7月23日 神経・アレルギー・膠原病内科Vol.4

今月のテーマ<神経の特定内科診療>

 

 

「重症筋無力症クリーゼ」

 

この症例は70代女性でした。女子大生の寮の受付に従事していた方です。

 

 

「午前中は問題ないが、午後になると上瞼が重たくなり、頭を支えていることが辛くなる」

 

とのことでした。

 

疲れやすく、力が入りにくくなるが、休息すれば回復するという報告だったため、

 

水氣道に毎週1回参加していただくことになりました。

 

       

素朴ですが物静かで落ち着いた方でしたが、団体生活の中での悩み等もあり、

 

慢性疲労による軽度抑うつ状態であると考えていました。

 

 

しかし、抑うつ状態に比して、疲れやすさが増強してくる傾向があり、

 

ちからを使えば使うほど力が入らなくなる、という訴えに対して、

 

身体的精査に取り掛かるためのお話をはじめようと準備していました。

 

 

その矢先のことでした。

 

「しゃべりずらく、飲み物が飲みにくく、ろれつが回らなくなってきたことを同僚に指摘され

 

某病院に入院することになりました」

 

とのご報告を受けました。

 

 

精密検査の結果は、重症筋無力症、でした。

 

 

この病気の後発年齢は、小児や20から40歳代までの女性、50から60歳代の男性で、

 

初発症状は眼瞼下垂(まぶたが下がる)、複視(物が二重に見える)で、

 

次第に筋力低下が明らかになってきます。

 

彼女は、下半身はしっかりしていて、水氣道の稽古により、体調も良く、

 

午前中の生活に関しては全く支障がありませんでした。

 

 

胸部CT検査で胸腺腫が発見されたため、胸腺摘除術を受けることになりました。

 

ただし、手術ストレスやその後の過労や治療薬により、

 

筋無力性クリーゼという重症化発作を経験されたそうです。

 

その後は、ステロイド内服療法と免疫抑制薬療法を継続されているとのことです。

 

 

四肢の脱力や呼吸困難といった顕著な症状が出現する前の段階で、

 

この病気を早期発見することのむずかしさを経験しました。

 

元来体力が低下していて永年運動習慣のない方であったため、

 

入院や手術の前に、水氣道一定程度の体力と抵抗力を養っておくことができたのは、

 

せめてもの幸いだったと思います。

 

 

解説:重症筋無力症

 

神経と筋肉をつなぐ部位である神経筋接合部において、

 

アセチルコリン受容体に対する自己抗体が出現することによって、

 

神経筋伝達障害をきたす疾患です。

 

自分の体の一部を異物と錯覚して攻撃してしまう病気を自己免疫疾患といいますが、

 

関節リウマチをはじめとする膠原病や、

 

バセドー病や橋本病などの甲状腺の病気もその仲間です。

 

有病率は10万人あたり1ないし2です。しばしば、胸腺腫を合併します。