平成元年に高円寺南診療所での診療を開始して10年余を経た頃、院長の飯嶋正広は、すでに日本の保険医療制度の運用上の矛盾や弱点・欠点に直面し、大いに困惑していました。
そこで、せめて実際のご縁ができた自分の患者の皆様に対して、それらの制度矛盾や弱点・欠点を、みずから補い克服する方策を考え始めていました。
そして、手始めに何が必要で、そのためには、どのような工夫や努力が必要なのかを探求し試行錯誤を繰り返していました。
幸いにその努力は無駄ではなく、その成果の一つが2000年(平成12年)に現在に続く水氣道を創始することができました。
現在では、登録商標を取得し、実際の活動会員数(正会員、一般会員および準会員)は70名余に登っています。
水氣道会員に限らず、診療所に継続通院されている皆様に、概ね3か月に1回程度実施しているのが体組成・体力検査(フィットネス検査)です。
最近、東北大学大学院運動学分野講師の門間陽樹氏らの研究グループが、簡便に測定できる体力テストの成績で、日本人の2型糖尿病の発症リスクを評価できる可能性を示しました。
「Journal of Epidemiology」7月28日オンライン版に発表しています。
原著論文:Momma H, et al. J Epidemiol. 2018 Jul 28. [Epub ahead of print]
そのフィットネス検査項目にも含まれているのが、高円寺南診療所ですでに実施してきたフィットネス検査項目にも含まれている握力と平衡(バランス感覚)機能検査です。
定期的な運動は、ほとんどの生活習慣病に有効です。
たとえば2型糖尿病の管理だけでなく予防にも有効なことが一般的に認められています。
運動を行うと身体の適応能力が向上します。
それにより習慣的な運動習慣が身に着くと体力が向上することがよく知られています。
これまでの研究で全身持久力が高いほど2型糖尿病の発症リスクは低いことが報告されています。
しかし、2型糖尿病のスクリーニングに全身持久力テストを導入することはコストや手間を考えると現実的ではないためか、あまり普及してきませんでした。
現行の保険医療の矛盾や弱点・欠点の典型例の一つが、予防医学ばかりでなく、こうした簡易で実用的な検査に対して、当然の支援を怠っていることです。
たとえば線維筋痛症支援の絶対的欠如もその延長線上にある、といっても過言ではないでしょう。
さて、東北大学の研究グループによる論文についてご紹介します。
目的:
2型糖尿病リスクの評価に適した、より簡便な体力テストの指標を探ること
対象:
糖尿病を発症していない成人(体力テストを2回以上行った糖尿病を発症していない成人2万1,802人)
研究手法:
観察研究 方法:新潟県労働衛生医学協会の健診データを用いて、対象を最大で6年間追跡して解析
結果:
対象者の年齢は20~92歳、女性が6,649人
体力テストには、筋力を評価する「握力」と下半身のパワーを評価する「垂直飛び」、バランス感覚を評価する「閉眼片足立ち」のほか、「立位体前屈」(柔軟性)や「全身反応時間」(反射神経)、「仰臥位足上げ」(筋持久力)が含まれた。
対象者をこれらの成績で4つの群に分けて、糖尿病の新規発症との関連を調べた。
結果:
対象者の年齢は20~92歳、女性が6,649人 中央値で5年の追跡期間において、972人が新たに糖尿病を発症した。
解析結果:
①体重当たりの握力の成績が悪いほど2型糖尿病リスクが高い(最も握力が高い群と比較した、他の3つの群における2型糖尿病発症のオッズ比は1.16~1.56)。
②閉眼片足立ちの成績も2型糖尿病リスクと有意に関連していた(同じくオッズ比は1.03~1.49)。
③垂直飛びと立位体前屈の成績についても2型糖尿病リスクとの関連が認められたが、BMIで調整後の解析ではこれらの関連は有意ではなくなった。
④仰臥位足上げと筋持久力については、2型糖尿病リスクとの関連は認められなかった。
考察:
今回の研究から、簡便に測定できる握力の成績で2型糖尿病リスクを評価できる上に、バランス能力と2型糖尿病リスクとの関連も初めて明らかになった。
展望:
これらの体力テストの成績は独立して2型糖尿病の発症に関与すると考えられ、今後のより詳細な検討が期待される
原著論文はこちら
Momma H, et al. J Epidemiol. 2018 Jul 28. [Epub ahead of print]
高円寺南診療所からのコメント:
東北大学が推奨する体力テストは<握力>と<片足バランス>のみで簡便に行えることから、糖尿病スクリーニングの指標として有用性が高いことを示しています。
彼らは従来の全身持久力テストに比較して、その有用性を主張していますが、あくまでも2型糖尿病のスクリーニングに限っての話であることに注意してください。
ただし、今回の研究が高円寺南診療所の臨床に有益な示唆を与えてくれた重要なエビデンスの一つは、単なる握力ではなく、体重当たりの握力、というコンセプトです。
つまり、体力テストといっても、やはり身体計測が必要であり、従来の高円寺南診療所のフィットネス検査(体組成&体力検査)の臨床的意義を検証するにあたって、重要な根拠を与えてくれたということになるでしょう。
また高円寺南診療所の継続的受診者は2型糖尿病に限らず、さまざまな病気の方が通院されています。
高円寺南診療所が従来実施してきた定期的なフィットネス検査は、今回、東北大学が実証した2つの検査項目を含むので、2型糖尿病のスクリーニングに有用であることのエビデンスが得られました。
しかし、2型糖尿病やその他の多くの疾患の治療効果や生活の質(QOL)の指標としては、今回の東北大学の簡易な方式では不十分であり、高円寺南診療所方式が質的に優れていることは改めて十分に認識しておく必要があると思われます。
高円寺南診療所では、今後、一層、積極的に定期的フィットネス検査<体組成・体力検査>を推進していきたいところです。
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