9月9日(水)
第2週:感染症・アレルギー・膠原病
関節リウマチの診断が確定している場合には、罹患関節の分布や疾患活動性の評価が必要となります。初診時においては直ちに全容を把握することは難しいこともありますが、おおよその治療コントロールの水準を推定することは可能です。
以下の❶から❼までの診療情報からは、発熱を除けば、関節の局所所見の情報が乏しいことから、関節リウマチの疾患活動性は高くなく、関節リウマチ自体の治療経過は良好であったことが推定されます。
❶ 70歳の女性。
❷ 発熱と頸部のしこりを主訴に来院した。
❸ 8年前に関節リウマチと診断され、
❹ プレドニゾロン、メトトレキサート及びNSAIDによる治療を継続している。
❺ 1年前から誘因なく発熱が持続するため受診した。
❻ 身長155㎝、体重43㎏。
❼ 体温38.4℃。脈拍104/分、整。血圧120/80㎜Hg。呼吸数20/分。
❽ 口蓋扁桃の腫大を認めない。
❾ 両頸部と両腋窩に径2㎝の圧痛を伴わないリンパ節を1個ずつ蝕知する。
❿ 心音と呼吸音とに異常を認めない。
⓫ 腹部は平坦、軟で、肝・脾を蝕知しない。
⓬ 関節に腫脹と圧痛とを認めない。
⓭ 血液所見:赤血球315万、Hb10.2g/dL,Ht32%,白血球2,800(桿状核好中球36%、分葉核好中球44%、好酸球2%、好塩基球1%、単球8%、リンパ球9%)、
血小板12万。
⓮ 血液生化学所見:総蛋白6.6g/dL,アルブミン3.3g/dL, AST 35U/L, ALT23U/L, LD780U/L(基準120~245)。
⓯ 免疫血清学所見:CRP2.2㎎/dL, 抗核抗体陰性,
可溶性IL-2受容体952U/mL(基準157~474),
結核菌特異的全血インターフェロンγ遊離測定法〈IGRA〉陰性。
⓰ 造影CT:縦隔・腸間膜に多発性のリンパ腫大を認める。
・・・・・・・・・・・・・・
<初診Step3>
❽ 口蓋扁桃の腫大を認めない。
⇒細菌性扁桃炎などの感染症の可能性は高くないと考えられます。
扁桃炎により頸部リンパ節炎がもたらされ、また発熱の原因となることがあるため、それらを否定するために重要な診察所見です。
❾ 両頸部と両腋窩に径2㎝の圧痛を伴わないリンパ節を1個ずつ蝕知する。
⇒ 主訴❷の「頸部のしこり」はリンパ節であったこと、診察によって、頸部の他に腋窩にもリンパ節の主張が確認され、しかも両側であることから、局所の感染等によるリンパ節腫脹ではなく、全身性のリンパ節腫脹であることが示唆されます。
正常リンパ節の大きさは通常直径 1 cm 以下であり、これを超えるリンパ節はリンパ節腫脹と考えます。この症例のリンパ節は径2㎝ですから、明らかなリンパ節腫脹です。ただし成人では健常状態でも鼠径リンパ節の触知は可能(0.5〜 1.0 cm)であり、その他の部位でも過去の感染の既往などによりリンパ節を触知することがあります。そこで、リンパ節腫脹を認める主な疾患をまとめてみます。
■リンパ節腫脹を認める主な疾患
1.感染症
1)ウイルス性:伝染性単核症(Epstein-Barr virus),風疹,麻疹,流行性耳下腺炎、水痘,HIV 感染症,不特定のウイルス感染症
2)細菌性(ブドウ球菌などによる膿瘍形成)
3)結核性,梅毒,トキソプラズマなど
2.感染症以外による反応性
1)自己免疫疾患:全身性エリテマトーデス,関節リウマチ,Sjögren 症候群
2)その他:サルコイドーシス,薬剤性リンパ節症(phenytoin など),
皮膚病性リン パ節症,血清病,亜急性壊死性リンパ節炎
3.腫瘍性
1)リンパ節原発:Hodgkin リンパ腫,B 細胞リンパ腫,T/NK 細胞リンパ腫
2)リンパ節転移:癌腫(頭頸部癌,咽頭癌,乳癌,肺癌,食道癌,甲状腺癌など), 白血病(特にリンパ性),多発性骨髄腫
4.脂質代謝異常
Gaucher 病,Niemann-Pick病
5.内分泌疾患
甲状腺機能亢進症,Addison病
6.全身性 IgG4 関連疾患
なお、これらのリンパ節には「圧痛を伴わない」ことも重要な所見です。
なぜならば、リンパ節の性状は、炎症性の場合では表面は平滑で軟らかく可動性があり、強い自発 痛・圧痛を認めるからです。これに対して癌の転移などでは、表面が不整で著しい硬さを示し、相互に癒合し可動性がなく、自発痛・圧痛のないことが多いからです。ちなみに悪性リンパ腫では表面は平滑だが充実性で硬く(弾性硬)、可動性があり圧痛はないことが多いです。ただし急速に増大する時は疼痛を訴えることがあります。
❿ 心音と呼吸音とに異常を認めない。
⇒心臓・肺など、胸腔臓器に顕著な障害は認められません。
⓫ 腹部は平坦、軟で、肝・脾を蝕知しない。
⇒肝臓・脾臓を含め腹腔臓器に顕著な腫大性病変は認められません。
⓬ 関節に腫脹と圧痛とを認めない。
⇒関節リウマチの治療コントロールは概ね良好であり、疾患活動性は高くないことや、関節リウマチ以外の関節性疾患(変形性関節症など)も認めません。
(まとめ)
4〜6 週間以上持続しているリンパ節腫脹は生検の適応と考えられます。特に短期間で急速に増大し、発熱、盗汗などの全身症状を伴い、LDH の増加を認める場合は、早急に生検が必要です。この他に、通常の問診より詳しい専門的な問診が必要です。
既往歴、薬剤服薬歴、アレルギー歴、結核などの既往歴の他に、自己免疫性疾患・アトピー性皮膚炎などの既往、薬剤の服用歴(抗痙攣薬)、ペット飼育歴、エイズ(HIV 感染症)の有無を聴取することが大切です。関節リウマチなどではメトトレキサートなどの免疫抑制薬の使用の有無を聞くことが重要です。
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