4) 「慢性便秘症診療ガイドライン2017年」とは?…その3
 
        

「慢性便秘症診療ガイドライン2017年」は、科学的証拠による評価に耐えうる情報が少ないのは事実です。

また、以下の項目の記載もありますが、目新しい情報が乏しいので、青文字でコメントを加えてみました。

 

⑧ 一般検査
・血液検査:主に内分泌・代謝疾患による二次性便秘の鑑別

血算検査(赤血球数、ヘモグロビン)

血清生化学検査(BUN、クレアチニン、カルシウム、カリウム、マグネシウム)

血清免疫学検査(C反応性タンパク)

赤沈

 

・尿検査:尿糖

 

・糞便検査:便潜血検査

 

・糖尿病の合併を疑う例⇒血糖、HbA1c

 

・甲状腺疾患を疑う例⇒遊離T₃、遊離T₄、甲状腺刺激

 

ホルモン
・便秘を引き起こす内分泌疾患を疑う例

⇒副甲状腺ホルモン、グルカゴン
         

⇒二次性便秘を引き起こす疾患のうち、代謝障害は血液検査が役に立ちます。それらを列記してみます。糖尿病、高カルシウム血症、低カリウム血症、低マグネシウム血症、甲状腺機能低下症、尿毒症

これらの検査は、いずれも杉並国際クリニックにて実施することができます。

 

 

⑨ 除外診断としての画像診断(腹部X線、注腸X線、大腸内視鏡検査)
・腹部X線検査:器質性腸疾患(腸閉塞、結腸軸捻転等)のスクリーニ
ング
・注腸X線検査:器質性腸疾患(大腸がん等)のスクリーニング
・大腸内視鏡検査:除外診断(腫瘍、大腸黒皮症などの炎症等)
警告症状や危険因子があり、消化管狭窄に伴う便秘を疑う場合。
一般的な便秘薬による治療への反応が乏しい場合。
偽膜性腸閉塞等の除外診断。
 ⇒慢性便秘症のほとんどの症例で腹部X線検査のみを実施しています。
  注腸X線、大腸内視鏡検査は、便潜血検査で潜血反応を確認した場合などに消化器専門医療機関に依頼して実施する方針です。
           なお、人体に無害で安全な画像診断法として超音波検査があり、消化管への応用も進んでいるはずであるのに、慢性便秘症に対する消化管エコー検査について言及されていないのは不思議な気がします。

⑩ 専門施設で行われる検査(排便造影検査)
排便造影検査:直腸肛門の機能障害に起因する病態としての便排出障害を診断する場合の指標

このように

こうした現状を踏まえる中で、杉並国際クリニックでは、慢性便秘症に対して、どのような有効策を講じているのでしょうか?

 <明日に続く>

1)「慢性便秘症診療ガイドライン2017年」とは?…その2

 

ガイドラインの主な内容を紹介します。

 

①慢性便秘症の定義

 

②症状聴取

 

③ブリストル便形状スケールの利用

 

④既往歴聴取

 

⑤除外診断(二次性便秘、薬剤性便秘、女性特有の便秘)

 

⑥警告症状及び危険因子の概念

 

⑦身体診察(腹部・直腸-肛門)

 

⑧一般検査

 

⑨除外診断としての画像診断(腹部X線、注腸X線、大腸内視鏡検査)

 

⑩専門施設で行われる検査(排便造影検査)

 

などについて触れています。

 

以下、それぞれの項目について概説します。

 

 

①慢性便秘症の定義

慢性便秘症とは「本来体外に排出すべき糞便を十分量且つ快適に排出できない状態」と定義しています。わが国では便秘に対して市販薬の使用頻度が高いため、便秘を訴えないケースが多く、問診して確認しなければ便秘の有無はわかりません。

 

 

②症状聴取

患者の訴えは、便秘だけではありません。また薬剤の使用により、本来の便の形状が不明となりがちです。便秘以外にも多様な症状を伴うことがあります。代表的なものとしては、腹痛、腹部膨満、残便感ならびに肛門閉塞感等の症状、硬便やそれに伴う肛門痛などです。

 

定義に即して、慢性便秘症が疑われる患者に対しては、排便回数、便の症状ならびに腹部・肛門の症状を聴取することが大切です。

 

ただし、どのような消化器症状が慢性便秘症の病態と関連するかという観点での知見は極めて少ないのが現状です。

 

そこで杉並国際クリニックでは、まず<快食・快便ですか?>とお尋ねしています。その際には、排便回数と便の性状をお尋ねします。この際に役立っているのは、次のブリストル便形状スケールです。

 

 

③ブリストル便形状スケールの利用

便の性状の分類については、ブリストル大学病院のヒートン博士が考案したブリストル便形状スケールがあります。このスケールと慢性便秘症の重症度とはよく相関します。

 

 

④既往歴聴取

病悩期間、発症契機、併存疾患、内服薬ならびに手術歴・出産歴を含めた既往歴を聴取します。

 

 

⑤除外診断(二次性便秘、薬剤性便秘、女性特有の便秘)

・二次性便秘:器質的疾患、神経疾患、代謝疾患等、便秘の原因となる疾患をもつ便秘

 

・薬剤性便秘:服用している薬剤が原因となる便秘

 

・女性の場合は、月経周期や妊娠に伴う便秘があります。

 

 

⑥警告症状及び危険因子の概念

警告症状とは排便習慣の急激な変化、予期せぬ体重減少、血便、腹部腫瘤、腹部波動、発熱ならびに関節痛等を内容とします。

 

危険因子とは50歳以上での発症および大腸器質的疾患の既往歴・家族歴等を有することです。

 

 

⑦身体診察(腹部・直腸-肛門)

・腹部視診:手術痕・仰臥位での腹部膨隆の有無

 

・腹部触診:腫瘤・圧痛の有無

 

・腹部打診:鼓音の分布

 

・腹部聴診:腸音(特に、腸音亢進を認める場合には、過敏性腸症候群、腸管癒着、大腸がん等による狭窄の可能性を考慮します)

 

・肛門・直腸診察

 

 

「慢性便秘症診療ガイドライン2017年」は、以上にも関わらず、科学的証拠による評価に耐えうる情報が少ないことが現実です。また、保険医療制度の限界という問題点も残されています。

 

 <明日に続く>

 

 

2)「慢性便秘症診療ガイドライン2017年」とは?…その1

 

慢性便秘の診療は、「慢性便秘症診療ガイドライン2017年」(日本消化器病学会関連研究会、慢性便秘の診断・治療研究会、2017年)では、“便秘”の定義を、「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」としています。つまり、便秘は“疾患名”でも“症状名”でもなく、“状態名”であると規定しているのです。その状態とは、「排便回数や排便量が少ないために糞便が大腸内に滞った状態」、あるいは「直腸内にある糞便を快適に排出できない状態」です。

 


今回のガイドラインでは、まず、便秘の原因として、「器質性」と「機能性」に分類します。「器質性」は「狭窄性」と「非狭窄性」に分けられます。そして、「非狭窄性」と「機能性」は、それぞれ「排便回数減少型」と「排便困難型」に分けられるという構造です。この「排便回数減少」と「排便困難」というのが、「症状」になります。


「排便回数減少」のめやすは「週3回未満の排便」、
「排便困難」とは「直腸内の糞便の排出が十分でなく残便感がある」
状態です。

 

さらに、「病態」として、「大腸通過正常型」「大腸通過遅延型」「便排出障害」に分けられます。しかし、わが国では、保険診療で大腸   通過時間の測定を行うことができないので、この病態分類を有効活用できないという問題点があります。
「大腸通過正常型」は、排便回数や排便量が少なく、主な原因は食物繊維摂取不足です。そのため、適正に食物繊維をとること(目標は1日に18~20g)で改善することが多く、生活指導が重要になります。


「大腸通過遅延型」「便排出障害」では、食物繊維の摂取量を増やしても改善しないことが多いため、適切な下剤等の投与が必要になります。

 


 <明日に続く>

1) 科学的根拠に乏しい慢性便秘症の診療

 

便秘症は、大部分が慢性便秘症です。慢性便秘症の有病率は非高齢者で約5%、高齢者で約10%にも上ります。わが国では、近年、生活リズムの乱れ、食生活の問題(欠食、偏食、食事量のアンバランス、食物繊維の摂取量の減少など摂取栄養素のアンバランス、運動量の減少、ストレス社到来による心理社会的ストレスならびに超高齢社会を迎え、慢性便秘に遭遇する機会が増えてきています。高齢化は個人差の拡大と複雑性をもたらすため、その診断にも多様性が求められ、同時に治療方法についてもきめ細やかな全人的な配慮が求められるようになってきました。

 

慢性便秘の診療は、医師として基本的な診療能力(技能・知識)の一つです。しかし、慢性便秘症の診療で問題なのは、正確で科学的な裏付けのある医学情報が極端に不足していることです。実際に、以下のような基本的な課題についてさえ医学部教育においても卒後教育においても体系的な教育がなされていないのが現状です。

 

・便秘症はどのような機序で発症するのか?


・便秘症の患者さんは、どの様な症状を訴えるのか?


・便秘症には、どのような検査が必要なのか?


・便秘症には、どのような治療を行うべきか?


・便秘症には、どのような疾患を合併しやすいか?


・便秘症の予後はどのようなものか?

 

 

こうした現状において、慢性便秘症患者の診断プロセスからして、医師によって大きく異なりがちであり、その結果、治療法もそれぞれの医師の経験に基づいた一貫性のないものとなりがちです。

 

わが国では、酸化マグネシウム製剤(浸透圧下剤類の塩類下剤)、センナ・センノシド(大腸刺激性下剤)が高頻度に使用されています。しかし、これらの薬剤はQOL改善の点をはじめとして、以下のような様々な欠点があります。

 

・十分な治療効果を得ることができない患者が多い。

 

・長期間にわたって連用することは望ましくない。

 

・したがって、高齢者に対しては、猶更、使用しづらい。

 

以上のような問題の多い現状を改善することを目的として、「慢性便秘症診療ガイドライン2017年」が出版されました。

 

 

それでは、この「慢性便秘症診療ガイドライン2017年」は、以上の多くの課題を解決するものなのでしょうか?

 

<明日に続く>