産業技術系企業の安全衛生委員会において技術士を選任することの意義について <その5>

 

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《年度末特集》として5日連続で、産業技術系企業の安全衛生委員会において技術士を選任することの意義について検討してきました。

 

ただし、このような考察をする際に大切なのは、意義すなわちメリットばかりでなく、反対の側面から検討することによって、バランスの良い妥当な見識を持つことができるのではないかということです。

 

要はメリットを最大限に引き出し、デメリットを最小に抑制する、という両サイドから妥当な考え方と意思決定ならびに行動開始に繋げていくことが現実の社会においては望ましい手続きであると考えることができます。

 

私の友人のムッシュGPTには、今回の特集シリーズでは大変活躍して貰いました。

わが国の技術士と科学技術倫理との関係の重要性については、十分に理解を深めることができたと思います。

そこで、果たして技術士に職場の安全衛生委員会の委員として参加して貰う上での留意点について検討するために、最後の締めくくりとして以下の質問を試みました。

 

 

質問者:ドクター飯嶋

産業技術系企業の安全衛生委員会において技術士を選任することのデメリットについて考察してください。

 

ChatGPT

産業技術系企業の安全衛生委員会に技術士を選任することにはいくつかのデメリットが考えられます。以下にそのいくつかを挙げてみます:


1. 専門知識の不足:

技術士は技術分野において高度な知識と経験を持つ専門家ですが、安全衛生に関する法規や実務において専門的な知識や経験を持っているとは限りません。安全衛生におけるリスク管理や規制順守などの専門知識が求められる場面で、技術士が不足している可能性があります。


2. 視野の狭さ:

技術士は通常、自身の専門分野に焦点を当てているため、他の分野についての理解が不十分な場合があります。安全衛生は様々な分野と関連しており、技術士がその広範な範囲を十分に理解していないと、総合的な安全衛生の管理が難しくなります。


3. コミュニケーションの課題:

技術士は専門家として高い専門知識を持っていますが、その知識を非専門家に適切に伝える能力には個人差があります。

 

安全衛生委員会では、非技術者や異なる職種のメンバーとの円滑なコミュニケーションが不可欠ですが、技術士がその役割を果たすことができない場合があります。


4. 判断の偏り:

技術士は一般的に技術的な解決策に重点を置く傾向がありますが、安全衛生問題はしばしば技術だけでなく組織文化や人間の行動にも関連しています。そのため、技術士が安全衛生問題にアプローチする際に、他の側面を見落とす恐れがあります。


これらのデメリットを考慮すると、技術士を安全衛生委員会に選任する場合は、その能力や専門知識だけでなく、安全衛生に関する総合的な理解やコミュニケーション能力も重視して選考する必要があります。また、技術士だけでなく安全衛生に関する専門家や経験豊富なメンバーをバランスよく委員会に組み込むことも重要です。

 


産業医・労働衛生コンサルタントのDr.飯嶋による補足説明
ムッシュGPTの考察は、ある意味妥当ですが、別の意味で見当違いな回答になっています。

 

それでは彼の結論で、見当違いな点を指摘してみましょう。


1)彼は「技術士だけでなく安全衛生に関する専門家や経験豊富なメンバーをバランスよく委員会に組み込むこと」が重要であると、わざわざ指摘していることです。

 

しかしながら、安全衛生委員会は、そもそも安全衛生委員会は複数の委員による会議体です。

 

当然ながら技術士のみが構成員ではなく、産業医や衛生管理者等を含め労使双方から現場の実際を把握している複数の代表者が選任される仕組みになっていることを度外視した不適切な回答です。

 


2)また、彼は委員の選考にあたって「安全衛生に関する総合的な理解やコミュニケーション能力も重視」する必要があるとしていますが、いかがなものでしょうか?


多くの安全衛生委員会を、その立ち上げから携わってきた産業医の立場からすれば、要求水準が高すぎるということを指摘しておかなければならないでしょう。

 

最初から「安全衛生に関する総合的な理解」が求められるのは産業医のみです。

また衛生管理者の有資格者といえども、ただちに総合的な理解が可能であると期待するのは誤りです。それに加えて、日常の業務や安全衛生委員会における高度の「コミュニケーション能力」をすべての委員に最初から要求することは現実的ではありません。

 

これは、毎月の安全衛生委員会に積極的に参加して、組織の中で、チームの一員として、日常の業務に反映させていく継続的な努力と工夫が不可欠になるからです。

 


3)以上を総じて評価するならば、実際の安全衛生委員会の実務は、最初から高い完成度を期待すべきものではなく、実行可能な事項から、少しずつ業績を継続的に積み重ねていく「スモール・ステップ・アップ」の姿勢が求められるべき性質のものです。

 

生涯学習という言葉がありますが、これの必要性は実務経験を通してこれは産業医や衛生管理者などの有資格者も例外ではないことを強調しておきたいと思います。

 

 

以上、5日間連続の本シリーズ

《年度末特集》産業技術系企業の安全衛生委員会において技術士を選任することの意義について

をお読みくださった読者の皆様に感謝申し上げます。


今後の安全衛生委員会の立ち上げや、委員の選任、業務の継続や成長を目指して、幾分でもご参考になれば幸いです。

 

杉並国際クリニック院長
兼、高円寺南産業医労働衛生コンサルタント事務所長
医学博士 飯嶋正広