総合医療・プライマリケア
<総合医療とは寄せ集めの医療である!?>
先週末の2日(土)は、千代田区一ツ橋(地下鉄神保町駅近く)の日本教育会館にて開催された
<日本疼痛心身医学会 第30回記念大会 テーマ:慢性の痛みの原因を考える>に出席してきました。
メインテーマの<慢性の痛みの原因を考える>90分のシンポジウムではNPO法人線維筋痛症友の会理事長の橋本裕子さんと共同座長をつとめてきました。
テーマ慢性の痛みの代表格として、線維筋痛症を中心にレクチャーとディスカッションが行われました。
4人のシンポジストの一人は歯科口腔外科医で「薬物療法なしに初回面談だけで寛解に至った咬合異常感症」というタイトルで外来森田療法での診療実例を紹介してくれました。
大会事務局のある千代田国際クリニックからは「痛みの音楽の嗜好性について」など、またNPO法人線維筋痛症友の会からは「元医療者・線維筋痛症患者が考える痛みの原因とアプローチ」という発表がありました。
このシンポジウムの座長を経験することによって、新たに改めて気付いたことは、慢性的な痛みの治療は、病気による苦痛のみならず苦悩とともに生きていく人間そのものについての支援が必要だということです。
それから、日頃、患者さんと接している家族、友人あるいは職場での人間関係が決定的に大きな意味をもっているということもあるということです。つまり、
痛みというものを身体症状として、その患者さんの人格と切り離して対応するのではなく、心理的、社会的、さらには実存(生きる意味)の課題にまで意思疎通をはかっていかなければならないということを再確認しました。
病気の原因として社会性も大きくかかわってくるため、単独ではなくグループでのケアやサポートも大切です。
この実存は、一人一人が異なる個性を持っているのと同様に個別的なものであるため、診療ガイドラインのような十把一絡げの対応には限界があります。
つまり、病気の治療と病気とともに生きている個人のサポートを同時に行っていくためには、個別性が重要なカギを握っています。
これは個人としての人格を尊重した医療の提供に繋がります。
このような全人的医療を実施するためには、多職種でのチーム医療が有用ですが、そのチームの専門メンバーがバラバラで相互のつながりを欠くようなものであれば、それは人材の寄せ集めに過ぎません。
日本の総合病院での医療の多くは、身体疾患と精神疾患に二分し、総合病院を名乗っていても精神疾患を除外、かつ身体疾患については、内科系と外科系に二分しています。そのようにして、専門領域の細分類を徹底的に行い、患者を病院や専門医の都合だけで振り分けていくのが通例です。
そして、もし、病気が単純でありふれた病気であれば、そもそも総合病院を受診しなければならない必然性は乏しいですし、
複雑多岐で複合的な難病であれば、各科を回された挙句、病(やまい)の全体像は判らずじまい、ということになりがちです。
ひとたび分類に成功すれば、効率的な大量生産的医療サービスの実施が可能ですが、そこから漏れてしまった患者さんの扱いは惨憺たるものと言わざるを得ません。
現に<大学病院や大きな総合病院で、いろいろな検査をしてもらいましたが、どこに行っても異常なしで、別の科にいって欲しい、といわれて困っています>
あるいは、<いろんな病気にかかって、いろんな病院に通っていますが、病気の数が増える一方で困っています。>ということで高円寺南診療所に辿り着いたという患者さんが後を絶ちません。
これは、いわゆる大病院とされるところが、多数の細分化専門医療(島)の寄せ集めに過ぎないため、その島と島の間の大海にはまってしまった患者さんを救い上げることが難しくなっているということが実情なのだと思います。
また、総合病院的医療によって<多数の病気にかかってしまうような情けない自分>と思い込まされていた患者さんが少なくありません。
そうした患者さんの不健康の根本原因を、ともにたどっていく作業を丁寧に行うことによって、多数の病気がバラバラに無秩序に発生したのではなく、それらは相互に関連しあっていること、
それにもかかわらず<肝心な核心の病気の治療が手つかずであった>ため症状が増え続けているということを説明し、納得していただけると、無駄な病院巡りから解放させて差し上げることができます。
そうして、このような患者さんの多くは、決して特別な方々ではなく、ごく普通の常識的な人々なのいのであって、総合病院では、何らかの病気が見いだされたとしても、必ずしも重要な問題点のすべてが見いだされる仕組みにはなっていないことを、しっかりと認識しておく必要があると思います。
個性をもつ個人の初期対応として大切なのは、個性を持つ個人としての人格を尊重した全人的医療に則った医療の実践にあると思います。部分の寄せ集めで全体像が見えにくい総合医療から、体系的で全体像がみえやすい統合医療への転換が望まれるところです。
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