最新の薬物療法

 

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認定内科医、認定痛風医

アレルギー専門医、リウマチ専門医、漢方専門医、

 

飯嶋正広

 

 

腎疾患の治療について(No3)

 

腎疾患とりわけ高齢者の慢性腎臓病(CKD)に注意すべき薬剤

 

当クリニック受診者の皆様の中には、年代を問わず腎機能が、従来に比べて、最近1年間で顕著に低下している方を散見します。その原因について今後も慎重に検討する必要があると考えております。

 

まず、高齢者の方に関しての注意点が3つあります。

 

❶ 高齢者では一般に筋肉量が減少する傾向があります。筋肉量が少ない場合には、腎機能評価の指標となるeGFR(推定糸球体濾過率)が過大評価されることがあります。つまり、実際には腎機能が低下していても、数値データでは異常を見落としがちです。

 

❷ 高齢者では、腎機能低下による健康上の悪影響を受けやすいです。

 

❸ 高齢者では、検査や治療で用いられる薬剤によって副作用が出やすいです。

 

そこで、高齢者の医療に対して、特別な注意が必要となります。

 

杉並国際クリニックの方針としては、治療薬を始める際には、原則として年齢を問わず、なるべく少量から開始することにしています。必要があって薬剤を増量する場合にも、可能な限り時間をかけて緩徐に行ないます。

高齢者ではなくとも妊娠可能年齢の女性に対するリスク回避も必要であり、また、アレルギー科、リウマチ科を標榜している専門医としては、個々人の体質の違いを慎重に吟味し、観察を続ける必要があるからでもあります。そして標準使用量に達しなくとも十分な臨床成績が得られる場合には、少量投与のまま有害事象の有無を慎重に評価するように心がけています。

 

一般的に、75歳以上の高齢者では、非高齢者よりも治療目標値を緩和することが多いですが、それは、個人差や前提条件の違いによって個別に検討しています。

 

なお、慢性腎臓病(CKD)では、高血圧を伴うことが少なくありませんが、急激な血圧低下によって腎機能が低下することがあります。そのため計画的かつ段階的な血圧コントロールが必要です。

 

高血圧は諸臓器の障害を来しますが、臓器障害の発症や進展は外来血圧よりも家庭血圧に相関します。そのため、当クリニックでは、皆様に血圧手帳をお配りして、家庭での血圧測定と記録をお勧めしています。

 

家庭血圧を朝食前と就寝前に測定して記録しておいて、受診のたびごとに、その記録を拝見させていただいております。なお、内服自己管理が確立するまでの間は、1日3回以上計測して記録しておかれることをお勧めいたします。

そこで、たとえば、高血圧の治療において、高齢者でも最終的には120/70㎜Hg未満を目標にできる方も少なくありませんが、緩徐な降圧が必要であると考えています。

 

実際にはステップ1として140/90㎜Hg未満、また可能であればステップ2として130/80㎜Hgを目指すことが多いです。その場合でも、継続的に収縮期血圧110㎜Hg未満が持続するならば、過度な降圧であるため、そこまでの降圧は行わないようにしています。

 

また、高齢者には骨粗鬆症が多数見られます。その場合、すでに他院にてビスホスホネート製剤(ダイドロネル®、フォッサマック®、その他多数)を処方されていることをよく見かけます。この製剤は高齢者の慢性腎臓病患者の骨折頻度を減少させる効果がありますが、他方、顎骨壊死などの合併症には十分に注意が必要です。そのため、歯科医から、これらの薬剤を使用しているかどうか確認を求められることがあります。

 

なお、「腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2018」(日本腎臓学会、日本医学放射線学会、日本循環器学会)では、造影剤使用前の腎機能評価法の標準化や造影剤使用の適正化に向けて、様々な推奨をしています。

 

腎障害性の薬剤は、腎機能が低下するほど副作用が発現し易いので注意します。

 

抗菌薬、NSAIDs、造影剤など腎排泄型の薬剤は、すべて減量投与または中止が必要になります。
また、腎障害ではマグネシウムが体内に蓄積し易いため、マグネシウム製剤の投与は慎重に行ないます。