緊急対策:新型コロナウイルス感染予防戦略No2

<皆が知らない診療契約の意外な法的性質と保険診療の実態>

 

【診療契約の法的性質】

患者と医師との間の診療関係を規律する法的合意を診療契約といいます。

患者が診察を申入れ(診療契約の申込)、それに対して診察を開始すれば(診療契約の承諾と同一視されます)、患者と病院・医師との間に診療契約が成立します。

民法上、労務を供給する契約(サービス契約)には、雇用、委任、請負の3つの類型が規定されています。

 

診療契約により、医師は、患者に従属して労務を提供すること(雇用)ではありえませんし、また、仕事の完成(治療による疾病の完全な治癒)という仕事の完成が目的(請負)ということも現実の医療では成り立たないため、委任に近いものとなります。

ただし、委任契約が法律行為の事務の委託を内容とするのであるのとは異なり、診療契約法律行為以外の事務の委託を内容としているために、これと区別して準委任とされます。

この点、多くの判例は、通説に従って、診療契約を準委任と位置付けています(例えば、東京地裁平成元年3月14日判決、東京高裁昭和61年8月28日判決など)。

 

最近のものでは、大阪地裁平成20年2月21日判決は、「診療契約とは、患者等が医師ら又は医療機関等に対し、医師らの有する専門知識と技術により、疾病の診断と適切な治療をなすように求め、これを医師らが承諾することによって成立する準委任契約であると解され」る、と述べています。

この結果、診療契約には、民法の委任に関する規定が準用されることになります。

 

【保険診療の現実】
 以上は、しかしながら、民法という私法領域のみに則る自由診療を前提とする理論に過ぎません。

わが国の主流となっている保険診療は、健康保険法等の各法に基づく、保険者と保険医療機関との間の「公法上の契約」に基づいています。

そのため、保険医療機関は、健康保険法等で規定されている保険診療のルール(契約の内容)に 従って、療養の給付及び費用の請求を行う義務があります。

 

これをわかりやすく言えば、保険診療とは、患者と医師(医療機関)との直接の第一義的な契約ではなく、行政機構と医師との「公法上の契約」という前提の上に成り立っているということなのです。

 

自由診療での医師は、医学的に妥当適切な診療を行いさえすればよいのですが、保険診療での医師(保険医)は、保険診療のルールに従って、療養の給付を実施する義務があります。

 

そのルールとはきわめて厳格で制限的な『療養担当規則』という規定を細部まで遵守しなければならず、そのうえ、次々と公布される各種関係法令の規定の細則の遵守をも求められます。

 

また、現場を知らずして、一方的に「診療上の必要」がないと認定されたり、「その他の理由」として不明確なまま減点を決定されたりすることも、近年ではしばしばです。

 

患者をはじめ調剤薬局、検査センターは不利益を被ることはないため、ご存じない方が圧倒的多数を占めています。

しかし、患者の求めに応じ、医師として可能な限り妥当適切な診療を心がけていても、医療機関が減点(診療報酬削減)という大きな不利益を被るリスクが増大していることに耐えられなくなりつつあります。

その場合、医療の質と効率が確実に低下し、患者の皆様をはじめ国民全体と国家にとっても取り返しのつかない大きな損害になるということの理解に達することは、それほど難しいことではないと思われます。

 

そこで私たちは、何をするべきでしょうか。私たちは保険医療の実際についての情報をある程度共有できたところで、第二として、皆さんにも起こりうる実例を検討してみることです。