『嘱託臨床産業医』の相談箱

 

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臨床産業医オフィス

<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>

産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者

 

飯嶋正広

 

 

産業医の企業訪問

訪問準備の例(2)

 

訪問準備をする際には、向かう先がどのような企業であって、自分がどのような役割を担うことができるかを毎度再確認することを習慣にしています。

 

どんな企業であっても、長いお付き合いの中で、必ず発展や成長が見られます。それは産業医としての私自身とて同様であり、報酬をいただきながら、またとない大人の社会勉強をさせていただいていることになります。

 

そのようにして社会的視野が広がっていくと、世の中の価値観(相場)というものが見えてくるようになります。そこまでになると他者に対してより寛容になることができ、同時に、行き過ぎたお人好しもときには害をもたらすことがあるので控えるべきであることがわかってきた次第です。まさに感謝の一言に尽きます。

 

 

そこで、今年一年間の産業医活動を総括してみることにしました。

 

1) 嘱託産業医としての外部企業での業務は杉並国際クリニックでの業務と重なり合う部分が大きい。今後は臨床経験の乏しい産業医の活躍の場は、義務的に嘱託産業医と契約しているような低レベルの企業に限られてくるであろう。

 

 

2) 産業医活動を継続することによって、実社会の動きや価値観がより鮮明にダイレクトに見えてくる。「当社には高ストレス者はいません」と誇らしげに表明する企業に限ってブラック起業である確率が高く、潜在的健康リスクが高い。

 

 

3) 診察室での患者と職場での労働者との間には連続性もあるが、全く別人のような側面も確認でき、総合的な人間観察力を養成できる機会となる。騙されやすい世間知らずの医師から脱却できる。ハゲタカの餌(カモ)にされないで済む検証力がもてるようになる。

 

 

4) 多くの企業が求めている産業医は、総合医である。
健康診断の評価は得意だがストレスチェックは苦手、あるいはその逆といった産業医は産業医業務での負担は大きくなりがちであることが理解できる。

 

その点、資格のある心療内科医は、一般内科医としての基礎があるため効率的に健康診断業務をこなすことができ、また高ストレス者の対応にかけても専門的な経験が豊富であることが強みとなっている。

 

 

5) レベルの低い産業医はレベルの高い企業に損害を与え、逆に、レベルの低い企業はレベルの高い産業医を消耗させてしまう。レベルの高い企業はレベルの高い産業医を求め、誠意が実を結ぶ。レベルの低い企業は従順なだけで無力で世間知らずな産業医を求める傾向があり、むしろ誠意があだとなりかねない。

 

 

6) 潜在的な成長可能性を秘めた企業はたとえ小規模零細企業であっても、熱心に人材を育成している。したがって、優秀な産業医は報酬以上の奉仕を喜んで続けることができる。また、企業の優秀性は資本額や従業員数などの企業規模とは無関係である。

 

 

7) 組織運営上の縛りばかりが多く、従業員に対する配慮が行き届かない企業、必要経費の相場や将来に向けての不可欠な投資を正当・適性・かつ妥当に判断し、改善に取り組もうとしない企業は、たとえ社会的に広く認知されていていても発展は望めない。

 

このようなタイプの企業は優秀で意欲的な産業医を酷使し、かつ搾取していることに対する認識にすら至らない。また同様のことを自社の従業員にも行って省みようとしないでいることが多い。産業衛生活動は年余にわたって実践を重ねることによって、はじめて実効性が証明される。

 

毎年の入札制度によってエージェントを落札するシステムから脱却できない官公庁まがいの企業においては、健全な産業医活動の展開を期待することは困難である。

 

 

 

8) 尊敬に値する企業は、明確な将来ビジョンを持っている。そのような企業は安全衛生委員会の活性化が、企業経営の上で大きく貢献できることを認識し、いわば「健康経営」委員としての役割に期待をかけている。そこでは、産業医は経営会議の重要メンバーとして喜んで迎えられている。