中欧研修旅行15:3月28日

1:00pm(羽田より新宿西口に向かうリムジンバスより)

 

 

中欧研修旅行の報告は、第14回で終了の予定でしたが、

 

旅行というものは、出発地に戻るまでの一連の流れであることを忘れていました。

 

 

昨日のFrankfurt中央駅で空港までの切符を購入する準備のところまで話を戻します。

 

たとえ残り僅かの時間であっても、1ユーロの通貨は何枚か手元にないと不自由あることは、説明した通りですが、生憎のエンプティとなったため、駅の目の前で1万円をユーロに変えたら5,78ユーロでした。

 

両替手数料が差し引かれての額ですが、10ユーロは2万円位の感覚を持っておいた方がよいかもしれません。

 

切符の券売機のタッチパネルであれこれやっていると、次から次と、若い女性が近寄ってきて話しかけてきます。

 

私としては、最後の最後でミスタッチトラブルは避けたいので無視を決め込んでいます。

 

ドイツ語、英語、中国語を次々に駆使してユーロが欲しい、おつりの分だけでも・・それだけの努力と能力があるのなら、まともな職業に就けないハズが無いと思うので不思議に思いました。生活に困っているような栄養状態にも見受けられません。私は、タモリ流のハナモゲラ語を使って巻くことにしました。

 

 

 ドイツの主要駅は、いわゆる終着駅で、多数のホームがあります。行き先ごとに決まっている訳ではないので、その都度、案内板を頼りに乗車します。

 

最終日なので、最大限に慎重を期して2:20pmには空港に到着しました。

 

搭乗券は発券機でセルフサービスになっていますが、私の場合、何度トライしてもエラーになってしまいました。

 

そこでルフトハンザのグランド職員(スリムな体型の早口な黒人女性)に相談すると、もう一度、指示に従って手続するようにいわれました。

 

何度も試みたが駄目だということを強調したら、ようやく発券手続を協力してくれました。

 

結果的に、彼女がやってもエラーがでました。

 

そこで、なぜこのようなことが起こるのかと質問したら、「この種の機会は時々調子が悪くなる」というようなことを話しながら、別の方法で発券してくれました。一瞬わが耳を疑いました。

 

次は出国検問所です。白人女性の検問警察官が私のパスポートを随分と時間をかけて、しげしげ眺めながら、「昨日はどこに宿泊を?」「Frankfurtです。」「その前の日は?」「Leibzigです。」「Berlinの空港を出てからどのように?」「その後は、Dresden、Leipzig、Frankfurtと電車で移動しました。」と答えると、「Then you must have EU residency card! Show me! (それでは、あなたはEU圏内居住者カードを持っているはず。提示してください。) 」と言って厳しい目でこちらを見据えてくるので、私は[ I am just a traveler only for 2 weeks. It’s my first experience to be asked like this. I’m a little bit embarrassed. ](私はたった2週間だけの旅行社です。こんな尋問をされたのは初めてです。多少ムカついていますよ。)と答えたら、OK! Pass by. だそうです❓❓❓

 

 

6:05pm羽田着のルフトハンザの搭乗者が、そのあと続々と集まってきました。ひときわ目立っていたのが、制服の男女の高校生で、それぞれにいろいろな楽器を抱えていました。

 

きっと、音楽科のある高校生の修学旅行なのだろう、とボンヤリながめていると、不審なアナウンスが聞こえてきました。6:05pmに羽田に向けて出発予定のルフトハンザの便がオーバーブッキングになっているため、後の便に変更可能な乗客(セカンドクラスの)を募るアナウンスです。

 

謝礼として規定額の800ユーロを受け取れるとのことですが、誰も申し出ようとはしませんでした。

 

すでに、足止めを食っている日本の若者たち数名が困惑していました。

 

私は、それほど多数のオーバーブッキングがあるとは知らず、搭乗ゲートを通過すると、何と、私のところに✖のサインが出現するではありませんか・・・

 

そのゲートのグランドオフィサーが私に「少々お待ちください」という。私が搭乗できない可能性があるというのです。

 

「何か私に手続き上のミスがありますか?」と尋ねると、お客様には全く責任はございません。」「それでは承服しようがありません。」といったやり取りが続いた後、私は次のように切り出しました。

 

「あなた方の会社は、顧客の当然の権利を侵害してまで、自社の利潤を追求するのですか?」と。するとその日本語を話すシブい顔つきのおそらく日本人であろうかと思われる職員は「はい。全くもって、その通りです。」といけしゃあしゃと答えるではありませんか。

 

私は「そこまで、はっきり仰るのだから、返す言葉は見つかりません。しかし、私は、医者であり、患者さんが待っているんですよ。ここに何時間前から待っていると思っているのですか。搭乗直前になってのアナウンスというのも理不尽ですね。それから、搭乗の可否の決定基準なり、プライオリティ(優先順位)などがあれば、簡単に説明してください。これは、当然の権利ですよね・・・」

 

ここまで話した後、私の交渉に、いちいちうなずきながら聴いている羊のように大人しく、不安がっている青年たちの存在に気づき、「いいですか。皆さん。このくらいのことを言うのは当然です。理不尽な取り扱いを受けたまま卑屈に引っ込んでいては国際社会を生き抜いていけませんよ。」と、興奮もあってか、ちょっぴり偉そうなことを言ってしまいました。

 

「まったく、そのとおりです。僕たちには勇気が足りませんでした。」と答えました。程なくして、「飯嶋様、ただいま搭乗が可能となりました。」との返事を得ました。

 

そこで、私は「君たち、申し訳ないが先に失礼するよ。とにかく無事に用心して帰ってくださいね。それでは・・・」

 

 

私が着席したのは、丁度、客室乗務員が控えるスペースに隣接し、真ん中の列の通路側で、前は壁なので少しラッキーでした。

 

これでようやく、羽田に向かって帰ることができると思いつつ、興奮が冷めやらず、そのまま帰国後の諸々の企画案を立案しながら数時間を経過しました。

 

少し、疲れてきた頃に、後方からバタンという音に続いて、通路をズルズル引きずる音が聞こえてきました。

 

引きずられているのはモノではなく人間です。年配の小太りの女性です。家族と思われる女性と、外国人の女性が一緒に移動していきました。

 

それが、私の目の前のキャビンアテンダントの空間に入ったかと思うとカーテンで仕切られ、何やら英語でやり取りが始まりました。

 

少し訛のある英語ですが、診療が始まっている有様に気が付きました。

 

なかなか埒が開きません。クルーからはドクター・コールもないので、多少遠慮がちになっていましたが、目前のカーテンの中のやり取りを聴いていて放っておけなくなりました。

 

<Excuse me! I’m a Japanese physician. Could I help you?>(すみません。日本人の内科医です。何かお役に立てませんか。)といって中に入りました。

 

すると、日本人女性客質乗務員が「お医者様でらっしゃいますか?」と不安そうな目で確認するので、「はい。まず脈を取らせてください。」と言うと、彼女は病客に「日本人のお医者様が来てくださいました。」と伝えました。

 

「脈拍60、不整脈無し。血圧計を出し、すぐに測定できるようにしてください。」と指示すると、慣れない手つきで(つまり、十分なトレーニングを受けていない証拠!)で別のアテンダントが簡易血圧計で測定するので、エラーになってしまいます。

 

先ほどの脈のチェックで、少なくともショック状態でないとの検討がついていたので、急き立てずに、「ゆっくり測定してください。間欠的に数値が出ていましたね。どの程度でしたか?」と尋ねると「137と表示されたような・・・」、「そうですね。その程度の血圧のはずです。それでは、下の血圧は?」「たしか70位だったかと・・・」「それで宜しいでしょう」その間、普段の血圧は140台/80台(mmHg)との情報を確認することができました。

 

その間、南米出身の小児科の女医先生が「彼女は、搭乗してから、一切水分を摂取していません。それから、ふだん高血圧の薬と、めまい止めの薬を内服しているとのことです。」という情報を英語で提供してくれました。

 

そこで、わたしは「You mean dehydration?(それで脱水を疑ったのですね)、I also think so.(私も同じ判断です)」と答えました。

 

「恐らくトイレに行くのを気兼ねして水分を控えていたのが、立ちくらみと一過性の意識消失の原因でしょう。ただし、低血糖も否定できませんから、水分と当分の補給をしてください!」と指示したところ、したり顔で「私共も同じ判断をしていました。」と応答しました。

 

・・・この人たちは一体何様?と不愉快に思いましたが聞き流していると、すかさず「コカ・コーラを差し上げても良いですか?」と客室乗務員。

 

「いいえ、炭酸やカフェインは無いものが良いです」と私。「リンゴジュースは?」客室乗務員。

 

「それは良いですね。ただし、そのままでは濃いので水で割ってください。」と注文を付けると炭酸水で割ろうとするので、「ガス(炭酸)の入っていない水で割ってください。」と指示しながら、病客に「舌を出してください」、と声を掛けました。

 

すると「はあい」と答えて、しっかり舌を出し、酸素マスクを外して「もう大丈夫です。ありがとうございます。」という声が聞こえてきました。

 

 

こうしたタイプの患者さんは、自分が発作を起こすと、周囲がどれだけ動揺するのかには無頓着な方がいらっしゃいます。

 

医学的には一過性の脳虚血発作であることが推定されます。

 

高血圧でめまいの薬を常用しているということは、脳動脈硬化症が進行している可能性が少なくありません。

 

エコノミークラス症候群を引き起こしやすいタイプです。脱水により脳血栓を生じるとそのまま急性脳梗塞になる危険性が高いです。

 

 

私は、急病人のとりあえずの安全を確認した後、小児科医の女性に礼を述べた後、カーテンのすぐ後ろの自分の席に戻りました。

 

搭乗員たちは、急病人に水分を補給させた後、トイレで排尿を促していたようです。

 

本人もケロッとしたもので、通路を通りすがりに、私が「落ち着かれて、良かったですね。」と声を掛けると、「ありがとうございました。」と一言。

 

 

搭乗員たちは、既定の書面に必要事項を記載する義務には忠実なようでしたが、私には医学的指示を求めてはきましたが、その後の病客の経過や、ねぎらいの言葉は一切ありませんでした。

 

 

その後ようやく羽田に到着。私は、午後の特別診療の準備のために家路を急ぎました。

 

 

今回の中欧研修旅行の最後の最後になって、航空会社のオーバーブッキング制度という理解困難な社会慣行がまかり通っていることに義憤を感じました。

 

昨年の4月9日に米国のユナイティド航空でのオーバーブッキング事件がありました。

 

理不尽にも飛行機から力ずくで引きずりおろされ傷害を受けた乗客がいました。

 

その乗客も医師でした。そのDavid Dao医師はベトナム出身の難民で苦労の末、米国の永住権を得た方だということを、改めて確認しました。

 

ルフトハンザの乗客は外国人もいましたが、搭乗直前になって搭乗を拒否されたのは私を含めてすべて日本人男性だったことを、改めて報告しておきましょう。