からだの健康(心身医学):「骨粗しょう症」診療に対する新しい見かたと対策No6

 

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骨粗鬆症の予防と効果的な治療の指針となる骨代謝マーカーについて(発展編)

 


Q11. 骨代謝マーカーの測定やその解釈を行う際の注意点はありますか?

 

A11.

1)まず骨代謝マーカーには日内変動があるということです。一般にマーカー は朝高くて、午後になるとだんだん低下するのですBAP、P1NPとかTRACP-5といった血清マーカーは有意な日内変動があまり見られないですが、逆に尿中マーカーは日内変動が比較的大きいことが知られています。そういうことから尿中マーカーを測定する際には、早朝の空腹時での検体採取が理想的だといわれています。

 

 

2)2番目の注意点は慢性の腎臓病、特にステージⅢ以上の腎機能障害がある 場合には、骨代謝マーカーの測定値に影響する場合があるということです。 ですから、慢性腎臓病の患者さんでは 腎機能の影響が比較的少ないとされているマーカー、すなわち先ほど出ましたBAP、P1NPとかTRACP-5bなどを選択するのがよいのではないかと思います。

 

 

3)3番目は骨折が発生した場合、一時的に骨代謝マーカーが上昇することが あるということです。ですから、骨粗鬆性の骨折が生じた患者さんの場合は、 骨代謝マーカー値の解釈に注意が必要です。ただし、骨折が発生してから24 時間以内であれば骨折の影響は少ないという報告もありますので、骨折を受傷されてから1日以内に病院に受診された患者さんであれば、その骨代謝マーカーの解釈は通常どおりに行ってよいと思います。  

 

 

Q12.

治療を開始して、治療効果判定時に骨代謝マーカーを使うということになるとのことですが、どのように考えて行われているのでしょうか?

 

 

A12.

治療効果判定時における骨代謝マーカー値の解釈については、まず骨代謝マーカーによって治療効果の判定が可能な薬剤は、そもそも骨代謝に強い影響を及ぼす薬剤のみであるということがポイントになります。

 

すなわち、当クリニックで採用している薬剤(下線・太字®)を含めて具体的に名前を挙げると、ビスホスホネート(フォサマック®、リカルボン®など)、SERM(註)、女性ホルモン、テリパラチド、ビタミンD3製剤であるエルデカルシトール(エディロール®)、ビタミンK2(グラケー®)、抗RANKLモノクローナル抗体(デノスマブ)、こういった薬が骨代謝マーカーによる治療効果判定が可能な薬剤といえます。

 

註:SERMは閉経後骨粗鬆症が適応となり、骨に対しては女性ホルモン(エストロゲン)と同じ作用をしつつ、エストロゲンによるホルモン補充療法に伴う副作用などのデメリットが解消もしくは軽減されるため、本来とても有用な薬剤です。しかし、静脈血栓塞栓症などには禁忌であるため、新型コロナワクチン接種が普及している現状下では、安全配慮のため処方を控えています。

 

 

一方でエルデカルシトール以外のビタミンD3製剤(ワンアルファ®、ロカルトロール®)とか、イプリフラボン(オステン®)、カルシウム(アスパラ‐CA®)、あるいは筋肉注射のカルシトニン(エルシトニン®)といった薬は、骨代謝マーカーによる効果判定はそもそも困難ということです。  

 

 

Q13.

骨代謝マーカーによる治療効果判定が可能な薬剤で治療を行った場合、どのように治療効果を評価するのですか?

 

A13.

基本的には治療効果は骨代謝マーカーの変化によって評価することになります。例えば、骨吸収薬を投与した場合には、通常、投与後3カ月ぐらいで骨吸収マーカー値の有意な低下が見え始めます。

 

ですから、骨吸収マーカーは治療を開始する時点と、治療を開始してからだいたい3~6カ月の間隔を空けた時点の2回の測定を行い、マーカー値の変化を評価して、厳密には、マーカーごとに定められた最小有意変化 (MSC)を超える変化を示しているかを評価して、治療効果を判定することになります。

 

治療効果判定時にマーカー値の有意な変化が見られれば、その治療は効果があるので継続してもよいと解釈できます。  

 

 

骨形成マーカーの変化は、骨吸収マーカーの低下に3カ月ぐらい遅れて低下してきます。そこで、骨形成マーカーの測定は治療開始時と骨吸収マーカーより若干遅めの6カ月程度の間隔を空けた時点で行い、評価するのがよいのではないかと思います。

 

また、少し以前からよく使われるようになった骨形成促進薬であるテリパラチドですが、テリパラチドの連日投与製剤を投与した場合には、骨形成マーカーの中でも特にP1NPの変化が著しいことが知られています。ですから、この薬剤で治療を開始した時点と、治療開始から4カ月程度の間隔を空けた時点でのP1NPの測定によって、治療効果を判定するのがよいと考えられます。

 

ただし、同じテリパラチドでも週1回投与する製剤の場合は、P1NPは3カ月ぐらいまでは高値を示しますが、6カ月以降は逆に低値になる傾向を示しますので、測定のタイミングには注意が必要かと思います。

 

 

Q14.

骨代謝マーカーによって治療効果判定をしたとき、マーカーが異常値を示している場合には、どのように判断し、どのような対処をしますか?

 

 

A14.

異常高値と低値のいずれも注意が必要です。

 

まず、異常高値の場合は、そもそも骨粗鬆症以外の骨代謝疾患の可能性があります。そういった点に注意をして疾患鑑別をしていく必要があります。ですから、骨粗鬆症の診療に係る医師は、総合診療医もしくは総合内科医としての研鑽を十分に積んでいなければならないということになります。

 

また、骨代謝マーカーには骨マトリックス関連マーカー(いわゆる骨質マーカー)というものがあり、その中の低カルボキシル化オステオカルシン(ucOC) が上昇している場合には、これはビタミンKの不足を意味しますので、当然 ビタミンK2を投与することになります。
 

これに対して、治療薬を選択するときに骨代謝マーカーが低値であった場合は、骨代謝回転が抑制されていることを意味します。こうした場合には骨形成増加作用によって骨代謝回転を促進させるような薬、骨形成促進薬であるテリパラチドを選択するのが理論的に合致する判断と言えます。  

 

このように、薬物の投与前に骨代謝マーカーを測定することによって、骨代謝回転の状態に基づいた、理論上、合目的的な薬物の選択が可能となるのです。

 

 

 

Q15.

効果判定をしたとき、マーカーがあまり変化を示さない場合があると思うのですが、これはどのように対処しているのでしょうか。

 

 

A15.

治療効果判定を行って、骨代謝マーカー値が有意な変化を認めなかった場合、薬物療法の効果がなかったと判断することになります。ただし、そうした場合には、重要な注意点や確認事項がいくつかあります。

 

1) そもそも患者さんがその薬をしっかり服用できていたかどうか、という服薬状況を確認することが大切だと思います。これを薬のコンプライアンスといいますが、服薬コンプライアンス(註)が不良であれば薬の効果を十分得ることはできません。

 

註:近年、内服遵守に対する用語はcompliance(コンプライアンス)からadherence(アドヒアランス)に変わってきました。コンプライアンスは医師の指示による服薬管理の意味合いで用いられてきましたが、これに対して、アドヒアランスは患者の理解、意志決定、治療協力に基づく内服遵守を意味します。

治療は医師の指示に従うという考えから、患者との相互理解のもとに行っていくものであるという考えに変化してきたことが内服遵守におけるコンプライアンスからアドヒアランスという概念の変化につながっていると考えることができます。

アドヒアランスはさまざまな要因によって低下し、それによって病状の悪化をもたらすだけでなく、治療計画にも影響し、医師-患者間の信頼関係を損ないます。 医師-患者間で治療同盟をつくること、十分なインフォームドコンセントにより情報を共有すること、患者が方向性を選択できるような治療を行うことがアドヒアランス向上にとって不可欠であるということになります。

 

 

2) また、尿あるいは血液の採取時間が治療前と治療後で同じ時間であったか、 そういったことを確認することも大切だと思います。  

 

3) さらに、ビスホスホネートの場合には、薬を服用する時間と食事の摂取時間との関係が吸収に大きく影響します。ですから、両者の時間差についても、 それが適切かどうか確認する必要もあるかと思います。  

 

以上の点を確認して、それでも最終的にマーカー値の有意な変化が見られなかった原因が明らかでなかった場合には、薬物の変更等を初めて検討していきます。