統合医学(東西医学、代替・補完医療)
<音響医学事始め>
<静寂は、音楽の基礎である。>作曲家の芥川也寸志先生は、その著書「音楽の基礎」(岩波新書)<音楽作品の価値は、静寂の手の中にゆだねられることになる>とも述べています。
その理由は、たとえば音楽鑑賞にとって決定的に重要な時間が、演奏が終わった瞬間、つまり最初の静寂が訪れたときだから、としています。
また交響曲を聴くとき、その演奏が完結したときに、はじめて聞き手はこの交響曲の全体像を描くことができる、とも述べています。
音は、終局的に静寂に克つことはできない(芥川)。
(なぜなら)すべての音は、発せられた瞬間から(中略)静寂へと向かう性質を持っている。
(中略)その響きはただちに減衰する音の集団である(からである)。
音楽は静寂の美に対立し、それへの対決から生まれるのであって、音楽の創造とは、静寂の美に対して、音を素材とする新たな美を目指すことの中にある(芥川)。
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皆様、いかがでしたでしょうか。
私は、杉並区内に居を移す前に、文京区本駒込に住んでいた時期があります。
最寄り駅は田端でした。文豪芥川龍之介の旧居はその途中にあり、現在は北区に属していますが、かつては滝野川区田端町435番地だったそうです。
この435という数字は1859年のパリ会議等によって国際的に決められた標準音の周波数A=435ヘルツと同じであったことを子息の也寸志氏は振り返っています。
その後、ピッチの基準は上昇し続け、現代の日本のオーケストラではA=444ヘルツ以上になっています。ピッチを高くすれば音に張りが出て、楽器では強い大きな音がだせるので、大会場には向きます。
しかし、狭い部屋で聴くのには適しません。私たちが毎週水曜日に開催している聖楽院コンサートは狭い空間なので、本来であれば昔のピッチの方が心地良く聴いていただけるはずです。
聖楽院では古典派やロマン派の音楽以前のバロック音楽も演奏するので、その際のピッチはやはり低めの方が合うと思います。
芥川氏のいう芸術的な静寂とは、全くの無音ではなく、かすかな音響が存在する音空間を指しています。
<このような静寂は人の心に安らぎをあたえ、美しさを感じさせる。音楽はまず、このような静寂を美しいと認めるところから出発するといえよう>
このような研ぎ澄まされた繊細な芸術的感性をもつ芥川氏がもし現在も存命であったなら、音楽的静寂に関して私は彼に質問したいことがあります。
それは、休止譜によってもたらされる静寂と、演奏が始まる直前の静寂についてです。
私は、音楽が始まる直前の一種独特の静寂は、演奏後の静寂と同様に音楽的かつ芸術的だと感じています。
音楽が始まっていないので音楽的というのは不合理のようですが、それでも芸術的な静寂であるとは言っても許されるような気がします。
また、ピアノの前奏から始まって、これから歌が始まろうとするときも、一種の精神的静寂を感じます。曲がはじまったときには、すでに歌も始まっているといっても良いでしょう。
曲が始まる前から、つまり、楽音がはじまる前の静寂は、物理的音響学的には、演奏者よりも聴衆によってもたらされる影響が大きいのではないでしょうか。
これから始まろうとする(実はすでにはじまっている)演奏に対して聴衆がどれだけ期待しているのか、演奏内容を予めプログラムなどで知っているのか、馴染みの楽曲なのかどうか、演奏者をどのように評価しているのか、そうしたことが演奏前の芸術的静寂を醸し出しているようにも思えます。
音は、高さ、長さ、強さ、音色、この四つの基本的な属性をもつとされます。
また、この四つの基本的な属性が決まれば一つの特定の音を規定することができるそうです。
しかし、音の強さは、音の大きさ、と区別する必要がありそうです。
なぜならば、音の強さにはデシベルという物理単位があり、音の大きさにはフォンというレベルがあるからです。
音の強さとは音波の振幅に相応し、振幅が大きいほど大きな音と認識されます。
この音の大きさについての感じ方は、必ずしも強度には相関しません。たとえば、音の強さが同一(同じデシベル)であっても、非常に短い音は、それより長い音にくらべて弱く感じられます。
音の高さは周波数で決まりますが、音の強さや音色によってかなりの差異があります。
物理的音高と心理的音高(印象的な音高)が異なるという現象は、音楽表現の上で極めて大きな意味を持っています。
たとえば、アルトの女性が歌うときに、カウンターテナーの男性が、それと全く同じ高さの音を歌うとき、女性の声は低く、男性の声は高く聞こえます。
とくに強いアルトの声による音は、弱いカウンターテナーの声による同じ高さの音より、はっきりと低く聞こえることでしょう。
なぜならば、強い音は実際の音より低く、弱い音は高く感じられるからです。
また、音の高さの判別力は音色による影響を受け、ピアノは判別しやすいのに対して、人声では遥かに難しくなります。
この事実を熟知している伴奏ピアニストは歌い手に寛大であり、根気強く支えてくれますが、無知なピアニストほど気短な傾向が観察されます。
聖楽院の公開レッスンでの協力ピアニストは、これらのことを熟知しているので、声楽レッスン生は安心して楽しく稽古が続けられ、心身の健康回復・維持・増強と芸術性の錬磨に役立っているようです。
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