呼吸器 / 感染症 / 免疫・アレルギー・膠原病
<肺音の聴診について> 豊かな感性が求められる医療
現代医療は画像等の視覚データや数値などのデジタル化データが診断材料の主体です。
また、医師国家試験や各種の専門医資格試験等も同様です。
しかしながら、実臨床は視覚情報以外の情報も大いに役立てることができることが望ましいと思います。
その一つが、音声を含めた聴覚情報です。
医師としては音声に興味や関心がある、ということは、特に臨床面において、とても有利に働いていて大いに役立っています。
今回は、肺の活動音である肺音について、ふだん医師はどのように臨床診断の材料にしているかについてご紹介いたします。
まず、最初に、肺の「活動音」という言葉についてですが、これは医学用語ではなく、私が説明のために使用している用語であることをお断りしておきます。
肺は心臓と同様に、収縮と拡張を繰り返しますが、肺が心臓と異なる点があります。
それは、心臓には自動能があるのにたいして、肺にはそれが無い、ということです。
つまり、肺が収縮したり拡張したりする、つまり呼吸運動するのは、横隔膜や肋間筋などの呼吸筋によってもたらされる受動的なものです。
したがって、呼吸筋の活動停止が肺の呼吸運動の停止を意味します。
肺をはじめとする気道から発せられる様々な生体音は、呼吸に伴う音です。
つまり、肺が呼吸運動すること、つまり、肺が活動することに伴って発生する音なので肺の「活動音」と表現することにしたのです。
それならば、単に呼吸音と言えば良いのではないか、とお気づきの方もおいでかも知れません。
しかし、肺音(肺の活動音)は、呼吸音の他に副雑音があります。
しかも、呼吸器の病気の診断において、より決め手となるのは副雑音の方ですから、明確に区分しておいた方が良いと思われます。
呼吸音は健康な人でも聴取できます。
これは、気管呼吸音、気管支呼吸音、肺胞呼吸音、と発生部位によって分類します。
この正常な呼吸音に聞きなれていないと異常な呼吸音に気づくことは難しくなります。
それでは、異常な呼吸音とはどのようなものでしょうか。
その代表は、気管支喘息や慢性気管支炎などの閉塞性肺疾患で聴かれる<呼気延長>です。
つまり、息を吐くのに要する時間が健康な人より延長してしまう状態です。
多くの場合は呼気に伴う気管支の呼吸音が増強して聴かれます。
その他として、呼吸音が弱くなる場合があります。
呼吸音の減弱や消失です。
無気肺といって胸郭に外気が入り肺の一部が収縮してしまうと、その部分での呼吸音は聴くことはできません。
また、胸水といって胸腔に水が溜まると、重力により水は横隔膜の背側の尤も低い部位に貯留しますから、呼吸音が聴こえなくなります。
この場合は、聴診だけでなく、打診によってどの程度の水が胸腔に貯留したかを推定することもできます。
打診による音の変化だけでなく、指先に伝わってくる振動覚にも助けられて、貯留した液体の水面の位置を推定することができます。
呼吸音に対して副雑音の存在と種類は、呼吸器の重要な病気の診断の決め手になります。
副雑音のほとんどがラ音と呼ばれています。
これには、音の持続性によって、まず断続音か連続音かを鑑別します。
連続音は、気管・気道の狭窄によって吸気・呼気のいずれの呼吸相でも聴かれる雑音です。
音の高さ(ピッチ)により、高音性か低音性かを鑑別します。
高音性の連続音は、笛様音(wheeze)といって、<ヒューヒュー>と聞こえます。
これに対して低音性の連続音は、いびき様音(rhonchi)といって、<グーグー>と聞こえます。
断続音(非連続音)は、気道内に貯留した分泌物の中を空気が通過する際発生します。
これは、音の粒が細かいか粗いかで区分します。細かい断続音(fine crackles)は捻髪音といって、
髪の毛をつまんで捩じったときに発する<パチパチ>という音に似ています。
これは、主に呼気後半で聴かれます。
閉塞した末梢気道が呼気後半に、急激に解放されて発する雑音です。
各種の間質性肺炎をはじめ、過敏性肺臓炎、肺水腫、肺胞蛋白症などを疑います。
粗い断続音(coarse crackles)は水泡音といって、<プツプツ>という音がします。
これは、太い気管支に由来する雑音で、主に吸気・呼気の全過程で聴かれます。
肺炎(肺胞性)、肺水腫、慢性気管支炎、気管支拡張症などを疑います。
副雑音には、これらのラ音の他に、胸膜摩擦音といって、
呼気・吸気いずれにおいても聴くことができる副雑音があり、胸膜炎の存在を疑います。
他にも、肺血管雑音などがあります。
聴診器は、かつては医師のシンボルでもありました。
それが現在では、<超音波診断装置は、現代の聴診器>などと、
最先端医療機器のみがもてはやされる時代となりました。
音波でなく超音波を「見える化」つまり、画像化したために、
多くの医師にとってより客観的な診断が可能となり、患者の皆様への説明も容易になったことは確かです。
私も上手に活用している方だと自負しています。
しかし、現代において、医師が日々、感性を磨くことが、実際的には、とても大切だと思います。
医師が必要であると勧める検査を拒否される方が少しずつ増えてきたのは、
こうした基本的な診察(問診や聴診を含む)が十分に実施されていないためだとすれば、
とても納得のいく医療社会の現象だと思います。
症状に表れにくい病気や見えない病気が主流となってきているなかで、
見えにくいものを少しでも見逃さないように、という発展だけでなく、
本来見えないものは、視覚以外の五感(五官)を最大限に駆使し、さらには第六感をも磨く訓練や、日頃の心構えが大切だと考えて、
水氣道に勤しみ、聖楽院を打ち立て、その先頭に立って活動している次第です。
水氣道や聖楽院へのご参加、心よりお待ち申し上げております。
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