脂質異常症とは?その1
―診断のための基準値についてー
脂質異常症という言葉に馴染めないでいる患者さんは少なくありません。その理由の一つは、かつて、高脂血症という言葉が一世を風靡した時代があったせいであるかもしれません。
この二つの言葉は関連があるのですが、きちんと区別しておくことが必要です。
まず、高脂血症ですが、これは血清脂質を構成するコレステロール(C)、トリグリセライド(TG)、リン脂質(PL)、遊離脂肪酸のうち、はじめは、CとTGのいずれか、ないし両方が増加した状態を指しました。
ところが、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版」にて、HDL‐コレステロール(HDL-C)が低い場合にも動脈硬化を促進することから、CやTGの増加に加えて、脂質異常症と命名されました。
もっとも、最初は低HDL-コレステロール血症も含めて高脂血症と呼んでいたのですが、医学の素人である一般人には不評で、「検査データで、どの脂の数値も高くないのに高脂血症の患者呼ばわりするのか?」と怒りだすような方も続出するありさまでした。
激しい方だと「医者は勝手な病名をこしらえて、患者を飯の種にするのはけしからん」などと言い出す方まで出現する有様でした。
ご尤もと言えばご尤もですが、医療の現場は大混乱でした。このような医療敵視・医療不信の方にみられる誤解は高円寺南診療所時代に、ほとんど解決しましたが、医学用語を適切に説明して、理解していただくことはとても大切なことです。毎日のように、こうして医学情報を発信している私の動機の一つになっています。
このような経緯を背景として「脂質が高値でも低値でも異常なときは異常である。」と説明することで事なきを得ようとして命名された言葉が、脂質異常症、ということになります。
そこでは、脂のすべて悪者にしてしまいがちな思い込みからの脱却が図られています。「善玉コレステロール、悪玉コレステロール」などという表現を用いての補助的説明も一定の効果を挙げることができたように思います。
コレステロールの他に、中性脂肪とも呼ばれるトリグリセライド(TG)も血清中の濃度が高くなるとリポ蛋白の質的異常(小型高比重LDLコレステロールやレムナントの増加など)、血液凝固線溶系の異常、善玉コレステロールであるHDL-コレステロールの低下といった動脈硬化に促進的に働く変化が起こります。
つまり、中性脂肪も高値になると高TG血症といって冠動脈疾患(CAD)の重要な危険因子であるということになります。
なお、高TG血症のリスク管理には、近年に至って、非HDLコレステロール値が用いられるようになってきました。これは、すべての血清脂質濃度から善玉コレステロールであるHDLコレステロール濃度を除いた残りの脂質濃度です。わかりやすく言えば、善玉コレステロール以外のコレステロールを悪玉コレステロールに見立ててリスクを評価しようとするものです。
そこで、LDL-コレステロール、HDL-コレステロール、トリグリセライドの他に非HDLコレステロールの4つの指標を駆使して脂質管理をすべきという時代の到来となったわけです。
ただし、ここで保険医療の現場では困った事態になりました。以上の4項目のすべてを検査することは事実上制限されているのです。最大で3項目までが保険適応です。
しかし、幸いなことに、3つのデータがあれば4項目は簡単な計算で導き出せるのです。
そのために杉並国際クリニックでは、従来の脂質3セット項目(LDL-コレステロール、HDL-コレステロール、トリグリセライド)を改め、この7月1日から新しい脂質3セット項目(総コレステロール、HDL-コレステロール、トリグリセライド)としました。
定期モニターすべき、4項目のうちHDL-コレステロール、トリグリセライド(TG)の2項目だけは直接法でデータを取り、非HDLコレステロール(non-HDL-C)は(TC - HDL-C)つまり、総コレステロール(TC)からHDL-コレステロール(HDL-C)を引くことで求めることができます。
そして、最後の、そして最も重要なLDL-コレステロール(LDL-C)は非HDLコレステロール(non-HDL-C)からトリグリセライド(TG)の5分の1を引くことで求めることができます。
本年7月以降に血液検査で血清脂質を調べる予定の方は、以上のようにして血清脂質の4項目のデータを得て、リスク評価した上で、これまで以上に、緻密で、個別かつ具体的な治療管理を行うことになります。
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