5) 降圧薬の選択と降圧治療の最終目標

 

高血圧治療の最大の目的は、脳心血管病予防です。この中には、脳卒中や心筋梗塞だけでなく、生活機能に影響する心不全や末期腎不全も含まれています。

 

服薬継続はこの目的達成に必須です。しかし、そのためには、患者自身の治療目的の理解、認知機能の把握や服薬指導が重要です。

 

中年期からの降圧治療は認知症の予防のために有益です。そして、高齢者になってからの治療の有用性も確立しています。その一方で、高齢者は多病であり、循環動態においても多様性が大きいという特徴があります。
そのため、合併症の存在に応じた降圧剤の厳格化が必要と考えられる場合もあれば、厳格な降圧によって腎機能障害等の危険度が増す場合もあります。ですから、一律に厳格な降圧を目指すのではなく、フレイルの程度、認知機能、QOLならびに服薬管理能力等の個々の事情を勘案して個別の目標を立てる必要があります。

 

高血圧治療率と適切な管理率の向上とともに、高血圧発症予防がますます求められるところです。杉並国際クリニックの事業として継続している水氣道®ならびに聖楽院での聖楽療法が、高血圧の予防から管理、脳心血管病予防さらには健康寿命の延長に大きく貢献していることを、これまで以上に明確に示していきたいところです。

 

<脳心血管病予防のための血圧管理(完)>

4) 二次性高血圧のスクリーニング高齢者の降圧目標

 

高血圧は正確な血圧値を診断し、高血圧基準を参照して評価すれば診断が可能です。しかし、ほぼ同程度の血圧値であっても、高血圧の原因によって臨床的な意義が大きく異なることがあります。つまり、高血圧の評価は、血圧値という数量のみではなく、質的な吟味が必要になってきます。

 

特に注意喚起が必要な高血圧として、二次性高血圧があります。高血圧の質的評価のためには、この二次性高血圧のスクリーニングが必要です。治療を試みてもなかなか高血圧がコントロールできないケースを治療抵抗性高血圧といいますが、その場合は、精査して何らかの二次性高血圧に該当していないかどうかを鑑別しておかなければなりません。

 

以下に、比較的頻度が高い二次性高血圧を列挙してみます。

 

 

(1) 原発性アルドステロン症

これは、若年者高血圧に多く見られ、Ⅱ度以上の高血圧もしくは低カリウム血漿などの特徴を有します。ですから、若年者、中等症以上の高血圧、治療抵抗性高血圧、低カリウム血症のいずれかがみられる場合は、血漿アルドステロンとレニン活性を測定します。専門的には血漿アルドステロンとレニン活性との比率で診断することができます。

 

(2) 腎実質性高血圧
慢性腎臓病(CKD)に関連する高血圧です。これにはCKDが高血圧の主原因(腎実質性高血圧)の場合と、高血圧とCKDが併存している場合の二つのタイプがあります。ただし、臨床的には、いずれのタイプもCKD合併高血圧として対応します。

 

(3) 腎血管性高血圧

腎血管の形態的異常や機能的な異常が原因となっている高血圧です。腎臓エックス線検査やドプラー法を含めた腎臓超音波検査までは、杉並国際クリニックで実施可能ですが、より詳しい腎血管の形態学的検査としてCTアンギオグラフィや機能的な検査として腎レノグラム等を必要とするときには、検査実施可能な医療機関に紹介することになります。

 

(4) その他の二次性高血圧

その他にも多数の二次性高血圧がありますが、当クリニックでしばしば経験するのは、睡眠時無呼吸症候群に伴う高血圧と薬物の副作用としての高血圧です。

 

治療抵抗性高血圧の中で比較的頻度が高く、最近増加傾向にあるとの印象をもっているのが睡眠時無呼吸症候群です。いびき、肥満、昼間の眠気ならびに早朝・夜間高血圧等が検査をするきっかけとなります。ただし、正確な診断と重症度分類は、睡眠ポリグラフィ―検査を行なえる医療機関に委ねます。

 

多くの二次性高血圧の診断でカギとなるのは問診です。とくに基本となるのは薬物使用歴です。漢方専門医の一人として、日頃注意しているのは、甘草を含む漢方薬です。また、他の整形外科を受診者にしばしば見出されるのは、非ステロイド性抗炎症薬による高血圧です。また、最近とみに増えてきていると感じられるのは、健康補助食品による偽アルドステロン症です。医師から処方された薬剤に対する不信感の強い方で、サプリ付けの方が見出されますが、そうした方々の中に、薬剤誘発性高血圧を発見することも少なくありません。

      

<明日に続く>

1) 3つの血圧測定法と高血圧基準

 

正確な血圧値を診断することは、高血圧診断の前提となります。それでは、測定した血圧値が信頼に足るデータである場合に、それらを、どのようにして高血圧の診断に結びつけるのでしょうか。高血圧と診断する基準がありますが、これは血圧測定法によって異なります。

 

高血圧基準は、診察室血圧140/90㎜Hg以上、家庭血圧135/85㎜Hg以上、24時間自由行動下血圧の24時間平均130/80㎜Hg以上、昼間平均135/85㎜Hg以上、夜間平均120/70㎜Hg以上です。

 

ふつうは、診察室血圧と家庭血圧の2つの方法で十分ですが、24時間自由行動下血圧は、家庭血圧が測定できない場合や家庭血圧の変動が大きい場合等に行います。

 

「高血圧治療ガイドライン2019」(JSH2019)では、診察室血圧140/90㎜Hg未満においても、120/80㎜Hgを超えれば脳心血管病のリスクが増大することを強調しています。そして、特に130~139/80~89㎜Hgレベルを「高値血圧」と新しく命名しました。この「高値血圧」では、積極的に生活習慣修正が図られるべきであることに留意します。つまり、高血圧の診断に至る前の未病の段階からの指導が大切であることを意味しています。

 

<明日に続く>