血液・造血器の病気
テーマ:鉄欠乏性貧血
<見落とされやすい鉄欠乏性貧血>
わが国では、妊娠可能女性の約25%で鉄欠乏性貧血がみられると推測されます。
原因の約80%は、鉄の過剰喪失によります。
重要なのは子宮筋腫、過多月経、消化器がん、痔など慢性失血を見落とさず、しっかり治療することです。
鉄欠乏性貧血は、鉄欠乏により骨髄でのヘモグロビン合成が障害される小球性低色素性貧血です。
ヘモグロビン不足を補うため骨髄は過形成になります。
鉄欠乏性貧血では、小球性低色素性貧血で、網状赤血球も減少します。
顕微鏡で観察すると、赤血球の大小不同で赤味が薄い赤血球を認めます。
図1.鉄欠乏性貧血の赤血球像
赤い円盤状の細胞が赤血球です
楕円形や涙の形、変形した赤血球
もみられます。赤みの程度も様々です。
図2.いろいろな形の赤血球像
正常赤血球と小球性赤血球を比べてみましょう。
鉄欠乏性貧血の患者さんの赤血球は小球性です。
小球性低色素性貧血に、舌炎、口角炎、嚥下障害が合併することがあります。
そのような場合は、プランマー・ヴィンソン症候群といいます。
検査:
鉄欠乏性貧血では、血清鉄(Fe)は低値となり、総鉄結合能(TIBC)が上昇し、血清フェリチンは低下します。
ただし、鉄欠乏性貧血であっても、悪性腫瘍や慢性膵炎、感染などが合併していると、
それだけでフェリチンは上昇するので、しっかりと鑑別することが必要です。
血清鉄とTIBCが共に低値となるのは二次性貧血、とりわけ、慢性疾患に伴う貧血が疑われます。
二次性貧血では、慢性疾患による貧血でも血清鉄の低下がみられます。
しかし、網内系に鉄が取り込まれる結果、血清鉄は低下しますが、
貯蔵鉄は増えるのでフェリチンが増加します。
治療:
貧血の程度が強い時は無症状でも鉄剤投与を行います。
経口投与では吸収されやすい反面、胃腸症状の副作用が生じる場合があります。
その場合は静脈注射を行いますが、赤血球輸血は、特別な場合が無ければ行いません。
ただし見落とされやすい慢性炎症による貧血では、血清鉄は低下しているが、
鉄の利用障害なので、鉄剤を投与しても効果は期待できません。
その場合は、原因となる炎症そのものに対する治療が優先されます。
高円寺南診療所での実際の症例を提示します。
症例:A.K 46歳女 (鉄欠乏性貧血に対して経口鉄剤投与中)
治療前は、全身倦怠感、めまい、易疲労感、頭痛、顔色不良、動悸、息切れがありましたが、
婦人科治療の他に、鉄剤補給、プラセンタ注射、水氣道®参加などにより、現在はすべて解決しました。
基本データの推移(2008年⒓月9日⇒2017年6月5日)
○血清ヘモグロビン(Hb)8.8 ⇒ 12.2g/ dL(基準値:≧12g/ dL)
…高度の貧血からであり、ギリギリ正常へ
MCV(平均赤血球容積)77 ⇒ 100fL(基準値:80~100fL)
…小球性から正常上限、ギリギリ正球性、大球性の傾向
MCHC(平均赤血球血色素濃度)28.1 ⇒ 32.2%(基準値:31~35%)
…低色素性から正色素性へ
赤血球形態 大小不同あり、奇形赤血球あり、低色素 ⇒ 大小不同なし
網状赤血球28.1 ⇒ 26 0/oo…(基準値:2~27 0/oo)
…骨髄過形成傾向
血清鉄 ⒓ ⇒ 353μg / dL(基準値:90~150μg / dL)
… 極端な低値から高値へ
○総鉄結合能TIBC 498 ⇒ 398μg / dL (基準値:<360μg /dL)
… 貧血のない鉄欠乏状態
○血清フェリチン 1.5 ⇒13.0 ng / mL(基準値:≧12 ng / mL)
… 極端な低値からギリギリ正常へ
分析:貧血そのものは顕著に改善しています。
これは、経口鉄剤の効果というよりは、婦人科疾患に対する治療による効果であると考えます。
まだ若干ながら鉄欠乏状態傾向です。
MCVが高値傾向なのは赤血球より大きなサイズである
網状赤血球の数が増えているためだと考えられます。
慢性炎症による貧血の所見(血清鉄低下、血清フェリチン増加など)にも該当していません。
鉄剤はいつまで続ければよいのか?
鉄剤の投与で血色素(ヘモグロビン:Hb)が正常化した時点で中止してはいけません!
その理由は、貧血の改善経過を理解しておくとわかりやすいです。
鉄剤を投与してから、貧血が改善していく過程では、
血清鉄⇒網赤血球⇒血清Hb⇒血清フェリチン
の順に回復します。
つまり、最終的には血清フェリチンの回復を確認する必要があります。
この症例では、血清フェリチンが正常に達したので、
鉄剤の補給は終了できる段階になってきたといえるでしょう。
ただし、子宮病変とともに過多月経があり、
月経過多などによる失血性の貧血では網状赤血球が増加します。
鉄剤投与中止後の鉄分は、肉、魚、内臓【レバー】、穀類、緑黄色野菜に多いです。
特に、肉、魚から接種できる動物性の鉄分がヘム鉄であり、
植物性の成分である非ヘム鉄よりも吸収率が5倍ほど高いです。
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