内科認定医、心療内科指導医・専門医
飯嶋正広
Dastroenterology(消化器病学)
日本の講学的な医学教育のシステムと米国の実践的な問題意識には明確な違いがあります。
前回は下痢を取り上げましたが、今回は炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease)を取り挙げます。米国のテキストやレヴューブックでは、潰瘍性大腸炎(UC:Ulcerative Colitis)とクローン病(Crohn’s disease)についての鑑別が実臨床に重要であることが日本の代表的なテキストよりわかりやすく記載されているものが多い印象があります。
〈炎症性腸疾患〉Inflammatory Bowel Disease PartⅠ
<日本流医学テキスト>
炎症性腸疾患は腸粘膜に炎症や潰瘍を生じる原因不明の疾患である。狭義にはCrohn病と潰瘍性大腸炎を指す。
・日本でも増加の一途をたどり、Crohn病(CD)と潰瘍性大腸炎(UC)は厚労省の特定疾患治療研究事業に指定された「指定難病」に定められている。
・Crohn病(CD)は口腔から肛門までのすべての消化管に起こりうる、全層性の慢性肉芽腫性炎症性疾患で、回盲部に好発し、再発と寛解を繰り返す。
・潰瘍性大腸炎(UC)は主として大腸の粘膜と粘膜下層を侵し、しばしばびらんや潰瘍を形成する、びまん性非特異性炎症疾患で、直腸から上行性に病変が拡がり、寛解と増悪を繰り返す。
コメント:
日本の医学書は漢字表記による概念の表現なので簡潔ですが、その反面印象に残りにくく覚えにくいのが難点です。なお、炎症性腸疾患ばかりではありませんが、併存症などが全身の多系統に及んでいることが少なくないことを感じ取っていただければ、と存じます。
<米国流実践的Q&A>
Ulcerative colitis(UC)or Crohn’s disease?
潰瘍性大腸炎かクローン病か?
Both UC and Crohn’s disease
潰瘍性大腸炎とクローン病に共通する所見
・Associated with ankylosing spondylitis
強直性脊椎炎との関連性
・Associated with pyoderma gangreosum
壊疽性膿皮症との関連性
・Increased risk of colorectal carcinoma (UC>>>Crohn’s )
大腸がんのリスク増加 (UC>>クローン病)
コメント:
炎症性腸疾患という大まかな病気の系統を見立てた後の詳細な鑑別診断においては、疾病間の違いを弁えておく必要があります。同系統の複数の疾患の間で共通してみられる所見のみでは診断することはできません。
しかし、これを共通所見としての認識が不足して、一方のみの所見であるという勘違いがあると思わぬ誤診に繋がり兼ねないので、恐ろしい所でもあります。
潰瘍性大腸炎とクローン病に共通する所見である強直性脊椎炎は、リウマチ関連疾患であり、リウマチ専門医の守備範囲でもあります。
この疾患は、脊椎や体幹に近い部分の関節を侵す慢性進行性の関節炎です。
薬物療法の他に、リハビリテーションとして適度な運動をすることが関節変形の進行抑制に有効であることが知られています。この疾患のための運動療法としても水氣道®は理想的です。
UC(潰瘍性大腸炎)
・Pancolitis with crypt abscesses(陰窩性膿瘍を伴う全腸炎)
・Associated with sclerosing cholangitis(硬化性胆管炎との関連性)
・Can lead to toxic megacolon(中毒性巨大結腸症の原因となることあり)
・Bloody diarrhea(血性下痢)
・Pseudopolyp(偽ポリープ)
・Rectal involvement(肛門病変)
コメント:
共通所見に加えて、相対的に特徴が限られているUCの所見を正確に把握しておくことが思考(記憶)経済的にも有用で、クローン病との鑑別が容易になります。
UCに関連して発症する硬化性胆管炎は、膠原病類縁疾患であるIgG4関連疾患の膵病変である自己免疫膵炎の膵外病変としても認識されています。
中毒性巨大結腸症は、結腸の一部~全体の拡張(直径6㎝以上)に臨床的な中毒症状(下痢数増加、血便、腹痛、腹部膨満など)が加わったものです。穿孔を来す恐れがあるため、全身管理下で緊急手術の適応となります。
Crohn’s disease(クローン病)
・Fistulas and fissures(瘻孔・裂孔)⇔偽ポリープ
・Amyloidosis(アミロイドーシス)
・Longitudinal ulcers(縦断型潰瘍)
・Punched-out aphthous ulcers(打ち抜き型アフタ性潰瘍)
・Skip lesions(飛び石病変)
・Can involve any portion of the GI tract (usually terminal ileum and colon)
胃腸管のどの部分にも発生する(通常は回腸末端と結腸)⇔肛門病変
・”String sign”on x-ray (due to bowel wall thickening)
レントゲンフィルム上の "ストリング徴候"(腸壁の肥厚による)
・Transmural inflammation(全層性炎症)
・Cobblestone mucosa(敷石状粘膜)
・Watery diarrhea(水溶性下痢)⇔血性下痢
・Nephrolithiasis(腎盂尿管結石症)
・Stricture formation(狭窄形成)
・May mimic acute appendicitis(急性虫垂炎と紛らわしいことがある)
コメント:
共通所見に加えて、クローン病の多数の所見を、特徴的で限られたUCの所見と対比して把握しておくことが思考(記憶)経済的で、クローン病との鑑別が容易になります。
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