運動生理学的トレーニング理論の限界と水氣道の可能性No8

水氣道

 

前回はこちら

 


水氣道稽古の12の原則(6)全面性の原則(1)

 

筋力トレーニングの通説としての「全面性の原則」

 

これは一般的には、全身の筋肉をバランスよくトレーニングしなければならないという原則として理解されているようです。

この原則は、トレーニング効果の向上のためだけでなく、けがや障害の防止という安全確保の目的のためにも強調されています。

 

一か所や一方向に偏った過度な集中トレーニングでは、たとえばヒザや腰を痛めたために休養を強いられ、かえって筋力を落としてしまいかねません。

なぜならば、鍛える部分が偏ると、また偏った動きのスポーツでは、全身のバランスが崩れがちとなり、怪我や痛みの原因になりやすくなるので注意が必要です。

このように部分の筋肉だけを鍛え続けているとケガのリスクを高めてしまうので「全面性の原則」はスポーツ選手に限らずすべての人にとって重要な心得といえるでしょう。

 

そこでバランスよくトレーニングすることで、全体的に機能を向上させようとするのが、そもそもの「全面性の原則」です。怪我なく効率的に筋力向上を達成する上でこの原則は重要だと考えます。

 

たとえば、腕立て伏せだと、肩や上腕二頭筋や三頭筋、大胸筋などの上半身は鍛えられても,下半身は鍛えられにくい傾向にあります。

全身の筋力を高めるのであれば、背筋や下腹部、脚なども併せてトレーニングする必要があります。上半身だけでなく下半身も、身体の前面だけでなく後面も、大きい筋肉も小さい筋肉も、表層の筋肉も、深層のインナーマッスルも、呼吸筋も、姿勢を維持する抗重力筋、さまざまな動きに必要な筋肉も、くまなく鍛えることが全面性を考慮したトレーニングということになります。

 

 

トレーニングの対象を筋力に限らないことも「全面性の原則」

 

全面性の原則はその言葉通り、包括的にトレーニングをしていく必要性を説明した原則です。包括的トレーニングとは、自己の体力や、その他の健康の現状を考慮し、すべての健康要素を高めるトレーニングを行なうことです。そのためにはまず必要とされる体力の各要素をバランスよく全面的に発達させることです。

 

具体的には、有酸素運動、筋力トレーニング、柔軟性などの体力要素もバランスよく高めることです。

また、筋力だけの話ではなく、柔軟性やパワー、持久力といった他の体力要素もトレーニングしていくことも全面性です。

 

したがって、「全面性の原則」とは、ある体力要素を向上させたいのであれば、トレーニングの基礎として他の体力要素も向上させなければならないという原則のことです。

つまり、体力というのは色々な要素で構成されているので、可能な限り全ての体力要素を鍛えていかなければならないということです。

 

このように様々な体力要素のトレーニングをすることが全面性なので、筋トレだけでなくランやジャンプ系など、色々と実施していくべきです。しかし、トレーニング実践者がトレーニングに使える時間も無限ではありません。

 

そのため、多くのトレーニングジムでは、効率的に体力を強化しようとしてウエイトトレーニング(筋トレ)が指導の中心になりがちのようです。しかし、こうしたトレーニング内容も基本的にはこの「全面性の原則」に則ってプログラムされてはいるようですが、それは狭い意味で「全面性の原則」に過ぎません。
 

水氣道は、この「全面性の原則」の対象として筋力をはじめとする体力強化のためだけに用いているのではなく、より広い意味で用いています。

 

それは、水氣道では「全面性の原則」を限りなく発展性のある原則として捉え、日々の稽古において「全面性の考慮」を積み重ねてきた結果であるといえます。稽古の時間や場所が限られているから、安全にかつ効率的に稽古を行えるように工夫が凝らされなければなりません。

「全面性の配慮」が行き届いた水氣道の稽古プログラムは、そのような「全面性の原則」が基礎に据えられています。

 

これについては、次回解説する予定です。