内科認定医、心療内科指導医・専門医 飯嶋正広
血液病学と循環器病学の接点
<抗血栓療法の微妙な戦略>No4
抗凝固薬の微妙な使い分け
急性心筋梗塞、脳血栓症、肺塞栓症などでは、血栓を溶解することにより血流を回復させることが必須になります。そうした治療目的で使われるのが血栓溶解薬です。ウロキナーゼや組織プラスミノーゲンアクチベータ(t-PA)がその代表です。
また、形成された血栓の進展防止、血栓症の予防ないしは再発防止の目的でつかわれるのが経口抗凝固約であり、ヘパリンやワルファリンを用います。とりわけ心房細動例では血栓塞栓症予防が重要な管理課題となるため、綿密なリスク評価がなされます。
その際に広く用いられているのがCHADS₂スコアというリスク評価スコアです。年齢以外は、すべて重要な関連をもつ基礎疾患の有無によってスコア化されます。
このスコアの合計点は抗凝固療法を検討する上で参考にすることができます。
スコア2点以上で、抗凝固療法推奨、
スコア1点以上で、抗凝固療法を考慮若しくは推奨
という基準が広く受け入れられたいます。
抗凝固療法としてワルファリンを用いる場合は、プロトロンビン時間を指標にします。
それはワルファリンに対する感受性には個人差が大きく、出血リスクが高い場合があり、またワルファリンは他薬の影響を受けやすい特徴をもつからです。
プロトロンビン時間PT(prothrombin time)は、血液の凝固因子に関する指標の一つです。専門的には凝固プロセスの外因系及び共通系の凝固異常を判定する検査として用いられています。
プロトロンビン時間の国際標準比であるINR(PT-INR)が1.6~2.6(ただし、若年のハイリスク症例では2~3)になるよう投与量を調節します。
なお、ビタミンK₂投与中の患者さんは、ワルファリンを投与しなければならない場合には、ビタミンK₂を中止しなければならないので、骨粗鬆症の治療のためにビタミンK₂製剤(グラケー®、後発品メナテトレノン®)を内服している方は注意が必要です。ちなみに、杉並国際クリニックでは、骨粗鬆症の治療のためにビタミンK₂製剤を処方する場合には、脳血管系障害リスクが低い方のみに限定しています。
ただし、非弁膜性心房細動による脳卒中の予防に用いられる直接経口抗凝固薬(DOAC)は、ワルファリンと比較し、脳出血の品動画少ないというメリットがあり、上記のINRのモニターも不要です。ただし、DOACのなかでダビガトランは活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)のトラフ値が80秒以上、また同じく、リバーロキサンではPT値が20秒以上でそれぞれ出血性合併症が増加します。
いずれにしても、抗血栓薬の重大な副作用は過剰投与による出血です。しかし、どの程度が過剰量になるかは個人差が少なくありません。たとえば、高血圧患者などでは特に注意が必要です。その場合、頻回の凝固学的検査及び貧血の有無の確認のための血算の評価が必要になります。
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