日々の臨床⑥:12月15日金曜日<一過性全健忘>

心身医学科(心療内科、脳神経内科、神経科を含む)

 

<一過性全健忘>

 

健忘とは、過去の一定期間の出来事を思い出せない状態をいいます。

 

 

健忘症とは、陳述記憶の障害を指します。これには前向性健忘(新しいことが覚えられない)と逆行性健忘(発症以前に覚えたことを思い出せない)があります。

 

追想できる範囲により、全健忘部分健忘に分けられます。

 

 

一過性全健忘は、突然誘因なく発症し、発作中は意識清明であるが、前向性健忘と逆向性健忘の両症状を主徴とする症候群です。

 

発作は平均5~6時間続き、24時間以内に消失するといった予後良好な経過をたどります。

 

 

50~70歳代には75%と多いですが、40歳未満の発症は稀です。

 

 

見当識は保たれるが、近時記憶障害のため、同じ質問を繰り返します。

 

発作中の記憶は永久に欠落します。ただし、数唱などの即時記憶、自分の生い立ちなど遠隔記憶は保たれ、意味記憶手続き記憶も保たれるので、車の運転、料理も可能です。

 

 

診断基準(1990年、Hodgeら)

 

1)発作中の情報が、その間ほとんど目撃した目撃者から得られる

 

2)発作中、明らかな順行性健忘が存在する

 

3)意識障害は無く、高次脳機能障害は健忘に限られる(失語や失行はない)

 

4)発作中および発作後に神経学的徴候はない

 

5)てんかんの特徴がない

 

6)発作は24時間以内に消失する

 

7)最近の頭部外傷や活動性のてんかん(治療中、過去2年間に発作があったもの)のある患者は除外する

 

 

原因は未だ不明で、従来から両側の海馬障害によると考えられています。

 

片頭痛、脳血管障害、代謝異常および脳静脈灌流異常などが推測されている他、精神的ストレスなど情動的なもの、入浴、水泳およびバルサルバ負荷が誘因になることが報告されています。

 

 

画像診断では、頭部単純MRI拡散強調像で、発症直後に異常はないが、6~72時間で海馬CA1領域を中心に小さな異常信号を検出でき10日後までに消失するのが観察できることがあります。

 

これは、一過性全健忘の特徴といわれ、診断の一助になります。