一般内科(循環器・消化器・内分泌・代謝・栄養関連の病気)
<H.ピロリ菌感染の診断>
高円寺南診療所に通院中の患者さんから、最近、ピロリ菌除菌の相談が出ます。
ピロリ菌の正式な名前はヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)です。
この菌に感染すると胃・十二指腸潰瘍のみならず、胃MALTリンパ腫や胃癌にもなることがあります。
しかし、除菌治療後の除菌判定が行われていないケースが多く、
そうした患者さんを放置できないため、他の医療機関でピロリ菌の除菌を行った患者さんの除菌判定を始めることにしました。
ただし、高円寺南診療所では、ピロリ菌の除菌療法は行いません。
その理由は、除菌によるデメリットとして抗生剤による副作用や逆流性食道炎の増加、食道腺がんの発生、喘息やアトピー性皮膚炎の増加などの問題が明確に解決していないからです。
また抗生剤による副作用は軟便や軽い下痢などが10%程度に認める以外には1%以下の副作用として蕁麻疹など薬剤アレルギーなどが知られています。
アレルギーの専門診療をも担当する高円寺南診療所としては、ピロリ菌除菌によるデメリットの可能性を軽視できない立場です。
日本では、世界に先駆けてすべてのピロリ感染胃炎が保険診療での感染診断・除菌が可能となりました。
これについては日本ヘリコバクター学会ガイドライン(初版2000年)に詳しく記されています。
その後、2003年の改訂版では、除菌すべき疾患として「胃MALTリンパ腫」が加えられ、
除菌治療が望ましい疾患として、「早期胃癌に対する内視鏡的粘膜切除術後胃」、「萎縮性胃炎」、「胃過形成ポリープ」の3疾患が追加されました。
現在では、上部消化管内視鏡検査で胃炎を確認した後に、適切なピロリ菌感染診断法を実施し、
「ピロリ感染胃炎」と診断することになっています。
内視鏡下での組織生検を用いた診断法として、
1)培養法、2)迅速ウレア―ゼ試験、3)病理組織学的検査、
の3法があります。しかし、これら生検による方法では取りこぼし(サンプリングエラー)を生じやすいことが問題となります。
そこで治療の成績判定のためには別の方法が勧められます。
1)尿素呼気試験、2)便中抗原法、3)抗体測定法 の3つの方法です。
この中で、一般的には1)尿素呼気試験、2)便中抗原法がより推奨されています。
欧州のガイドラインでは、除菌判定には、これら1)、2)のいずれも同等とされています。
いずれにせよ、潰瘍後の除菌判定でなければ、急いで除菌判定をする必要はないので、
除菌効果が不確かな場合には6か月以降に再検査をすることが実際的です。
他の医療機関で、次の様な検査を受けたことがあれば、それは尿素呼気試験です。
ここでピロリ菌除菌判定について詳しく説明します。
除菌治療後には必ず除菌判定を行います。
高円寺南診療所では、他の医療機関で除菌後に除菌判定を受けずに放置されているケースが多数あるため、
他の医療機関でピロリ菌の除菌療法を受け、除菌判定を受けずにいる方の除菌判定を行っています。
除菌判定は、ピロリ菌の治療において、最も注意しなければならない点のひとつです。
除菌後、胃の中に本当にピロリ菌が存在していないのか、
それともピロリ菌がまだ存在しているのかを除菌判定によって知ることはとても重要です。
ピロリ菌がいなければ、その人の胃は徐々に健康になっていきますが、
ピロリ菌がいればまたいろいろな病気が出現する可能性が残ります。
除菌の成否は、その後の方針を決めるためにも必要な情報です。
それにもかかわらず、ピロリ菌治療の除菌判定が行われていない場合がいまだに少なくないことが問題となっています。
除菌成功率が100%の方法は存在しないので、一次・二次除菌療法も含めて、
治療後は一定期間後に除菌の成否を判定することにしています。
治療前の感染診断と違って、除菌判定で大事なことは、
「ピロリ菌が感染していないことを確実に診断すること」です。
日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、すべての治療が終了した後、4週間以上経過してから、ピロリ菌除菌に成功したのかどうか、除菌判定を行う必要があります。
この根拠は、除菌後1ヶ月経つと95%以上の症例で菌体数が回復するためです。
当院では、各報告を検討した結果、除菌判定は除菌療法終了後4週間以降、なるべく遅い時期に行うのがよいと考えています。
除菌療法終了後から除菌判定までの間隔が長いほど判定精度が高くなるからです。
高円寺南診療所では除菌判定を除菌療法終了後8週間以降半年頃までの間に行います。
当院では、除菌診断として便中ピロリ菌抗原測定法を用います。
便中抗原測定法は改良により感度・特異度共に優れた感染診断法となり、
尿素呼気試験と同等の正確さが示され除菌判定にも有用です。
尿素呼気試験(UBT)による除菌判定においては、特にプロトンポンプ阻害剤(PPI)を服用している方に対する注意が必要となります。
プロトンポンプ阻害剤(PPI)はピロリ菌の胃内分布に影響を及ぼしています。
すなわち、プロトンポンプ阻害剤(PPI)服用により、ピロリ菌感染密度は低下し、この低下は胃体部に比べて幽門部でより強くなります。
尿素呼気試験(UBT)のプロトンポンプ阻害剤(PPI)服用時の偽陰性率は6%前後と報告されています。
これに対して便中抗原法はプロトンポンプ阻害剤(PPI)服用の影響を受けないとされています。
すなわち、プロトンポンプ阻害剤(PPI)を休薬することが困難な方の除菌判定は、尿素呼気試験(UBT)よりも便中抗原法が有用です。
また、小児や胃切除後の方にも便中抗原法が用いられます。
また残胃例では尿素呼気試験(UBT)の偽陰性率が高いことが問題となりますが、
便中抗原法は他の方法に比べて正診率が高いとする報告もあり、残胃の判定にも便中抗原法が推奨されています。
プロトンポンプ阻害剤(PPI)は、逆流性食道炎の治療や、抗血小板療法・抗凝固療法を受けている虚血性心疾患や脳梗塞の患者さんの消化管出血予防としてよく使われていますが、
プロトンポンプ阻害剤(PPI)を服用していることを自覚していない患者さんも多いのです。
プロトンポンプ阻害剤(PPI)や抗菌薬などピロリ菌に対する静菌作用や抗菌活性のある薬剤の使用がある場合は、
偽陰性を防ぐためにも、少なくとも2週間、できれば4週間中止することが望ましいとされています。
当院では、必ず除菌療法前に現在の内服薬を確認しています。
高円寺南診療所での除菌判定の指針
①他の医療機関で除菌後、放置されている患者さんの対応をします。
②他の医療機関で除菌療法を受けた方の除菌判定を行います。
③除菌判定を除菌療法終了後、8週間以降に行っています。
④除菌診断として便中ピロリ菌抗原測定法を用います。
⑤除菌判定に備えて、必ず除菌療法前に現在の内服薬を確認しています。
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