2015年の厚生労働省の人口動態統計によれば、わが国における心疾患による死亡数は19万6千人強で、悪性新生物の37万人に次いで死因第2位となっています。
その中で、急性心筋梗塞の死亡数は4万人弱であり、その他の虚血性心疾患の死亡数3万4千人強と併せると、虚血性心疾患の死亡数は心不全と並んで循環器系死亡のトップを占めると報告されています。
わが国では1990年代後半から、日本循環器学会を中心に診療ガイドラインが発表されています。その中から、まず高円寺南診療所の日常診療に関するものを挙げてみます。
しかし、これだけのことを勉強しても、患者の皆様に判りやすくお伝えすることは並大抵の工夫と努力では達成できません。
また、一般の方に専門的な理解を求めることも限界はあるのではないかと思います。
近年、やたらセカンド・オピニョンという言葉が医療現場に登場しますが、セカンド・オピニョンというカタカナの意味するところに誤解が多く、患者さんの身勝手な思い込みが先行していることもあるので苦慮しています。
なるべくカタカナは使用せずに、自分の言葉で具体的にご要望を伝えてくださるよう、是非ともお願いしたいところです。
一言申し上げておきたいのは、心筋虚血の検査に関しては、診断のためのガイドラインは存在しますが、虚血性心疾患患者のフォローに関する明確な基準はない、ということです。
つまり、症状出現、悪化時にはもちろんですが、安定している患者さんにおいても定期的な検査施行が望ましいことは明らかであり、その期間は個々のリスクに応じて考えなければならないのにもかかわらず、外来患者の混雑等の特に大學病院側の都合で、漫然と3か月に1回だけの受診、しかも薬の処方だけということで急変し、お亡くなりになった方が多数いらっしゃいます。
身近なかかりつけ医(主治医)の判断を軽視していることの証左でもありますが、普段診ている医師が必要であると判断した場合、最小限の問診や検査等は、従順に受けていただきたいと思います。
全人的な信頼関係が構築できていることによって、生命にかかわる異変が早期に発見し、大學病院等に診療情報提供書を提出し、危機を脱出できた患者さんは枚挙に及びません。
診療一般ガイドライン:
①「非ST上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン(2012年改訂版)」
②「ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)」
③「冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン(2013年改訂版)」
<要点>労作性狭心症では、軽労作でも胸痛が生じるなど、発作が起こりやすくなってきた場合には、速やかに医師に相談しなければなりません。なお冠攣縮性狭心症は、投薬の減量・中止に関しては特に慎重でなければなりません。
検査ガイドライン:
①「慢性虚血性心疾患の診断と病態把握のための検査法の選択基準に関するガイドライン(2010年改訂版)」
②「冠動脈病変の非侵襲的診断法に関するガイドライン」
<要点> 初診時に必要な検査として1)12誘導心電図、2)胸部エックス線検査、3)心エコー、4)血液生化学検査が推奨されています。
これらは、高円寺南診療所ですべて実施可能ですが、初診時にこれらすべてを行うことはほとんどありません。わたしは、日本人の場合には、頚動脈エコーは必須であると考えていますが、その理由は別の機会に譲ります。
定期検査としては、リスク因子のコントロールの観点から必要です。また、チエノピリジン系抗血小板薬服用者では、副作用のため肝機能などのチェックが必要です。
治療ガイドライン:
①「安定冠動脈疾患における待機的PCIのガイドライン(2011年改訂版)」
②「虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン(2012年改訂版)」
<要点>坑血小板薬としてのアスピリンは原則として一生継続していただきます。ステント留置後は金属が露出しているためにアスピリンにチエノピリジン系抗血小板薬を加えた2剤併用療法(DAPT)を行います。
予防ガイドライン:
①「虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2012年改訂版)」
②「心筋梗塞二次予防に関するガイドライン(2011年改訂版)」
<要点>1)日常生活指導、2)定期的検査、3)抗血小板薬の使用などが強調されています。1)では、喫煙者では禁煙の指導を行うこと、これは受動喫煙の観点から家人の禁煙も必要です。定期的な運動習慣と体重のコントロールも重要です。病態・合併症に応じた食事指導も行うべきです。服薬による再発予防が重要であり、自己判断で休薬・中止しないなど、服薬遵守を指導しなければなりません。
《 まとめ 》虚血性心疾患について、現在では、日常の外来診療におけるケアがより重要性を増しています。冠危険因子のコントロールが重要な予後規定因子です。患者さんの生活習慣の改善や定期的な検査、良好な服薬コンプライアンスの維持をはかることがとりわけ重要です。
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