前回インフルエンザ迅速検査キットの問い合わせについて書きました。
今回は検査キットがどのくらい重要性があるのかを調べてみました。
キットの種類はどのくらいあるのでしょうか?
JACRI(一般社団法人 日本臨床検査薬協会)によると12社18種類あるようです。
どのくらいの割合で、インフルエンザを見つけてくれるのでしょうか?
上記のページに「陽性率」という数値が載っていました。
検体(鼻水等)ごとに%が示されていて、高いものだと90~95%、低いものだと60~80%となっています。
ここで疑問です「陽性率」とは?
こちらのページには注釈がありませんでした。
陽性率を調べていくと「感度」と「特異度」という言葉が出てきました。
感度:疾患罹患者中の検査陽性者の割合
特異度:疾患非罹患者中の検査陰性者の割合
と定義されています。
感度=陽性を見分けられるか
特異度=陰性の判断が正しいのか
となります。
陽性率は、感度のことだと考えられますが明記が無く、どのように調べたのか背景も不明でした。
検査キットを更に調べてみると、感度が高く80~90%という先生もいれば、60~70%程度という先生もおり、よく分からなくなってきました。
2012年3月6日付けの日経メディカルに検査キットの精度について発表された論文の記事がありました。
以下引用です。
インフルエンザの迅速診断検査の精度を検討した研究を対象としたメタ分析で、市販されている迅速診断検査全体の特異度は98.2%と高いが、感度は62.3%であることが分かった。著者であるカナダMontreal 大学のCaroline Chartrand氏らは、「陽性判定時に偽陽性が存在する可能性は低いが、陰性判定だった人々の中には偽陰性患者が混じっていることに注意しなければならない」と述べている。論文は、Ann Intern Med誌電子版に2012年2月27日に掲載された。
個々の比較で報告されていた感度は、4.4%から100%とばらつきが大きかった。感度に比べて特異度のばらつきは小さく、50.5%から100%の間で、85%以下の値を報告していたのは17件(10.7%)にとどまった。
データをプールして求めたサマリー感度は62.3%(95%信頼区間57.9-66.6%)で、サマリー特異度は98.2%(23.8-98.7%)。これらの値を基に計算した陽性尤度比は34.5(23.8-45.2)、陰性尤度比は0.38(0.34-0.43)になった。
感度は小児よりも成人の方が低かった。成人に迅速検査を行った場合の感度は53.9%(47.9-59.8%)、小児は66.6%(61.6-71.7%)(P<0.001)。特異度は、成人が98.6%(98.0-98.9%)、小児は98.2%(97.5-99.0%)で、有意差はみられなかった(P=0.135)。
また、A型インフルエンザに対する感度は64.6%(59.0-70.1%)だが、B型については52.2%(45.0-59.3%)と低い傾向が見られた。特異度はそれぞれ99.1%(98.7-99.4%)と99.8(99.7-99.9%)で同程度だった。
整理してみます。
①カナダMontreal 大学で研究され、2012年2月27日に学会誌に掲載された論文です。
②メタ分析論文です。
メタ分析論文とは、統計的手法を用いてランダム化比較試験(RCT)など複数の原著論文のデータを定量的に結合させる総説論文のことを意味します.メタとは分析の分析という意味で,個々の原著論文の分析をまとめてさらに分析することを表します.
③感度のばらつきは大きかったが、特異度のばらつきは少なかった。
④感度は62.3%、特異度は98.2%
⑤感度は小児より成人のほうが、統計的に有意に低かった。特異度は有意差はみられなかった。
⑤A型よりB型インフルエンザの感度は更に下がる。
検査を推奨する先生も実施する時間で感度が変わるとする別の記事も見つけました。
2018年11月20日 「夕刊フジ電子版」
「発症からの時間と検査の陽性検出率は、一般的にキットでは発症から12時間未満が40%前後、13~24時間が50~90%、24時間以上では90%以上とされています。機器の場合には、発症から6時間経過していれば80%で、12時間超えれば90%以上の検出率です。検査のタイミングは発症後、早くて12時間以上、遅くても48時間以内に受けるのが適切です」
上記は検査を推奨している先生のお話です。
検査キットの法令上の扱いも調べてみました。
診療報酬上では、2009年9月18日付けの厚生労働省事務連絡で抗インフルエンザ薬の投与に当たって迅速検査の実施が必須ではないということを明記されています。
「必須ではない」という言葉が、いかにもお役所的な言い回しですね。
つまりは
「検査キットで検査をする必要無く、医師の判断のみで、抗インフルエンザ薬を出しても問題ない。」
ということです。
結論として
検査キットは思っているほどインフルエンザを見つけてくれない。(2012年の研究で62.3%ほど)
抗インフルエンザ薬の処方には、検査は必須ではない。
という結論になりました。
調べてみたら、
「検査キットは当院では精度が低く使用していません。」
と、自信を持って伝えていける結果が出ました。
ARCHIVE
- 2025年1月
- 2024年12月
- 2024年11月
- 2024年10月
- 2024年9月
- 2024年8月
- 2024年7月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年3月
- 2024年2月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年9月
- 2023年7月
- 2023年5月
- 2023年4月
- 2023年1月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年9月
- 2022年7月
- 2022年6月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年12月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年5月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2018年2月
- 2018年1月
- 2017年12月
- 2017年11月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年7月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2017年2月
- 2017年1月
- 2016年12月
- 2016年11月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2016年8月
- 2016年7月
- 2016年6月
- 2016年5月
- 2016年4月
- 2016年3月
- 2016年2月
- 2016年1月
- 2015年12月