号外:サム・アルトマン氏のOpenAI CEO解任・復帰劇(その2)

 

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号外:サム・アルトマン氏のOpenAI CEO解任・復帰劇(その2)

 

アメリカの有力紙、ニューヨーク・タイムズは11月21日、サム・アルトマン氏がオープンAIのCEOを解任されるまでの内幕を詳細に取材した記事を掲載しました。


それによると、一昨年2021年に、AIの研究者が会社を退職し、別会社をつくるときにもアルトマン氏を解任しようという動きがありましたが、失敗に終わったということです。


さらに、今年2023年に入り取締役の人選をめぐる議論がこう着状態になり、アルトマン氏らとほかの取締役との間の溝が深まったことを、ニューヨーク・タイムズが今回の解任の背景として挙げていることをNHKが取り上げて報道しています。


それによると、アルトマン氏は取締役のひとりで先月発表された論文の執筆に関わった、ヘレン・トナー氏と数週間前から対立していたとしています。


この論文はAI=人工知能の開発を進める国や企業の意図をどのように評価すべきかをテーマに書かれています。

 

しかし、アルトマン氏は論文のなかで、オープンAIの取り組みが競合他社と比べて批判的に書かれているとして、トナー氏に苦言を呈し、ほかの役員たちとトナー氏を解任すべきかどうか議論を進めたということです。


ところがこの過程で別の取締役でチーフサイエンティストのイリヤ・サツキバー氏が態度を翻し、ほかの役員とともにアルトマン氏の解任に動いたとしています。


アルトマン氏と対立した取締役会のメンバーは、いずれも成長とAIの安全性のバランスを重視し、アルトマン氏の会社の拡大に注力する姿勢に懸念を示していたということです。


記事では今回、表面化した対立について「新しいAIシステムの構築が、人工知能でもうけようとするビジネスパーソンと、人工知能が人類への脅威となることを心配する研究者とが、同調できるかどうかを試していることを示している」と指摘しています。


OpenAIについて英語のみならず日本語での質問でも、設立者であるマスク氏やアルトマン氏の名前が挙げられていないことについて、私は指摘したことの背景を垣間見た思いがします。日本の報道は独自の取材力が脆弱で、概ね米国の主流メディアの翻訳に頼ってでもいるかの印象を私は抱いているのですが、今回のケースでもそうした現実を物語っているかのように思われます。


このようなことから「外国語と言えばまずは英語、英語は国際語、英語さえ使えれば・・・」という発想に陥っている自称知識人は、日本語が使えれば事足れり、という一般人と国際インテリジェンスにおいて大差がないばかりか、かえって根拠の乏しい自負心がある分だけ危うい状況にあるかもしれないことを自覚すべきではないかと思います。


ただし、OpenAIについての日本語での質問に対する回答の結論部分を再掲しておきたいと思います。


「OpenAIのミッションは、AI技術の進歩が人類全体に利益をもたらすようにするための道筋を示し、安全性と倫理的な側面に焦点を当てて、社会的な価値観を大切にしながら研究を進めることです。」


この回答文は、AIが社会的に邪悪な存在になりうるリスクに言及しています。2023年3月に、イーロン・マスク(創立メンバーであったが、すでにOpenAIを辞任している)をはじめとする専門家や業界の関係者が、「社会にリスクをもたらす可能性がある」として、AIシステムの開発を6カ月停止するよう共同声明を出しています。


アルトマン氏のCEO退任に働いた取締役のヘレン・トナー氏、別の取締役でチーフサイエンティストのイリヤ・サツキバー氏は、イーロン・マスク氏に近い立場のように読み取ることができます。


OpenAIは創立当初は非営利組織でしたが、IT大手のマイクロソフト(1975年にビル・ゲイツとポール・アレンによって創業)が11月19日、アルトマン氏をヘッドハントすることを働きかけたことを明らかにしたことなどから、私は今後のOpenAIの営利化に伴う大規模情報の操作性などの危険性を感じざるを得ません。