『水氣道』週報

 

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声楽の理論と実践から学ぶNo.2

 

声楽の場合、体が楽器ですから、コントロールする上で、必要な知識が求められます。実は、水氣道にとっても、必要な知識があります。

 

声楽では、声のコントロールにおいて、脱力と緊張のバランスがどちらかに偏ってしまうと、声の揺れや上ずり、音程の低すぎや高すぎ、レガートやスタッカートができない、等の問題が起きます。

これは水氣道も同様なのですが、水氣道でいうリラックス状態というのは脱力状態とは異なることに気を付けてください。水氣道でいうリラックス状態とは、中庸の状態であり、それには一定の幅があります。脱力状態と緊張状態の間にある、その時点においてもっとも機能的かつ効率的な緊張バランスが水氣道でいうリラックス状態です。

 

 

また大変重要視しなくてはならないのは、舌の訓練です。

 

舌は普段の生活では、本来の長さよりも萎縮しています。そうなると、萎縮した舌と横隔膜が原因で安定した声が出ません。

 

それはなぜでしょうか。声楽のレッスンでは『支え』という言葉を使って指導をうけることがあります。日本語の『支え』とは、素晴らしい言葉ですが、より具体化しなければ体得できない心身の状態です。

 

それから、呼吸は筋運動に伴う生命現象です。しかも、主たる吸気筋である横隔膜でさえも単独では動きません。浅い呼吸によって、声が平坦に聴こえるのは、横隔膜と大腰筋の繋がり(註)である、ある部分を活発に使えていないからです。

 

呼気と吸気のバランスは、人それぞれ違い個人差がありますが、歌唱の際はフレーズとフレーズの間で息を吸う際に、特に注意しなければなりません。

 

(註)横隔膜と大腰筋の繋がり

腸腰筋は腰椎を介して横隔膜と連携しています。その腸腰筋は、大腰筋・小腰筋・腸骨筋からなっています。腸腰筋のうち大腰筋は第12胸椎あたりで横隔膜と筋連鎖することで横隔膜下制が起こり、ドームが平坦化します。吸気時すなわち横隔膜収縮時には腸腰筋は腰椎・骨盤を安定させています。そのため腹腔内圧上昇、下部胸郭拡張が起こります。

もし腸腰筋に過緊張や機能低下があった場合、連結している横隔膜など他の筋にも影響を及ぼします。その結果、呼吸運動が制限されてしまいます。

 

このように一見呼吸とは関係が薄そうな下肢筋でも、呼吸筋との連結を介して呼吸に関連する筋は多数存在します。そのため、筋の作用と繋がりを理解しておくことが大切であり、水氣道の技の体系は、このような理解の上に構築されています。

 

声楽では上半身が脱力すればするほど、下半身のエネルギーをより深く使うことができると教えられます。そうはいっても、下半身のエネルギーをより深く使うことができるようになるのは容易ではありません。その点に関して、水氣道では、水中歩行は下半身のエネルギーを要する運動であるため、必然的に上半身をリラックスに導くことができるのです。

 

以上のように、水氣道と声楽の発声法の共通点は、本来の自然な声に導き、体のバランスを整え、自ら気づくことを目覚めさせることに見出すことができます。