることができるか。

 

同氏は、1950〜2000年の日本と米国における『肺炎およびインフルエンザによる超過死亡数とワクチン接種量の関係』を調べた研究を紹介しました。

 

米国ではワクチン接種量の増加に伴い超過死亡数が減少している一方、日本では1994年の任意接種化を契機に超過死亡数が増加していると指摘しました(図、 N Engl J Med 2001; 344: 889-896)。

 

 

高円寺南診療所からの補足説明:

インフルエンザワクチン接種制度の変遷

インフルエンザワクチンは1962年から勧奨接種として実施が開始されました。

1976年からは予防接種法に基づいた一般的臨時接種として小中学生に対して接種されるようになりました

1987年からは保護者の意向により希望者に接種する方式に変更になりました。

1994年の予防接種法改正により任意接種のワクチンに変更となりました。

これらの変更に伴い、 接種人数は年々減少し、 厚生省(現:厚生労働省)の調査によると接種率は1979年の67.9%から、 1992年には17.8%まで低下しました。

 

 

このように有効性が示されているインフルエンザワクチンについて、日本で使用可能なものは標準用量の4価不活化ワクチンのみです。

 

抗原量を増やした高用量ワクチンが承認された米国と比べ、選択肢は限定されます。また、公費助成の対象となるのは、65歳以上または60〜64歳で基礎疾患(身体障害者手帳1級相当の障害)を有する人のみです。

 

2010年に、生後6カ月以上の全国民が接種対象と位置付けられた米国に比べ、日本では非常に厳しい公費助成基準が設けられています。

 

こうした状況を踏まえ、同氏は「インフルエンザワクチン接種による重症化予防効果は明らかなので、高齢者は積極的に接種してほしい」と述べ、「公費助成の対象を60歳未満にも拡大すべきだ」と訴えました。

 

 

高円寺南診療所の意見:

インフルエンザワクチンの公費助成について

少なくとも欧米先進国並みのインフルエンザ接種率を達成することは、緊急の課題だと思います。