心不全診療の具体的な実践(水氣道®の効用)
心不全とは、心臓のポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難、倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐容能力が低下する状態をいいます。
いったん心不全を発症すると生命予後は不良であり、日常生活に著しい悪影響を与え生活の質は低下します。
心不全の有病率は先進国では1~2%であり、65歳以上で1%、80歳以上では10%と加齢に伴い有病率が上昇します。また、生涯における心不全リスクは3~5人に1人です。
わが国に限ってみてみると、心疾患による死因別死亡総数は、がんに次いで2番目です。
そのうち心不全関連死は死亡数が最も多い。心不全の予後は、5年生存率は50%であり、これは多くのがん腫と同等です。急性心不全による入院を経験した患者群では1年以内の死亡率は30%に達します。
2030年には患者総数は130万人に達すると予測され、心不全パンデミックが危惧されています。そのような中で、日本循環器学会・日本心不全学会から「急性・慢性心不全診療ガイドライン2018」が公表されました。
当クリニックでは、これに基づいて、4頁にまとめた「心不全マニュアル」(杉並国際クリニック受診者専用)を作製して診療指導に用いています。
非薬物療法としては、セルフモニタリングと運動療法が推奨されています。運動療法の維持・改善によって、心不全を含むすべての病気での入院を抑制できる運動療法の役割は重要です。外来診療においては安定期の心不全の患者が対象となります。
セルフモニタリングとしては血圧、脈拍、体重、心不全状態などの自己観察と記録が基本です。その他、不整脈の有無、息切れ、むくみ・疲労感などの症状があれば、記録用紙の備考欄に記入します。症状の悪化を認めたり、体重が数日から1週間で2㎏以上増加したりする場合には急性増悪が示唆されるので、ただちに主治医に連絡するようにします。
運動処方では、強度、時間、頻度の設定が基本要素です。
強度:
最大酸素摂取量の40~60%、
最大心拍数の50~70%、
心拍予備能(最大心拍数-安静時心拍数)の30~50%
自覚的運動強度(ボルグ・スコア)では11(楽である)~13(やや辛い)程度
時間:1回30~60分
頻度:週3~5回
最大心拍数を推定する計算式は複数あります。
以下の数式で推定値を算出することをお勧めします。
最大心拍数=206.9−(0.67×年齢)
このように、ガイドラインは親切な指針を示していますが、実際の外来診療で、こうした貴重な情報を活用できているという話は聞いたことはありません。
実にもったいない話です。その理由は、セルフモニタリングまでは患者さんが実施してくれますが、処方通りの運動療法を継続的に行なうということは、かなりハードルが高いからです。こうした現実を踏まえて創出した運動療法の新体系が2000年に萌芽しました。
それが水氣道®なのです。指導者が患者さんと共に実践するのがベストであるという信念はますます確かなものになってきています。
なお、心不全に対しては、セルフモニタリングと運動療法の他に、栄養食事療法が重要です。
「わかりやすい臨床栄養学(第6版)」<三共出版>2020・4にて詳しく解説しています。
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