日々の臨床 4月10日 月曜日 

中毒・物理的原因による疾患、救急医学

 

テーマ:無機鉛中毒

 

 

鉛中毒は、重金属中毒のうちで、最も身近な中毒です。

 

最も身近な中毒だからといって、診断は容易ではありません。

 

鉛中毒の代表的な症状は3つあります。

 

①貧血、② 腹痛、③ 運動神経麻痺です。

 

 

このそれぞれの症状に対応した精密検査を行っても

 

①貧血は低色素性小球性貧血なので、鉄欠乏性貧血との鑑別が必要です。

 

赤血球の検査では、赤血球中ALA-Dの活性低下、赤血球プロトポルフィリン増加を認めますが、

 

この検査は、そもそも鉛中毒と診断されない限り行われません。

 

環状鉄芽球を伴う鉄芽球性貧血をきたしますが、

 

これが検出されても鉛中毒診断に結び付かないこともあるでしょう

 

 

②腹痛は鉛疝痛と呼ばれる特徴的な痛みで、食欲減退、便秘、下痢などさまざまな消化器系症状を伴いますが、

 

これらの症状だけで鉛中毒を疑う内科医は皆無に近いと思います。

 

③知覚神経より、運動神経障害が主であること、

 

末梢運動神経麻痺は筋肉痛、筋力低下を伴い、とくに伸筋麻痺が特徴です。

 

そのため、手足の下垂が観察されます。

 

これを観察して無機鉛中毒を疑う整形外科医や神経内科医も、実際には極めて少ないと思います。 

 

なお、中枢神経系の障害として、小児では鉛脳症が知られていますが、

 

これを知っている小児科医もわずかだと思います。

 

無機鉛中毒の正しい診断に辿り着くためには、

 

職場環境を十分に問診しているかどうかにかかっているといっても過言ではないでしょう。

 

発生する職場は限られていて、蓄電池(バッテリー)製造をはじめ、

 

クリスタルガラス製造、七宝焼、塩化ビニル加工等です。

 

侵入経路は経気道(粉塵またはフューム)が主、他に経口、骨に蓄積します。

 

無機鉛は赤血球に含まれる血色素の構成成分であるヘムの合成が障害されるために、

 

赤血球中ALA-Dの活性低下や赤血球の寿命が短縮することで貧血をきたします。

 

 

結論:予防と詳しい問診が肝心:予防は職場の換気を改善することのみです。