心臓・脈管 / 腎・泌尿器の病気
<脈拍について>
脈拍を診ることを脈診といいます。
現代医療においても重要な診察手技ですが、患者さんのお話をうかがう限りでは、循環器の専門医でさえ脈診をしない傾向があるようです。
むしろ、東洋医学の専門医は必ず脈診を行い、西洋医学以上に細やかな分類による見立てがなされています。
しかし、基本的な診方には大差がありません。
違いといえば、東洋医学とくに中医学では舌診とセットとして総合的に見立てをする点で、より丁寧で優れているといえるでしょう。
なお日本漢方では、これに腹診を加えてより統合的な診るのが素晴らしいと思い、なるべく実践することにしています。
いずれの場合でも、脈拍は、一般に手首の橈骨動脈を触診して診察します。
脈の触診のみで得られる情報には、次のようなものがあります。
①頻脈と徐脈:
頻脈(脈拍数≧100/分)は発熱時の他、貧血、甲状腺機能亢進症、頻脈性不整脈でみられます。
徐脈(脈拍数≦60/分)は、迷走神経緊張状態、甲状腺機能低下症、脳圧亢進、神経原性ショック、徐脈性不整脈でみられます。
②大脈と小脈:
脈の大小は脈圧(収縮期血圧-拡張期血圧)の大小よります。
大脈は脈圧の増大により、大きく振れる脈です。
動脈硬化、大動脈弁逆流、バルサルバ洞動脈瘤破裂、大動脈管化開存などでみられます。
小脈は脈圧の低下により小さく触れる脈です。
心機能低下などでポンプ室である左心室からの一回拍出量が減少した場合、大動脈狭窄、心室中隔欠損などでみられます。
③速脈と遅脈:
脈の速さは、実際には脈の大きさと密接な関係があり、大脈は速脈、小脈は遅脈となります。
速脈とは、急速に強くなり、急速に消失する脈です。つまり、
クレッシェンド(<)の直後にデミュネンド(>)が現れる脈です。
大脈のように、1回拍出量・脈圧の増大している場合の他、敗血症などで末梢血管抵抗が減少している場合にも生じます。
遅脈とは、徐々に大きくなり、徐々に小さくなる脈です。
これの代表が大動脈弁狭窄症です。
しかし、著しい低血圧の場合、触知できないこともあります。
高円寺南診療所の受診者の傾向としては、栄養不良、冷え性、アレルギー・リウマチ体質の方が少なくないため、
脈の触れにくい場合に備えて、パルスオキシメーターを併用してフル活用しています。
パルスオキシメーターは、末梢動脈血流における酸素飽和度を計測するのが主目的ですが、
腸骨動脈より末梢の下肢動脈の狭窄・閉塞が疑われる際には、
両側大腿動脈、膝窩動脈、足背動脈の触知を行い、左右差を比較する際にも有用です。
パルスオキシメーターのみでも①頻脈か徐脈か、および脈の不整・結滞の有無はある程度鑑別できますが、
②大脈か小脈か、③速脈か遅脈か、を鑑別することは不可能であるほか、
④特殊な脈(奇脈、交互脈、二峰性脈)などは脈波計を用いると把握しやすいです。
奇脈とは、吸気時に呼気時より収縮期圧が10mmHg以上低下するものです。
ただし、健常人でも吸気時に3~10mmHg程度の収縮期血圧降下をみることがあります。
奇脈がみられるのは、吸気時に左室の拡張が制限され、左室に還流する血流障害がある場合にみられます。
心タンポナーデ、重症喘息などでみられます。
交互脈には、機械的交互脈と電気的交互脈の二種類あります。
機械的交互脈は、脈は洞調律(脈拍リズムは正常)だが、大脈と小脈が交互に出現するもので、重症左心不全の徴候です。
電気的交互脈は、心電図を取らなければ判定できません。
心電図の波形上のQRSの振幅が1ないし数拍ごとに増加したり減少したりする現象です。
これは多量の心膜液が貯留した結果、心膜腔内で心臓が振り子の運動をするために生じるものです。
二峰性脈とは、心臓の収縮期に脈波の峰(ピーク)が2個生じるものです。
これは主に閉塞性肥大型心筋症で観察されますが、大動脈弁逆流の一部でもみられます。
このように、医師の指先の触覚だけでも、患者さんの多方面に及ぶ健康情報を収集することができます。
経済的にも時間的にも資源を節約することが可能で患者さんへの諸々の負担も少ないアプローチなのです。
しかし、そのような技能を持って実践している医師が、大病院経営者や行政に高い評価を得て厚遇されている話は、残念ながら一向に耳にできないのは残念です。
自分の良心と信念をもって診療できるのは開業医の特権で、自分の境遇に感謝すべきなのかもしれません。
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