RSさんのメッセージを3回(3週)にわたってご紹介いたします。
第2回:新療法を巡る葛藤の巻
=個人的葛藤と家族間葛藤を克服して=
初回に続くRSさんのご報告の書き出しは、とても印象的です。
「治療して頂くにつれ、身体にたまった毒素が全部出ていく様に感じた。」
RSさんは「治療して頂くにつれ」と記述されていますが、決して受け身でも無理でもなく可能な範囲で柔軟に治療メニューをこなしておられますので、少なくとも今年の2月中旬以降は「治療に本腰を入れて取り組んでいくにつれ」といったところでしょうか。
以下はRSさんの治療経過です。
2017・11初旬 初診
2017・11下旬 鍼治療開始
2018・2中旬 水氣道開始
2018・8 水氣道開始後6ヵ月
「身体にたまった毒素が全部出ていく様に感じた。」
RSさんは、このように表現していますが、もちろん現時点で彼女の痛みが全部消えたわけではありません。
それでも彼女の表現は、とても素晴らしい真理を明らかにしています。
「身体にたまった毒素」とは何でしょうか。
これは長年にわたって彼女を痛みで苦しめた発痛物質を意味するものではないようです。
なぜならば彼女の辛さは、身体的症状としての痛みのみならず精神的な苦悩に増し加えられてきたからです。
つまり、彼女の「身体にたまった毒素」とは、精神的な苦悩、つまり、頑固な決めつけやこだわり、執着心、あるいは、恨み,つらみ、希望の無さ、無力感などの総体であると見立てると、とても理解し易くなります。
これらの要素(身体にたまった毒素)が重なってくると、加速度的に痛みを増強し、持続させることになります。
「長きに渡る身体中の痛みが、薄皮が一枚一枚はがれていく様に少しずつ良くなってきている。」
一言で「長きに渡る」といっても45年間、ほぼ半世紀に達する時間の長さは、想像するだけで圧倒されそうです。
これだけの時間、全身の痛みが和らぐことなく続いていると、痛みがない状態とはどのようなものなのか感じることさえできなくなってしまっていても不思議ではありません。
そしてRSさんのような慢性の全身性疼痛に長期に亘って苦しめられてきた方の傾向としては、痛みの悪化には過敏である反面、痛みの改善については極めて鈍感であることが多いです。
端から見ていて、表情や動作などを観察して元気になってきたように見えても、本人には実感が伴わないので、「少しも良くなっていません。」というお返事が返ってくることがほとんどです。
そのようなやり取りが診療現場だけではなく、家庭内でもたびたび繰り返しているうちに、患者さんは「自分は大切な家族からも医者からも理解されているように思えない。だから、孤独で悲しい。」と吐露する方の何と多いことでしょう。
こうした精神的葛藤状態が持続的な苦悩となり、場合によっては家族間葛藤や、医療不信に発展してしまうと、その苦悩が全身の痛みという苦痛と硬く結合して一体化してしまいます。
そうなると通常の治療では困難な病態に陥ってしまいます。
そんな患者さんが多数、高円寺南診療所にアクセスしてこられますが、本格的な受診に踏み切る決断ができるのはごく限られた方々のみです。
ですから、「痛みが、薄皮が一枚一枚はがれていく様に少しずつ良くなってきている。」というRSさんの実感は、彼女が快癒に向かうスイッチが入ったことを端的に象徴しています。
「先生に水氣道を勧められた時は、身体中痛い上に、心身ともに疲れ切っていて、とても行けるように思えなかった。」
私が患者さんに水氣道を勧める場合には、通常治療の反応性を観察して、予告説明をしています。RSさんの初診は2017・11初旬で、同月下旬から鍼治療を始めました。
水氣道の開始は年明け2018・2中旬で、診療開始後3か月を経ていました。
最初から寒稽古です。水氣道の寒稽古(冬季治療)はその後の一年間の稽古(治療)成果を高めるための有意義な鍛錬になります。
新しい未知の経験(稽古、治療法)に参加するためには、信頼関係の確保、一歩前進しようと決断する勇気、そして周囲の人々の理解が必要になってきます。
RSさんも、その例外ではなく、
「その上、家族の理解も得られず、逡巡とした日々が続いた。」
と吐露しています。
温水プールは30℃程度とはいえ、一年中で最も寒い季節なので、RSさんが逡巡するのも無理はありませんでした。
それでも、敢えてRSにお勧めするのは、それなりの根拠があるからに他なりません。
「しかし、先生にお叱りを受けたことがきっかけで、とまどいが吹っ切れ、また、家族の協力も受けることができ、水気道に行く一歩を踏み出すことができた。」
私の患者さんは、しばしば私から「叱られた」、「お叱りを受けた」と述懐されることがあり、そのたびに反省を繰り返しています。
ただし、「叱責された」と書かれることは皆無であることだけは幸いです。
個人的葛藤はさることながら家族間葛藤について、RSさんは貴重な実例を提供してくださっています。
家族の協力を受けることができたのは、誰の力でもなくRSさんご自身の決断によるものだということです。
同じことを別の角度でみるならば、患者さん自身の個人的な葛藤が家族間の葛藤を生み出すことがしばしばある、ということです。
つまり、家族間の葛藤が個人の葛藤の原因ではなく、個人の精神的な葛藤(苦痛と苦悩の病的癒着)が家族間の葛藤の原因となっていることに気づくことができたということです。
実際にこうした決断に踏み切った方のその後の回復は明らかです。
なぜならば、迷うことなく一歩前進することができるからです。
「とまどいが吹っ切れ、・・・水気道に行く一歩を踏み出すことができた。」
これが本格的治癒に向けての本当のスタート地点なのです。
第2回:新療法を巡る葛藤の巻(2018・8・14)
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