4月22日(水)糖尿病診療の実際No3

糖尿病高齢者の血糖コントロール(その1)

 

「低血糖と低血糖症状」

 

糖尿病診療において常時警戒しておかなければならないのは急性症状です。

 

その代表は、低血糖症状、乳酸アシドーシスおよびケトアシドーシスであり、さらに何らかの理由で食事が摂れないとき(シックデイ)です。

 

とくに高齢者には心機能低下がみられ、低血糖症状が典型的でないことがあります。さらに、重症低血糖を来たしやすいという特徴があります。

 

ここで、低血糖について説明します。低血糖とは血糖値が70㎎/dl以下となることです。

しかし、低血糖症状は低血糖でなくても生じることがあるので厄介です。そのためには低血糖症状とはどのようなものかを知っておくことが重要です。

 

低血糖症状は、『空腹感、脱力感や頭痛』という低血糖に特異的でない、ありふれた症状から始まることが多いので注意が必要です。さらに血糖が低下すると、『発汗、動悸、頻脈、手の震え』といった交感神経系の緊張症状が出現します。

 

低血糖を来しうる薬物で治療されている患者では、『普段と受け答えが違う』といった場合にも低血糖を疑うことが大切です。症状が低血糖によるものか否かの確認には血糖自己測定(SMBG)が有用です。

 

特にインスリン治療中の高齢者は、低血糖を来さない範囲で良好なコントロールを目指します。低血糖症状が『うつ状態、せん妄、痙攣』などといった非典型的な型で出現することがあります。そのため独居の場合には十分な注意が必要です。

糖尿病昏睡、急性感染症、手術など緊急の場合は、速効型あるいは超速効型インスリン製剤を中心に使用するなど、詳細な指針が策定されています。

 

高齢糖尿病患者の低血糖の診断は必ずしも容易ではありません。

その理由は、高齢糖尿病患者では記憶、遂行機能(実行機能)、情報処理能力などの認知機能の領域が障害されやすいからです。

そこで、高齢糖尿病患者の診療に当たっては、普段から認知機能障害を疑う必要があります。その手がかりは以下の通りです。

 

遂行機能は目的をもった一連の行動を自立して有効に成し遂げる機能で、遂行機能障害があると段取りがうまく行かず、セルフケアが困難になります。

 

糖尿病患者における遂行機能障害は高血糖、手段的ADL(買い物、食事の準備、服薬管理、金銭管理など)の障害、およびセルフケアの障害と関連します。

 

記憶障害、手段的ADLの障害などは認知機能障害を疑う手がかりとなります。高齢糖尿病患者の認知機能障害は手段的ADL低下と関連します。一般の高齢者では買い物や金銭管理の障害は最も軽度認知障害(MCI)を予測するという報告があります。

 

以下のような状況では認知機能障害の頻度が高いことを認識する必要があります。

 

a) 75歳以上、b) HbA1c 8.5%以上、c) 重症低血糖の既往、d) 脳卒中の既往

 

<明日に続く>