取材報道<NHK特設サイト 新型コロナウイルス>から学ぶ4症例の研究
新型コロナウイルスに感染したとき、どんな事態に直面するのか。感染した人や家族の話を通して、その一端を知るため、NHKが行ったインタビューの内容をできるかぎり詳細にお伝えします。
以下は、取材記事を下敷きとし、加筆や編集部分は緑文字として区別しました。
症例3:結婚記念日のクルーズ船旅行が… 夫を失った妻が語る1か月半
4月4日取材 社会部 山屋智香子
集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗船して夫婦ともに感染。夫は発症から1か月半で亡くなりました。妻は「夫の死を無駄にしたくない」と感染症特有の怖さと無念さを明かしました。初めて語ったという経験をできるだけ詳細にお伝えするため、インタビューを一部整理した上で紹介します。
症例3(その10)
第10節:今も続く苦悩 それでも夫のために語った
妻は自宅にささやかな祭壇をつくり、毎日手を合わせている。今も周囲には、クルーズ船に乗船していたことさえ、ほとんど話していないという
とにかく、「ダイヤモンド・プリンセス」と言っただけで引いちゃうからね、人は。私、循環器内科にかかってて、先生に、「ダイヤモンド・プリンセスに乗ってたんです」って言った途端に、先生がヒューっとのけぞっちゃって(この当時はともかく、現在であれば、事前に主治医に連絡してから受診していただくことになります。)だんだん、だんだんこう椅子が遠くなってっちゃう(患者さんにとってはショックだと思います。しかし、医師としては、むしろ当然の責任ある対応です。)のを見てね、ああそうなんだ。
医療関係者でもそうなんだ、治ってるって分かってても(残念ながら、Covid-19感染症の感染性、治癒確定、再発、予後などについては、現在に至ってもほとんど定かではありません。)そうなんだと思って。
それでパソコン打ち込んでる看護師に、「怖い?」って聞いたら、「うん」って言ってたから、やっぱり怖いんだなっていうふうに思ったし。
だから、本当にここで、いないふり。ひとさまと会話をしないというかね。そんな生活してますよ。やっぱり公にできない。治っていても、やっぱり受け入れてもらえないというか。
絶対に自分が感染源になりたくないと思う(その気持ちは貴いです。医療従事者であれば、なおのことです。しかし、医療従事者ですら自分が感染源になっているのかどうかも知ることができずに診療を続けているのが現状です。ですから、まず、すべての人が自分も感染者であると仮定して行動を自粛しない限り完全な収束は見込めないということになります。パンデミックを引き起こして完全に排除できたウイルスは天然痘だけなのですから。)から、もう1度病院でレントゲンを受けたり、血液検査もしたりして。
それでもうOKとなっても、やっぱり何か安心できない人たちがいるということが、これをどういうふうにすればいいのか分からない(ご尤もです。専門家でさえも明確な回答を出すことができずにおります)んですよ。
なぜ取材を受けたのか、妻は最後にこう語った
現実こうなんですよっていうことを伝えたいと思ったのは、彼が生きて、いきいき生きていて、それでこういう病気にかかって、苦しんで苦しんで頑張って。40日も頑張ったんだから、それも伝えたかったし。それからお骨を拾いたいという人はいたと思うけど、声かければね。
でも、声をかけることもできない。
そんなふうにして、彼が生きていたことを抹消されてしまう。そういう歯がゆさというか悔しさというか、それもありましたね。
彼がクルーズをすごく楽しんで、思いがけないコロナウイルスに侵されて。そして苦しんで逝ったさまも、船の中の実態も知ってほしかったし。そういうことがあんまりテレビなんかでは出てこないし。
私の本当に一個人の経験だけれども、それを伝えたかった、知ってほしかった。
だから、まだまだすごい生傷が残ってて、何か血が滴るような感じがするけれども、それでもあえて話をしたいと思いました。
かさぶた剥がして血が出るみたいな、そういう思いをするけれど。それでもあえて彼のために、そうしたいと思ったの。(ありがとうございました。亡くなられたご主人のためばかりでなく、多くの皆様のための貴重なレポートを提供してくださいました。御主人のご冥福を心よりお祈り申し上げると共に、感染症を乗り越えても心に深い傷を負われた皆様への支援の在り方も含め、いただいた教訓を実効性あるものとして役立ててまいりたいと思います。また、今後もお健やかにお過ごしくださいますように。)
(4月4日取材 社会部 山屋智香子)
<この項終わり>
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