日々の臨床 7月10日 月曜日<薬物相互作用(1)>

中毒・物理的原因による疾患、救急医学

 

テーマ:薬物相互作用(1)

 

<喫煙継続を勧める困った精神科医の話>

 

 

精神科受診(困ったことに本人は99%、「心療内科受診」と申告しますし、

 

精神科医はほとんどが内科医でないのに心療内科を標榜しています。

 

また、精神科でなく神経科・心療内科のみを標榜する例が多数に登ります)の中断者で、

 

高円寺南診療所を受診される方は、昔も今も少なくありません。

 

その多くは喫煙者です。そして、さらにそのほとんどの方が

 

精神科医から禁煙を勧められたことが無いとの報告を受けます。

 

その中には困ったケースが紛れています。

 

喫煙を勧める精神科医が少なからず存在しているのです。

 

それには医学的な理由があります。

 

 

それは禁煙すると中毒症状が出る薬を内服させているケースです。

 

 

高円寺南診療所は、禁煙を積極的に推進していますが、

 

その理由は、喫煙が多くの病気の回復を根底から揺るがす元凶だからです。

 

そこで問題になるのが、精神科でオすでにオランザピン(シプレキサ®)

 

の処方を受けている喫煙者の方への対処です。

 

オランザピンは、統合失調症や双極性障害の治療に用いる非定型抗精神病薬です。

 

オランザピンは薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)のCYP1A2などで

 

主に代謝分解されます。

 

 

この事実を把握しないまま、単純に禁煙を勧めると、

 

オランザピンの中毒症状(錐体外路症状など)が出現する可能性があります。

 

 

ここで、錐体外路症状についてごく簡単に説明を加えます。

 

パーキンソン病に似た一連の症状です。

 

主に、手足がふるえる(振戦)、動きが遅くなる(無動)、筋肉が硬くなる(固縮)、

 

体のバランスが悪くなる(姿勢反射障害)、といった症状がみられます。

 

これらによって、顔の表情の乏しさ、小声、小書字、屈曲姿勢、小股・突進歩行など、

 

いわゆるパーキンソン症状といわれる運動症状が生じます。

 

 

なぜ禁煙すると中毒症状がでるのかというと、

 

喫煙がオランザピンを分解するCYP1A2を誘導するからなのです。

 

わかりやすく言えば、喫煙はオランザピンの効き目を弱めてしまうのです。

 

そして禁煙によりCYP1A2が誘導されなくなると、

 

結果的に過剰に投与され続けていたオランザピンが

 

分解されなくなるため血中濃度が急上昇数するからです。

 

 

逆に言えば、まず、禁煙を成功させていれば、

 

オランザピンの処方は少量で済んだ可能性があります。

 

高円寺南診療所でもオランザピンを使用することがありますが、

 

喫煙しない患者さんに限定して処方しているためか少量で効果が発現します。

 

 

いずれにしても、相互作用の可能性を十分に説明し、

 

頻脈、激越 / 攻撃性、構語障害、種々の錐体外路症状、

 

および意識障害(鎮静から昏睡に至るまで程度は様々)などの症状が生じた場合には、

 

速やかに来院していただく必要があります。