関節リウマチ診療ガイドライン2014(RA診療GL2014)に準拠した診療の課題
私はリウマチ専門医の一人としてRA診療ガイドラインに準拠して、関節リウマチの厳格なコントロールを適切な薬剤で行うことが、関節および生命予後の改善につながることを期待しています。しかし、実臨床においては、いろいろな未解決出悩ましい課題が残されています。
課題1:
いまだに治療が満足できない場合があること
杉並国際クリニックでは、早期の関節リウマチを診断して、即座にガイドラインに沿った治療を開始できる実績をもっています。
しかし、せっかく早期発見・早期治療の開始ができても、多くの薬剤にアレルギー反応が出る方がいらっしゃいます。
抗体製剤にアレルギーがある場合は、有効性の判定の前に、その薬剤の使用することができなくなります。あるいは、最初はスムーズに治療が進んだかに見えて、しばらくすると効果不十分になる難治性の関節リウマチもあります。
これは、関節リウマチが一様な疾患ではなく、患者さんの間でも互いに異なる多様な体質的背景をもつ疾患だからです。つまり、患者ごとの病態に関連するサイトカインや免疫細胞が異なり、多くの患者で原因治療が行えていないことに起因しています。
課題2:
合併症の多い長期罹患の関節リウマチ
生物学的DMARDなどの今日では広く用いられている薬物の恩恵を受けられるようになったのは21世紀に入ってからです。
したがって、今から20年以上前から治療を続けている方は、こうした薬剤の恩恵を受けられず、すでに関節変形が進行してしまっている患者さん、ステロイドの合併症が至る所に表れている患者さん、あるいは肺合併症を有する患者さんでは、強力な免疫抑制療法を行ないにくくなります。
この場合は、治療目標を臨床的寛解ではなく低疾患活動性とすることが多くなります。しかし、患者さんはどうしても痛みや機能障害を訴えることが多いために生活の質は著しく低下することを余儀なくされます。
このような患者さんを、今後増やさないようにするため、早期診断と早期治療は重要です。なお高齢の関節リウマチ患者さんに関しては認知機能の低下が加わると生活の質は一層低下することになるので悩ましい課題であるといえます。
課題3:
妊娠希望の女性の関節リウマチ
関節リウマチ(RA)患者は女性が多く、発症時点で見るとほぼ半数が妊娠可能な年代です。妊娠は計画的に行うことが必要です。妊娠の希望を伝えること、すぐに希望がないとしてもお付き合いしていて妊娠の可能性がある場合は、妊娠可能な薬で治療しているか、避妊が必要かについて、予めリウマチ専門医や産科医と相談し理解を深めておくことも重要でしょう。
妊娠を計画したら、病状が安定しており、寛解(病気の活動性がないこと)や低い活動性で安定した状態を継続していることが重要です。病気の活動性が高いと妊娠しにくくなり、不妊症の率が高くなります。
また、関節リウマチの病状は、6〜7割の患者さんで妊娠期間中に次第に良くなる傾向がありますが、妊娠した時に病気の活動性が高いと良くならない場合も多く、妊娠中に患者さん自身の関節症状が進んでしまったり、妊娠を継続するのが難しくなったりすることもありえます。
炎症の時に上昇する蛋白が胎盤を通って胎児の発達に影響する可能性もあります。 病気を進行させないため早く良くするために、流産や先天異常を起こしやすい薬を一時的に必要とする場合があります。
その場合は、有効性の高い方法で避妊することが必要です。病状が安定して妊娠を計画したら、妊娠に安全な薬で病気をコントロールします。全ての薬を中止してしまって病状が悪くなれば、かえって妊娠しにくい状況になってしまいます。
結婚を目前に控えた女性である場合、精神的に不安定になりやすく、それが関節リウマチの病態をさらに悪化させ生活の質を低下させがちになります。そこでの心理面でのサポートは極めて重要で、特別な配慮が」必要になることが多いです。
課題4:
医療費の問題
生物学的製剤(bDMARD)が使用できるようになってから、関節リウマチ患者の医療費は大きく増大しました。この高価な生物学的製剤をいつまで続けるか、ということに関しては回答が出ていません。
今後、臨床的寛解あるいは低疾患活動性が達成されたら、コストの低い従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬(csDMARD)を中心に維持療法を行なうなどといった2段階に分けた関節リウマチ治療が提案される可能性がありますが、容易に解決できる課題ではないと思われます。
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