金曜シリーズ < よくある問い合わせ ⑯ >

 

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一部の薬物やサプリメントは肝機能に影響を与えることがあります。特に、一部の抗生物質、抗炎症薬、抗高血圧薬などが肝酵素の上昇に関与することがあります。


これは、3月8日(金)で紹介したムッシュGPTからのメッセージの一部です。


ここでは「薬物」という表現が用いられていることに着目してください。


薬物投与によって引き起こされる肝障害は薬物性肝障害(drug-induced liver injury: DILI)と呼ばれるようになりつつあります。従来は、「薬剤性肝障害」と呼んでいることが多かったように思います。


実はこの「薬物」の件なのですが、「薬物」と「薬剤」は区別して使用することが求められる時代になってきました。


「薬物」とはその摂取によって生物学的な効果をもたらす化学物質の総称です。そして、これは、「薬剤」よりも広い概念です。


それでは、あらためて「薬剤」とは何かというと、これは医療機関で医師の処方箋に基づき薬剤師が調剤する医療用医薬品、またOTC薬といって、医療用医薬品から転用される薬剤師が処方箋なしに調合できる要指導医薬品、薬局やスーパーで制限なしに購入できる一般用医薬品に分類されます。


ですから、前回3月15日(金)で採りあげたサプリメント使用による肝障害は、自然食品・健康食品などと同様に「薬剤」には該当しませんが、「薬物」として私たちの心身に作用することがあるため、従来の様に「薬剤性肝障害」よりも「薬物性肝障害」という用語が使用されています。

 


質問者:杉並国際クリニック会員Cさん

肝障害の原因が、薬剤によるものなのか、健康食品やサプリメントなどの薬物によるものなのかを鑑別する目安について教えてください。

 


ChatGPT
肝障害の原因を特定するためには、病歴、臨床症状、薬物の使用歴、検査結果などを総合的に評価する必要があります。以下は、肝障害の原因を鑑別するための一般的な目安です:

 

1. 薬物や薬剤の使用歴:

患者が過去にどのような薬物や薬剤を使用していたかを詳細に確認します。特に、処方薬や市販薬、健康食品、サプリメントなどの使用履歴が重要です。一部の薬物やサプリメントは肝臓に影響を与える可能性があります。

 


2. 薬物性肝障害の特徴:

特定の薬物が原因である場合、肝障害の特徴が見られることがあります。これには、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)およびALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)の上昇、アルカリフォスファターゼの増加、黄疸などが含まれます。

 


3. 薬剤性肝障害のタイミング:

薬物が原因の場合、通常は薬物の摂取後に肝機能検査の異常が現れることが多いです。また、薬物を中止した後に肝機能が改善することが期待されます。

 


4. 除外診断:

他の可能性な原因(ウイルス性肝炎、自己免疫性肝疾患、脂肪肝など)を除外するために、血液検査、イメージング検査、生検などが行われることがあります。

 


5. 専門医の評価:

肝臓の専門医である肝臓専門医(肝臓科医)の評価が求められる場合があります。彼らは適切な検査や診断のためのガイダンスを提供し、治療や管理のアプローチを決定します。


特に、健康食品やサプリメントの成分は様々であり、一部は大量に摂取すると肝障害の原因となる可能性があります。したがって、医師に相談せずに大量のサプリメントを摂取することは避けるべきです。

 

肝障害の症状が現れた場合や疑わしい場合は、早めに医療専門家に相談し、適切な検査や診断を受けることが重要です。

 

 

ドクター飯嶋のコメント:
Cさんの質問は、とても高度です。さすがのムッシュGPTも明確な回答が出せずじまいです。

 

その理由の一つは、健康食品やサプリメントと、医師による処方薬との薬理学的な境界線が、Cさんが予想していたほど明確ではないからです。

 

これについては、ムッシュGPTが「一部の薬物やサプリメントは肝臓に影響を与える可能性があります。」と説明している通りです。

 

『サプリメントは食品ではなく、むしろ薬物である』という認識を持っておく必要があると、私は考えています。

 

もう一つの理由は、薬物性肝障害(DILI)の診断自体が最近のトピックスだからです。

 

DILIの病像は極めて多彩であるうえに、原因薬物の同定までを含めた診断は、多くの場合、肝臓専門医でも容易ではありません。実務的には、他の成因を丁寧に除外してから、はじめてDILIを疑うことが普通でした。

 

これに対して、帝京大学の田中篤先生<日本内科学会雑誌113❶33頁(January10 2024)>の記事には、以下のようにDILI診断のポイントがまとめられています。


●肝障害の病型に関わらずDILIの可能性を常に念頭におく


●薬物(医療用・一般医薬品、自然食品・健康食品、サプリメント)摂取歴を詳細に聴取する


●薬剤服用開始日・終了日と肝障害の経過との時間的関連を正確に把握する


●他の成因による肝障害を除外する

 

DILIは肝障害の他の原因の除外診断と同時に常に念頭に置く、というのが医師に対する戒めであり、また、医療用・一般医薬品のみならず、自然食品・健康食品、サプリメントも薬物として理解していただくことを、啓発していく必要性も大きく感じられる内容になっています。