神経・アレルギー・膠原病内科Vol.4

今月のテーマ<脳神経内科>

 

 

「脳神経障害」No.2

 

 

前回<昨日>の <医学クイズ>の解答は、E 舌下神経です。

 

 

舌下神経は舌の運動を支配しますが、一側の舌下神経が障害を受けて麻痺すると、

 

左右の舌筋の緊張のバランスが崩れて、舌の先端は障害側(麻痺側)の反対側(健側)に偏ります。

 

 

これは、高円寺南診療所での実際の経験例です。

 

 

40代半ばの女性ソプラノ歌手です。

 

 

活躍中の声楽家で、「歌唱に際して、息が持たなくなった」という

 

深刻なご相談で、耳鼻咽喉科と女性科(婦人科)と心療内科を経て来院されました。

 

 

最初に掛りつけの耳鼻咽喉科を受診して異常なしとされました。

 

 

冷えがきつくなり、気分が不安定であったため、

 

更年期障害を疑い女性外来を受診したが、女性ホルモン等も異常なし。

 

 

そこで、心療内科(実は、精神科)を受診したところ、

 

抑うつ神経症と診断され、抗うつ薬を処方されたとのことでした。

 

 

一息でできるだけ長く「あー」と声を出した時間を最長発声持続時間といいます。

 

 

平均的には男性30秒、女声20秒程度とされています。

 

 

また9秒以下は呼吸機能や声門閉鎖に何らかの異常があるとされます。

 

 

この方の最長発声持続時間は、12秒でしたが、現役の声楽家であり、

 

以前の3分の1以下に短縮したとしたら、職業上大きなハンディになることでしょう。

 

 

最長発声持続時間が以前より顕著に短縮したばかりでなく、

 

声のかすれ(嗄声:させい)も気にされていました。

 

 

神経学的検査:

 

三叉神経(Ⅴ)は顔面の感覚や舌の前3分の2の温痛覚や触覚、

 

咬筋の運動に関与します。

 

 

顔面神経(Ⅶ)は顔面の筋の運動、舌の前3分の2の味覚に関与します。

 

 

舌咽神経(Ⅸ)は咽頭の働き、舌の後3分の1の感覚に関与します。

 

 

迷走神経(Ⅹ)から反回神経が枝分かれし、声帯を支配します。

 

 

副神経(Ⅺ)は胸鎖乳突筋や僧帽筋の運動を支配します。

 

 

三叉神経 

 

喉が腫れぼったく見えたため、

 

甲状腺を触診してみると、確かに腫れているようでした。

 

甲状腺超音波、血液検査(甲状腺ホルモン、自己抗体など)により

 

慢性甲状腺炎(橋本病)であることがわかりました。

 

発声中に喉頭鏡で観察しましたが、

 

声帯の動きに麻痺が生じているかどうかは微妙でした。

 

 

 

それでは、以上の情報をもとに頭の体操をしてみましょう。

 

特別な専門知識がなくても、クイズ感覚でチャレンジしてみてください。

 

 

<医学クイズ>麻痺によって最長発声持続時間が短縮するのはどれでしょうか。

 

 

A 三叉神経 B 顔面神経 C 舌咽神経 D 迷走神経 E副神経

 

 

答えは D 迷走神経です。

 

迷走神経の枝である反回神経が発声に重要な声帯の動きを支配します。

 

この方は、慢性甲状腺炎により甲状腺が腫大して、

 

その近くを走行する反回神経に障害を起こしていたことが推定されました。

 

 

慢性甲状腺炎の治療開始により、頸部の腫れ、冷え性、かすれ声は解消し、

 

最長発声持続時間も徐々に延長し、

 

以前とほとんど変わらない状態にまで回復しました。抗うつ薬も不要になりました。

 

 

現在は、名ソプラノ歌手として、今まで以上にご活躍中です。