内分泌・代謝・栄養の病気
テーマ:出産後甲状腺機能異常
<無痛性甲状腺炎について>
高円寺南診療所は、妊娠可能世代の女性の受診比率が高いためか、
月経前緊張症、月経困難症のみならず、
しばしば不妊の悩みや妊娠期・産褥期の体調管理および
他科から処方されている薬剤について相談を受けることが多いです。
甲状腺は単位体積当たりの血流が一番多い臓器です。
この甲状腺の病気は女性に多いので特に気を付けて勉強していますが、
産後女性の約5%で出産後に甲状腺機能異常が起こります。
20人に1人ですから、無視できる頻度ではありません。
つまり、甲状腺病の専門医だけにお任せしておけば良いというものではありません。
皮肉なことですが、甲状腺病専門医はご多忙のためか、
妊娠期の女性のデリケートな心身の状況に対して、
十分な対応が困難である場合も少なくないようです。
甲状腺専門医は、甲状腺疾患に関する心身医学に
もっと開眼してくださったらと思うことがしばしばあります。
臨床の現場では、とくに、甲状腺中毒症がみられた場合、
無痛性甲状腺炎と亜急性甲状腺炎、バセドウ病の発症・増悪の鑑別が重要になります。
無痛性甲状腺炎は出産後1~3か月、バセドウ病の増悪は3~6か月で明らかになることが多いです。
多くは自然経過にて6~8か月で甲状腺機能は正常化します。
鑑別は必ずしも容易でないので、その場合は対症療法で経過を見守ることも有意義です。
無痛性甲状腺炎
外来を受診する甲状腺中毒症患者の約1割がこの無痛性甲状腺炎です。
一過性の甲状腺中毒症で慢性甲状腺炎の一型と考えられています。
複数回のエピソードをもつ方が多く、
出産後数か月に発症するタイプでは、出産の度に繰り返すことがあります。
妊娠中は免疫抑制状態が持続しているため発症しにくいのですが、
その状態が消失するのが出産数か月後頃です。
バセドウ病と誤診し易いので注意しています。
もしバセドウ病と誤診して抗甲状腺薬を誤投与すると重篤な甲状腺機能低下を来たしてしまいます。
橋本病や寛解期のバセドウ病の経過中に、甲状腺の濾胞細胞が崩壊することにより、
甲状腺ホルモンが血中に流出することで発症します。
誘因:
1.出産(出産後に一過性の甲状腺機能異常症として発症することがあります。)
2.ステロイド治療の急速中止後、クッシング症候群の治療後
3.INF⁻α、LHRH、分子標的抗腫瘍薬の投与
臨床像:
① 臨床経過として、1ないし3か月におよぶ一過性の比較的軽度の甲状腺中毒症を呈した後、
引き続き一過性の甲状腺機能低下症を呈します。
(急性期には 123I 甲状腺接取率が低下し、回復期には高値となります。
その後、甲状腺組織の破壊後に回復期に入ります。
回復期には甲状腺ホルモンは低下し、TSHが基準値以上になることが多いです。
さらにその後は、甲状腺機能が正常化するか、永続的甲状腺機能低下症になるようです。)
② 眼症状(バセドウ病)なし、疼痛・炎症所見(亜急性甲状腺炎)なし
診断:
まず甲状腺中毒症であること。次に甲状腺痛を伴わないこと。
さらに、甲状腺中毒症が自然に3か月程度で改善すれば、
臨床的に無痛性甲状腺炎と見立てることは可能です。
しかし、診断確定のためには、以下の検査①~④のすべてが該当します。
検査:
①甲状腺ホルモンFT4高値、②甲状腺刺激ホルモンTSH低値(0.1μU/mL以下)
③TSH受容体抗体(TRAb)陰性、④123I(ヨード)または99mTc(テクネシウム)の集積低下
鑑別:
まず、バセドー病との鑑別が必要です。
そのための検査として、123I 甲状腺接取率、TSH受容体抗体、頸部ドプラーエコーが有効です。
バセドウ病との鑑別は、甲状腺エコーでの血流や123I(ヨード)接取率が高値で、
TRAb陽性あればバセドウ病を疑います。
亜急性甲状腺炎との鑑別は、疼痛や炎症所見が存在し、
疼痛部が低エコーであれば亜急性甲状腺炎を疑います。
治療:
頻脈に対してβ遮断薬、また甲状腺ホルモン不足期には補充療法を行います。
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