神経・精神・運動器の病気

 

テーマ:悪性腫瘍に伴う神経疾患

 

 

医療において、自覚症状は、全ての原点です。

 

他覚所見とは異なり、自覚症状は患者さん本人しかわからないからです。

 

患者さんが、特定の症状を無視していたり、軽視していたりする場合があるので、

 

臨床医はそれを探りださなければなりません。

 

 

<左趾(あしゆび)がビリビリして痛い>という漢方治療希望の新婚の30代の主婦のことは、今でも忘れられません。

 

この患者さんは、最初は、冷えの相談でいらしていましたが、

 

ある日、感覚の鈍麻、痛みがあることを問診で確認しました。

 

整形外科で診てもらっても<骨に異常はない、気のせいではないか>と言い放たれて以来、

 

みずからも症状を無視するようにしていたのだそうです。

 

しかし、その症状は徐々に拡がり、足関節の一感覚や振動覚が徐々に障害されていきました。

 

冷えは訴えていましたが、温度感覚は比較的よく保たれていました。

 

 

腰椎を含めてエックス線検査では全く異常を認めないため、

 

脊髄周囲の精密検査をはじめ骨盤内の病気、

 

たとえば子宮・卵巣などの婦人科の病気、膀胱などの泌尿器科の病気、S状結腸や直腸などの消化器の病気について、

 

詳しく調べことを勧めましたが、あまり乗り気ではなく、その後、プツリと外来に来られなくなりました。

 

 

それから一年後のことでした。彼女の夫が、打ちひしがれた様子で診療所に来院されました。

 

左卵巣がんの末期だったことが判明して、1ヶ月後に亡くなったとのことで、とても残念でなりませんでした。

 

「先生には的確なアドヴァイスをいただいておりながら、

 

それを活かすことができず申し訳ありませんでした。」とおっしゃるご主人が気の毒でなりませんでした。

 

 

この主婦の症状は、癌性ニュロパチー(癌による感覚障害を主とする神経症状)です。

 

これは、腫瘍組織の浸潤、圧迫などの直接の影響によるものではなく、

 

何らかの遠隔効果によるものではなかったかと考えています。

 

だから、整形外科を受診しても原因が見つからなかったのでしょう。

 

最近では、傍腫瘍性神経症候群として、癌の合併による神経障害のうち、

 

免疫学的機序にもとづくものを総称するようになりました。

 

 

本症の特徴としては、血液・髄液中に主要組織の抗原に対する抗体が出現することです。

 

本症の90%で陽性となります。

 

 

治療法は、原因となる癌の治療、ステロイド大量療法、血漿交換法、免疫グロブリン大量療法などですが、

 

この主婦の場合、肝心の卵巣がんが進行していたため、根治療法のタイミングを逸してしまったことになります。

 

 

このケースでの詳細は不明ですが、卵巣がんをはじめ、乳がん、肺小細胞がんなどには、

 

傍腫瘍性小脳変性症を合併することがあり、

 

また、一般に悪性腫瘍では血液の異常に固まりやすくなり(トルーソー症候群:凝固能異常)、脳梗塞を生じることがあります。

 

 

内分泌・代謝・栄養の病気

 

テーマ:バゾプレッシン不適合分泌症候群(SIADH)

 

 

<体がだるくて食欲もない>という経験は誰にでもあるのではないかと思われます。

 

この患者さんは、他の精神科(本人は、心療内科と言っている)を受診して抗うつ薬をもらっているとのことでした。

 

ところが、先日、その精神科医に最近、全身倦怠感と食欲不振が徐々にひどくなってきたことを伝えたところ、

 

「思った以上にうつ病が悪化しているので、抗うつ薬を増やしましょう」とのことで、

 

薬を増やしてもらったのに、かえって調子が悪くなってきたので助けて欲しいとのことでした。

 

 

この患者さんが内服していた抗うつ薬は

 

比較的新しいタイプの抗うつ薬ですが、容量も妥当な範囲でした。

 

ただ、不安も強くて、常に水を持ち歩いているとのこと。

 

念のため、毎日どのくらい水を飲んでいるのかを尋ねると3Lほど、とのことでした。

 

身体にむくみはみられません。それもこの種の患者さんとしては、特別な傾向ではありません。

 

統合失調症の患者さんでも、そのような行動をとる方もありますが、そのような兆候もありません。

 

 

そこで、血圧を確認してみると84/52mmHgと低め、脈拍数は54で徐脈でした。

 

次に血液と尿の検査を行ってみました。

 

すると、血清ナトリウムは133mEq/Lと明らかな低ナトリウム血症でした。

 

血清カリウムや腎機能は正常でした。

 

これに対して尿中のナトリウム濃度は25mEq/Lでした。

 

血液中のナトリウム濃度が低い原因は、

 

尿へのナトリウム排泄量が亢進しているためであると考えられます。

 

 

この場合、診断にためには、低ナトリウム血症を来すすべての病気が対象となります。

 

水分摂取過剰により、血液中のナトリウムが希釈されることがありますが、

 

3L程度の水を毎日飲んでいる痛風患者などはザラにいます。

 

それでも血液が異常に希釈されることはまずありません。

 

また、がんなどの悪性腫瘍や中枢神経疾患、肺病などが知られていますが、薬の副作用の可能性もあります。

 

薬の中にはAVP(アルギニン-バゾプレッシン)という抗利尿ホルモンの分泌を刺激したり、

 

あるいは腎臓の尿細管でのAVPの作用を増強したりするものを服用している場合には要注意です。

 

その他、この患者さんが内服していたパロキセチンという抗うつ薬には、

 

バゾプレシン不適合分泌症候群を引き起こすことがあります。

 

つまり、この薬の抗利尿作用により、利尿がつかず、

 

体液が過剰に貯留させてしまうことがあるわけです。

 

 

そこで、パロキセチンによるバゾプレッシン不適合分泌症候群(SIADH)を疑い、

 

パロキセチンの段階的中止を主治医(精神科医)と相談するように勧めました。

 

ところが、うつ状態の増悪と主治医との関係性の悪化を怖れるこの患者さんの了解は得られませんでした。

 

そこで、念のため、この患者さんの水分貯留の経過は急性ではなく慢性であるため、

 

飲水制限と塩分摂取を勧めましたが、やはり反応が不良でした。

 

 

その後、この患者さんは、主治医から再度パロキセチンの処方を増量されましたが、

 

辞退してきたので、助けてほしい、との願いを受けたため、

 

パロキセチンの段階的中止を実施することができました。

 

 

その後、急速に改善し、体が軽くなり、食欲も湧き、自然に飲水量も少なくなりました。

 

また、永らく患ってきた鬱状態も軽快しました。

 

呼吸器 / 感染症 / 免疫・アレルギー・膠原病

 

テーマ:感染症法

 

 

感染症の中には、感染症法という法律の対象となるものがあります。

 

それは感染症に対応して、適切な措置を講じないと社会的なパニックと危機が生じてしまうからです。

 

 

対象となる感染症は、感染力や罹患した場合の重篤性など

 

総合的な観点からみた危険性の高い順から5つの類型(平成28年11月改訂)に分類されます。

 

いずれも消毒等の措置は必要です。

 

 

1類感染症(7疾患)・・・原則として入院(知事には強制入院させる検眼があります)、

 

2類感染症(7疾患)・・・状況に応じて入院、

 

3類感染症(5疾患)・・・特定職種への就業制限、

 

4類感染症(44疾患)・・・媒介動物の輸入規制、

 

5類感染症(48疾患)・・・発生動向調査です。

 

 

以上のうち1類から4類までの感染症は全数把握のため診断後直ちに、

 

保健所長を経由して知事に届け出る必要があります。

 

 

5類感染症のうちの22疾患も全数把握のため、

 

診断後7日以内に、保健所長を経由して知事に届け出る必要があります。

 

5類感染症のうちその他の26疾患は定点把握のみをします。

 

 

かつて、結核については<結核予防法>は平成19年度末に廃止され、

 

2類感染症として感染症法に統合されました。

 

他の2類感染症としては、ポリオ、ジフテリア、鳥インフルエンザなどがあります。

 

また、3類感染症の5疾患は腸管出血性大腸菌感染症、コレラ、細菌性赤痢、腸チフス、パラチフスです。

 

 

この感染症法と並行して、新興感染症再興感染症輸入感染症が問題になっています。

 

 

とくに、<輸入感染症>とは、日本には常在しないか、

 

あっても稀な病原微生物が海外旅行、海外居住者の来日、輸入動物、輸入食品によって国外から国内に持ち込まれ、

 

国内で伝染性感染症を引き起こす場合をいいます。

 

 

高円寺地区には、上記に該当する患者さんのケースが極めて多いため、

 

特別な準備と配慮が必要であると考えています。

 

 

海外出向者向けの予防接種等の対応を充実させていく予定です。

 

消化器系の病気

 

テーマ:劇症肝炎

 

 

<熱が出て、お腹が痛くて、頭がぼんやりする>という初診の患者さんの症状は、高円寺南診療所では、ごく普通です。

 

しかし、これが、ときとしては普通でない病気のことがあるので要注意です。

 

その病気は、生存率約50%で、特定のタイプに該当する場合の生存率は10~20%です。

 

 

高円寺南診療所では、初診時に血圧および脈拍体温の測定をしてから

 

診察室にはいっていただき、診察の際は呼吸を観察しています。

 

これらをバイタルサインといい、早期の的確な診断のためにとても重要です。

 

一般尿検査は、これに準じると考えます。

 

これらと同時に患者さんの訴え(主たる自覚症状)をもとに状況の変化を観察することにしています。

 

(残念なことですが、最近では、この最低のチェックすら協力的でない患者さんがいらっしゃいます。

 

現場の医療上の大きな問題であると苦慮しています。)

 

 

臨床医(医療の現場の医師)は五官(五感)をフルに働かせ、場合によっては第六感

 

(視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の五感を超えた不思議な感覚)ですら働かせなければならないことがあります。

 

たとえば、この患者さん、何となく肌が黄味がかっている(黄疸:視覚)、

 

赤紫色のあざがある(出血傾向:視覚)、むくみがある(浮腫:視覚・触覚)、

 

独特な口臭を放っている(肝性口臭:嗅覚)、

 

腹部を診察して肝臓が委縮している(肝萎縮:触覚・聴覚)などによって、

 

肝臓病による一連の症状であることの見当がつけば、

 

神経症状である意識障害の程度を見極めます。

 

羽ばたき振戦を認めれば肝不全による意識障害であることが推定できます。

 

 

外来にひとりで歩いて受診される方は、非昏睡型といって意識障害は軽度ですが、油断はできません。

 

初発症状が出現してから11~56日以内に昏睡に陥れば、亜急性型の急性肝不全(劇症肝炎)であり、

 

これが、先ほど触れた、生存率10~20%のタイプなのです。

 

黄疸が現れても全身倦怠感や食欲不振が改善しない場合には、

 

急性肝不全を予知しなければなりません。

 

原因の半分はウイルス性(主に、B型肝炎ウイルス)で、自己免疫性、薬剤性と続きます。

 

3ヶ月ほど前に会社の人間ドックを受けたという患者さんで、

 

その際に肝機能が正常だったからといって、肝障害の診断を受け入れない方があり困ったことがあります。

 

 

少し専門的な話になりますが、正常な肝臓に急性で高度な肝障害を生じ、

 

初発症状の出現より8週(56日)以内にPT延長(40%以下)ないし、INR1.5以上を示すものが急性肝不全(劇症肝炎)です。

 

PTとは、プロトロンビン時間のことで、外因系凝固活性化機序を反映する検査です。

 

PTが延長することと、INRが上昇することは同じ内容で、血液が凝固せず出血傾向となります。

 

 

この病気の合併症として、肺炎が最も重要であり、

 

他に、腎不全、脳浮腫、消化管出血などが死因につながります。

 

尚、治療法は、輸液による全身管理、血液透析、肝移植などです。

血液・造血器の病気

 

テーマ:血球貪食症候群

 

発熱・倦怠感で発症する病気は、とても多く、ほぼ毎日、こうした症状の患者さんを診ています。

 

熱が出てだるくなってから、次第に、ささいなことで出血しやすくなり、貧血となり、

 

感染症にかかり易くなると、風邪あるいはインフルエンザなどの感染症と区別しなくてはならなくなります。

 

しばしば、肝不全やDICを伴い生命にかかわる重篤な状況に陥ります。

 

このDICとは播種性血管内凝固症候群の略称で、

 

これは、さまざまな重症の基礎疾患のために過剰な血液凝固反応活性化が生ずるため

 

生体内の抗血栓性の制御能が十分でなくなり、

 

全身の細小血管内で微小血栓が多発して臓器不全、出血傾向のみられる予後不良の病気です。

 

 

風邪症状が長引き、全身症状が出現する場合の診断のポイントは、

 

小児であれば、ウイルス感染や急性リンパ性白血病などの可能性の見極めですが、

 

成人の場合は悪性リンパ腫や自己免疫疾患の可能性の見極めをしなければなりません。

 

 

貧血の有無は、患者さんの瞼(まぶた)をひっくりかえしてみれば、おおよその見当がつきます。

 

治療が必要な程度の貧血では、瞼の結膜に赤みが失せていて青白くなります。

 

貧血ありの場合は血液検査をします。

 

赤血球、白血球、血小板という3系統のうち、2系統以上の血球が減少していたら、汎血球減少の進行を疑います。

 

その他、血清フェリチンが高値、血液関連の酵素であるLDHの高値を確認します。

 

骨髄検査は、紹介状を書いて入院を前提として実施していただきます。

 

 

悪性リンパ腫やウイルス感染などが引き金となり、

 

マクロファージ・組織級が活性化されると、自己の血球の貪食をはじめます。

 

マクロファージ(Macrophage, MΦ)とは白血球の1種です。

 

生体内をアメーバ様運動する遊走性の食細胞で、死んだ細胞やその破片、

 

体内に生じた変性物質や侵入した細菌などの異物を捕食して消化し、清掃屋の役割を果たします。

 

このマクロファージなどから種々のサイトカインが分泌されることによって、

 

血球減少、高熱、肝臓・脾臓の肥大、血液の凝固の異常がもたらされます。

 

これが血球貪食症候群です。

 

 

診断さえ確定すれば、治療選択は比較的容易です。

 

 

中毒・物理的原因による疾患、救急医学

 

テーマ:無機鉛中毒

 

 

鉛中毒は、重金属中毒のうちで、最も身近な中毒です。

 

最も身近な中毒だからといって、診断は容易ではありません。

 

鉛中毒の代表的な症状は3つあります。

 

①貧血、② 腹痛、③ 運動神経麻痺です。

 

 

このそれぞれの症状に対応した精密検査を行っても

 

①貧血は低色素性小球性貧血なので、鉄欠乏性貧血との鑑別が必要です。

 

赤血球の検査では、赤血球中ALA-Dの活性低下、赤血球プロトポルフィリン増加を認めますが、

 

この検査は、そもそも鉛中毒と診断されない限り行われません。

 

環状鉄芽球を伴う鉄芽球性貧血をきたしますが、

 

これが検出されても鉛中毒診断に結び付かないこともあるでしょう

 

 

②腹痛は鉛疝痛と呼ばれる特徴的な痛みで、食欲減退、便秘、下痢などさまざまな消化器系症状を伴いますが、

 

これらの症状だけで鉛中毒を疑う内科医は皆無に近いと思います。

 

③知覚神経より、運動神経障害が主であること、

 

末梢運動神経麻痺は筋肉痛、筋力低下を伴い、とくに伸筋麻痺が特徴です。

 

そのため、手足の下垂が観察されます。

 

これを観察して無機鉛中毒を疑う整形外科医や神経内科医も、実際には極めて少ないと思います。 

 

なお、中枢神経系の障害として、小児では鉛脳症が知られていますが、

 

これを知っている小児科医もわずかだと思います。

 

無機鉛中毒の正しい診断に辿り着くためには、

 

職場環境を十分に問診しているかどうかにかかっているといっても過言ではないでしょう。

 

発生する職場は限られていて、蓄電池(バッテリー)製造をはじめ、

 

クリスタルガラス製造、七宝焼、塩化ビニル加工等です。

 

侵入経路は経気道(粉塵またはフューム)が主、他に経口、骨に蓄積します。

 

無機鉛は赤血球に含まれる血色素の構成成分であるヘムの合成が障害されるために、

 

赤血球中ALA-Dの活性低下や赤血球の寿命が短縮することで貧血をきたします。

 

 

結論:予防と詳しい問診が肝心:予防は職場の換気を改善することのみです。

神経・精神・運動器

 

テーマ:意識障害閉じ込め症候群

 

 

ある日、突然、体を自らの意思でほとんど動かせないが、感覚系は正常で意識ははっきりしている状態に陥ったとしたら、

 

どのようなショックを受けることでしょうか。

 

動かせるのは目の開閉、したがって瞬きなどによって意思疎通をはかることは可能ではあります。

 

眼球の垂直運動も可能です。

 

 

これは、脳幹の橋(キョウ)という部分の底部の障害で、

 

四肢および下位の脳神経が麻痺する病気で、閉じ込め症候群といいます。

 

圧倒的に多い原因は、底動脈の閉塞による橋の脳梗塞です。

 

動脈硬化症の恐ろしさの一つの例証です。

 

高円寺南診療所では、動脈硬化症の疑いのある患者さんには、

 

頚動脈超音波検査(エコー検査)を受けていただいております。

 

 

頚動脈の動脈硬化は、脳動脈硬化を反映すると考えてよいでしょう。

 

早期の適切な検査によって脳梗塞を予防することは、とても大切なことだと考えております。

 

 

意識には『覚醒』『自分自身と外界の正確な認識』という二つの要素があります。

 

このどちらかが障害され場合、つまり、覚醒レベルの低下、または意識内容の病的変化、を意識障害といいます。

 

 

意識障害の原因は、脳幹部、視床、視床下部、両側大脳皮質の広範な障害などにより生じます。

 

 

急性期の意識障害の程度を評価するにはJCS(日本昏睡尺度)、

 

GCS(グラスゴー昏睡尺度)などが適しています。

 

 

JCSは覚醒レベルを数字で評価します。

 

刺激なしで覚醒していればⅠ、刺激で覚醒すればⅡ、刺激しても覚醒しなければⅢ

これを細かく評価するならば、

 

例として、<普通の呼びかけで開眼する場合>・・・とりあえず刺激を与えての覚醒ですからⅡに分類されます。

 

ただし、Ⅱの中でも意識障害のレベルが最も軽いと判断されるのでⅡ-10と表記されます。

 

大きな声または体をゆさぶるなどの刺激が必要であればⅡ-20、

 

痛み刺激と反復呼びかけなど強い刺激を要すればⅡ-30です。

 

 

GCSは意識に関する3つの機能のそれぞれを点数化し、合計点で評価します。

 

開眼機能(E4~1)、言語機能(V5~1)、運動機能(M6~1)

 

例として、<呼びかけに開眼し、会話の内容はつかめないが、指示には従える場合>・・・

 

<呼びかけに開眼する>E3、<会話の内容はつかめない>V4、<指示には従える>M6

 

これによってGCS得点は13点となります。

 

内分泌・代謝・栄養の病気

 

テーマ:尿崩症

 

 

体の病気なのか、心の病気なのか、患者さん自身ばかりでなく、医師も判断がつかないために、

 

<いろいろな病院でたらいまわしされた挙句、高円寺南診療所に辿りつきました>

 

というケースに尿崩症があります。

 

 

この病気の症状は、やたらに喉が渇き、そのためたくさんの水分を摂取し、

 

その結果、大量の排尿が続く病気です。これは、まず心因性多飲症との鑑別が重要です。

 

 

まず心因性多飲症は、何らかの心理的要因のために多飲行動を続けるもので、

 

多尿はその生理的な結果に過ぎません。多飲は心理的葛藤の代償行為、

 

口渇感や口腔内違和感の解消行為の他、統合失調症の強迫飲水などが代表的です。

 

これは、医師がこの病気を疑うかどうか、

 

 

その前提として、心因性多飲症の知識と診療経験があるかどうかにかかっています。

 

心療内科専門医は全国に120名ですから、見落とされやすい病気であることもうなずけます。

 

仮にこの病気を熟知していて、必要な診療を続けようとしても、

 

こうした患者さんの多くは、表面的な体の症状に伴う多飲行動であることを

 

強く主張するので、専門医を悩ませます。

 

 

ただし、飲水制限に協力していただければ、

 

その結果、尿量が減少するので、尿崩症ではないことを説明することは可能です。

 

 

さて、この心因性多飲症を除外できた場合に、直ちに尿崩症を疑うかというと、そうではありません。

 

糖尿病や高齢者に多い脱水などの可能性が高いからです。

 

この場合、尿検査で尿糖が陽性であるか、また、尿の浸透圧を調べます。

 

糖尿病での利尿反応は浸透圧によるものであり、300mOsm/Kg以上です。

 

逆に300mOsm/Kg未満であれば、水利尿であり、ここではじめて尿崩症を疑います。

 

 

尿崩症の症状である多尿は、1日3リットル以上にも及びます。

 

これは腎臓の集合管という組織の水再吸収の障害が直接の原因となっています。

 

 

これにはアルギニン・ヴァゾプレッシン(AVP)という抗利尿ホルモン

 

もしくはその受容体(V2受容体)が関与しています。

 

 

脳の視床下部や下垂体後葉の障害により、

 

下垂体後葉から分泌されるはずのアルギニン・ヴァゾプレッシン(AVP)の

 

分泌が低下して多尿となるのが、中枢性尿崩症。

 

 

これに対して、AVPの分泌は正常だが腎臓の集合尿細管のV2受容体の障害のために、

 

AVPの刺激に対して反応性が低下して多尿となるのが、腎性尿崩症。

 

 

中枢性尿崩症と腎性尿崩症の鑑別のカギとなるのが、DDAVP(ヴァゾプレッシン誘導体)試験です。

 

DDAVPは抗利尿ホルモンAVPと同様の作用をもつため、

 

AVP分泌障害が原因である中枢性尿崩症では、尿量が減少し、

 

また尿の浸透圧が上昇(濃縮尿)が観察されます。

 

 

腎性尿崩症は、これに反応しません。

 

 

いかがでしょうか。単なる内科医でもなく精神科医でもない、

 

心身医学を専門とする現場の臨床医がもっと必要だとは思いませんか。

 

医師不足は深刻ですが、それは数の不足というよりは、質の不足、

 

あるいは、現場に対応できるトレーニングの不足だと私には思われます。

 

心臓・脈管 / 腎・泌尿器の病気

 

テーマ:QT延長症候群とトルサーデ・ドゥ・ポアントゥ

 

 

高円寺南診療所は、どうした因縁か、平成元年開設以来、

 

発作性の病気をもつ患者さんを多数診療してきました。

 

発作とは、一時的に起こる病気の症状のことですが、正しく理解していただかないと困ります。

 

 

<予防に勝る治療なし>と言われて久しいですが、

 

多くの医師も患者もなかなか実行できていないのが現状です。

 

発作性の病気の多くは、発作と発作の間の無症状のときの治療こそが肝心要ですが、

 

それが守れずに、夜間や休日に救急搬送されているのが現実です。

 

 

私が、平成元年に当地で開業して以来、近所での救急車のサイレンを多く耳にしてきました。

 

高円寺とは、そういう土地柄なのだろうな、と覚悟した次第です。

 

 

 

この発作性の病気の例を挙げてみましょう。

 

意識消失発作、頭痛発作、てんかん発作、眩暈(めまい)発作、耳鳴り発作、

 

胸痛発作(狭心症・肋間神経痛)、不整脈発作、喘息発作、過換気発作、パニック発作、

 

ヒステリー発作、腹痛発作(過敏性腸症候群)、低血糖発作、ヒステリー発作・・・、

 

これらは高円寺南診療所では日常的に経験しております。

 

おそらく、このコラムをお読みになっている患者の皆様の中には、

 

思い当る方も少なくないはずです。

 

 

一番の問題は、発作があるとき、つまり、症状が現れているときだけが病気である、という思い込みです。

 

この思い込みがあると、症状が消えると、病気が治ったものと考えがちです。

 

人間の心理としては、<不快>より<快>をもとめますから、

 

<治ったもの>と思い込んだ方が、その場は安心でき、気分は<爽快>かもしれません。

 

しかし、これが、とんだ命取りになることがあるのです。

 

 

さて、今回のテーマであるQT延長症候群(-えんちょうしょうこうぐん)は、

 

心臓の病気です。これは、心臓に器質的疾患を持たないにもかかわらず、

 

心電図上でQT時間の延長を認める病態です。

 

心臓の収縮後の電気的異常により、心室頻拍

 

(Torsades de Pointes:TdP、トルサデ・ドゥ・プアンテ、多形性心室頻拍という心室性不整脈の一種)が生じ、

 

致死的な不整脈である心室細動出現のリスクを増大させます。

 

これらの症状は、動悸、失神や心室細動による突然死につながる可能性があります。

 

症状は、条件のサブタイプに応じて、様々な刺激によって誘発されます。

 

 

心電図は、心臓の電気的な活動の様子をグラフにしたものです。

 

心臓の電気的な活動は、心臓の機械的な活動(ポンプ機能)の周期に対応しています。

 

心電図のグラフの波形は、P波からはじまって、

 

通常はQ波、R波、S波、T波、場合によってはU波までを記録し、

 

次のP波に続くまでが1周期で、心臓の1回の拍動の時間に相当します。

心電図

 

 

上記は、正常な心電図のモデルですが、QT延長症候群では、QT間隔が正常より広くなっています。

 

原因には、先天性のものと、後天性のものがあります。

 

後天性のQT延長症候群で最も多いのが薬剤性のものです。

 

何と、特に抗不整脈薬のいくつかが有名で、抗菌剤、向精神薬なども原因となります。

 

 

ですから、循環器の専門医、とりわけ不整脈の専門医の多くは、

 

外来では昔ほど抗不整脈薬を処方しないはずです。

 

催不整脈作用により、かえって致死的な不整脈を来すことを知っているからです。

 

 

無知ということは、恐ろしいことであり、

 

患者の心臓をチェックせずに安易に抗菌剤を処方する一般医、

 

身体には無関心な精神科による向精神薬投与などは、今後も問題になることでしょう。

 

 

徐脈といって、脈拍数が減少すること自体がQT延長をきたすことも忘れてはなりません。

 

 

高円寺南診療所では、自然療法(非薬物療法)の方針の一環として、

 

水氣道®を推奨していますが、参加準備にあたり、必ずフィットネス検査を行っています。

 

その中には負荷心電図もあります。陸上から水中に移った場合、

 

一過性に徐脈になることがあるので、安全性の確認のためには必須であると考えています。

 

 

発作を引き起こすその他の原因には、

 

電解質異常とくに、血液中のカリウム、カルシウム、マグネシウムの濃度のいずれかが低下している場合です。

 

これはアシドーシスといって、

 

体が酸性に傾くような状態、心筋梗塞や心不全をはじめ、

 

睡眠不足、過労、糖尿病、呼吸不全などが想定されます。

 

 

 

後天性のQT延長症候群の治療状のポイント:

致死的不整脈である多形性心室頻拍(Torsades de Pointes:TdP、トルサデ・ドゥ・プアンテ)の予防に尽きます。

 

なにより、この不整脈が発生するような原因を除去することが基本中の基本です。

 

ふだん徐脈性不整脈を伴っている場合には、予めペースメーカーの植え込みを行います。

 

呼吸器 / 感染症 / 免疫・アレルギー・膠原病

 

テーマ:石綿肺

 

 

高濃度の石綿(アスベスト)の吸入による呼吸器疾患です。

 

診断には職業歴が重要な手がかりとなります。

 

 

この病気の方の診断の上で、指が決め手になったことがあります。

 

喫煙者でもあり、聴診器を当てる前から、呼吸雑音が聴かれたため、

 

動脈血酸素飽和度計測のため指を確認したところ、指の先端が丸く膨らんだ、ばち状の指でした。

 

 

そこで、呼吸機能検査をしてみると、肺活量が極端に少なく、拘束性障害を認めました。

 

胸部レントゲン検査では、両側の肺の底部外側部に微細な線状・網状の影がみられ、

 

胸膜の肥厚も認めました。

 

 

その症例は、肺癌合併例でした。高濃度の石綿に長期間晒されていたうえに、ヘビースモーカーでした。

 

 

石綿肺の合併症として重要なのは、肺癌悪性中皮腫であり、

 

肺癌のリスクは喫煙により相乗的に高まることが知られています。

 

 

肺組織中のアスベスト小体を証明すれば確定診断ですが、

 

実際にアスベストの混じった粉人を顕微鏡で直接確認したのは、

 

医師になってから、以下の国家資格を取得後の技能講習会でした。

 

 

第一種作業環境測定士鉱物性粉じん

 

作業環境測定士講習修了証:第日測 粉〇八〇四五号(平成二十年八月一日)