今月のテーマ「神経疾患の最新医療」

 

 

<神経疾患における免疫修飾療法>

 

 

神経疾患には未だ根本的な疾患修飾治療が確立されていない難病がきわめて多く、

 

満足できる状態ではありません。

 

 

その理由の一つは、神経細胞が既に分化し終わり、分裂を停止した状態にあって、

 

一旦障害されると、極めて再生し難いということが挙げられます。

 

 

たとえば、認知症の治療薬開発戦略は,

 

失われた神経機能を補い認知症症状を改善させる症候改善療法

 

認知症の原因疾患の病理学的変化の進行を抑制する疾患修飾療法

 

損傷を受けた神経細胞を修復し再生を促す神経修復・再生療法の3つに大別されます。

 

 

現在日本で処方可能な抗認知症薬剤はいずれも症候改善薬であり,

 

次世代の認知症治療として期待を集めているのが疾患修飾薬です。

 

 

疾患修飾療法のうち、免疫機構による免疫修飾療法です。

 

 

対象となるのは自己免疫疾患で、ギラン・バレー症候群/フィッシャー症候群、

 

慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、重症筋無力症などです。

 

 

血液浄化療法…体液の是正、病因物質の除去を目的とする治療法で血液透析をはじめ、

 

血漿交換、吸着療法などの体外循環治療です。

 

 

免疫グロブリン大量静注療法…Fc活性をもつ免疫グロブリンIgGを静脈投与する治療法です。

 

なお免疫グロブリンのFc領域は、補体の活性化や抗体依存性細胞傷害作用など、

 

免疫反応の媒介となる活性を持っています。

 

 

ステロイドパルス療法…1グラムのステロイドを3日間連続で点滴することを1クールとして

 

疾患によって1~3クール行う治療法です。

 

 

免疫グロブリンによる治療メカニズムにはいくつかの仮説があります。

 

 

Fcγ受容体を介した機序

 

大量投与されたIgGのFc部分によってFcγ受容体が阻害されマクロファージの活性化が阻害される)

 

補体を介する機序(C3bといった補体成分とIgGが結合することでC5b-C9複合体の生成が減少する)

 

抗イディオタイプ抗体による自己抗体の制御

 

抗イディオタイプ抗体によって自己抗体が中和される)

 

炎症性サイトカインの制御

 

IL-1αやIL-6といった炎症性サイトカインに対する中和抗体が含まれている)

 

T細胞の制御(サイトカインバランスに働きかけて自己免疫性疾患を調節する)。

今月のテーマ「神経疾患の最新医療」

 

<運動失調:小脳性と脊髄性との比較>

 

 

小脳の機能:小脳の役割は、知覚と運動のあいだを取り持つことです。

 

姿勢を保ち目的にあった運動を行うため、骨格筋の協調運動を助ける反射中枢です。

 

 

  1. 筋の緊張 2.平衡機能 3.姿勢反射の総合的調整 4.随意運動の調整

 

 

小脳性の運動失調症による共同運動不全では、主に以下の7つの要素により運動が阻害されます。

1測定異常(ジスメトリア) 2 変換運動障害 3 運動分解 4 共同収縮不能 

 

5 企図振戦 6 時間測定障害 7 筋トーヌス低下

 

 

小脳が障害されると、

 

 

症状:運動失調および協調運動障害による歩行障害(酩酊様歩行)

 

・上肢運動障害(ジスメトリア)、構音障害など

 

 

神経所見:筋力低下を伴わない筋緊張(トーヌス)低下、

 

眼振、企図振戦、反跳現症などが認められます。

 

ただし、小脳機能は、意識障害や運動麻痺があると検査が困難になります。

 

ジスメトリアとは、

 

反跳現症とは、リバウンド現象、ホームズ‐ステュワート現象ともいいます。

 

小脳に機能障害のある患者が,抵抗に逆らって動作しようとして,

 

その抵抗が急に除去されたとき,腕や脚は動かそうとしていた方向に急激にかつ力強く動き、

 

引き留めることができないという現象です。

今月のテーマ「神経疾患の最新医療」

 

<パーキンソン病の治療薬>

 

 

パーキンソン病など神経変性疾患は、加齢依存性疾患が多いことから、

 

近年の超高齢社会の進展に伴って、多くの神経疾患では患者数が飛躍的に増加しています。

 

 

近年、神経疾患では疾患の原因となる異常タンパクが神経細胞から分泌されて

 

周囲の神経細胞を障害するというプリオン仮説が提唱されています。

 

実際に、パーキンソン病などでは移植した神経細胞にも

 

異常タンパクの蓄積が見られるとの報告もあります。

 

 

そこで、神経疾患に対する細胞治療を臨床応用していくためには、

 

使用する細胞の種類や移植方法および併用する治療法など、

 

今後検討すべき課題が多く残されています。

 

 

まずは、薬の種類が多く、副作用や禁忌もあり、

 

これを処方薬として使いこなしている医師は相当の頭脳と覚悟があるものと思います。

 

 

1)ドパミン前駆物質(+DCI)最も有効

 

…ドパミン補充(DCIは末梢のレボドパを代謝するDDCを阻害)

 

禁忌:閉塞隅角緑内障/ウェアリング・オフ,ジスキネジアを起こしやすい

 

 

2)ドパミンアゴニスト 70~75歳以下、認知症のない早期例に

 

…ドパミン受容体に結合し、ドパミン用作用

 

禁忌:麦角系は心臓過敏症、非麦角系は妊婦

 

 

3)COMT阻害薬 レボドパによるウェアリング・オフを抑制

 

…末梢でレボドパを代謝するCOMT阻害

 

禁忌:悪性症候群横紋筋融解症 

 

 

4)MAO-B阻害薬 レボドパの効果を高める

 

…シナプス間隙のMAO-B阻害、ドパミン濃度上昇

 

禁忌:統合失調症、抗うつ薬使用者

 

 

5)抗コリン薬 薬剤性パーキンソン症候群、軽症例に

 

…ムスカリン受容体遮断、アセチルコリン作用抑制

 

禁忌:緑内障、重症筋無力症、尿路閉塞性疾患

 

 

6)ドパミン遊離促進薬 ジスキネジアに有効

 

…グルタミン酸(NMDA)受容体拮抗作用、線条体ドパミン放出促進

 

禁忌:妊婦、授乳婦、腎障害(中等度以上)

 

 

7)レボドパ賦活薬 振戦、ウェアリング・オフに有効

 

…ドパミン合成促進、MAO-B阻害作用

 

禁忌:妊婦

 

 

8)ノルアドレナリン前駆物質 すくみ足、起立性低血圧に有効

 

…不足したノルアドレナリンを補充

 

禁忌:閉塞隅角緑内障、ハロゲン含有吸入麻酔薬、妊婦

 

 

9)アデノシン(A₂A)受容体拮抗薬 ウェアリング・オフに有効

 

…A₂A受容体を遮断し、淡蒼球外節におけるGABA過剰を改善

 

禁忌:肝障害(重度)、妊婦

 

 

ウェアリング・オフ現象とは、薬の持続時間が短くなり、

 

薬の効果が切れてくると症状が悪くなる現象です。

 

 

ジスキネジアは、抗パーキンソン病薬の服用に伴って起きる不随意運動の総称で、

 

自分の意志に関わりなく身体が動いてしまう症状です。

 

 

ジスキネジアは高齢者よりも若年性パーキンソン病患者に現れやすいです。

 

若年性のパーキンソン病患者では 四肢が勝手に動いてしまうことが多いが、

 

高齢者では 「口舌ジスキネジア」で始まり、四肢の不随意運動へと進行していく例が多いです。

 

L-ドーパの内服開始後 だいたい3~5年で現れるようになることが多く、

 

約半数の患者がこれを経験するようになるようです。

 

 

悪性症候群横紋筋融解症

 

悪性症候群とは 精神神経用薬(主に抗精神病薬)により引き起こされる副作用です。

 

 

高熱・ 発汗、意識のくもり、錐体外路症状(手足の震えや身体のこわばり、

 

言葉の 話しづらさやよだれ、食べ物や水分の飲み込みにくさなど)、

 

自律神経症状 (頻脈や頻呼吸、血圧の上昇など)、横紋筋融解症

 

(筋肉組織の障害:筋肉 の傷みなど)などの症状がみられます。

 

 

悪性症候群は、多くは急激な症状の変化を示します。

 

抗精神病薬などを服用後、急な高熱や発汗、神経系の症状などが認められる場合は、

 

悪性症候群発症の可能性を考慮する必要があります。

 

悪性症候群は、放置すると重篤な転帰をたどることもありますので、迅速な対応が必要です。

 

あらゆる抗精神病薬は、悪性症候群を引き起こす可能性があり、

 

ほかにも 抗うつ薬、抗不安薬、パーキンソン病治療薬、制吐剤などの

 

消化機能調整薬 による発症が知られています。

 

また、パーキンソン病治療薬の減薬による発症も報告され、

 

パーキンソン病治療の難しさの一端を物語っています。

今月のテーマ「神経疾患の最新医療」

 

 

<代表的な認知症とその特徴>

 

 

認知症は、国内患者数 460 万人、軽度認知障害を含めると 800 万人とも言われます。

 

 

代表的な認知症は、二大別すると、変性性認知症血管性認知症です。

 

 

まず、血管性認知症の特徴は、

 

基礎疾患(高血圧、糖尿病、心疾患など)を有していることが多く、

 

病状が段階的に進行するが、末期まで人格が保たれることです。

 

 

障害部位は様々ですが、なかでも前頭葉の障害が多いため、

 

情動失禁、感覚・運動障害、まだら認知症などの症状がみられます。

 

 

これに対して、変性性認知症の一般的特徴は、基礎疾患が特になく、

 

病状は緩徐であっても常に進行し、やがて人格が崩壊することです。

 

 

この変性性認知症は、アルツハイマー病レヴィー小体型認知症

 

前頭側頭型認知症(Pick病を含む)などがあります。

 

 

アルツハイマー病の特徴は、女性に多く海馬の萎縮をはじめ

 

大脳の全般的萎縮(頭頂葉・側頭葉)がみられ、

 

神経原線維変化、老人斑など脳の病理組織変化を生じ、

 

アミロイドβ、タウ蛋白などの異常蛋白が蓄積します。

 

 

記憶障害(病初期から)、見当識障害、物盗られ妄想、周囲への無関心などの症状がみられます。

 

前頭葉症状は進行例でみられます。

 

 

レヴィー小体型認知症の特徴は、

 

パーキンソン症状と幻覚(特に幻視)などが現れ、後頭葉の血流・代謝低下、

 

基底核ドパミンの再取り込み低下が観察されることです。

 

 

脳組織病理ではレヴィー小体、異常蓄積蛋白は、α-シヌクレインです。

 

 

前頭側頭型認知症(Pick病を含む)の特徴は、

 

人格変化(脱抑制常同行為、感情鈍麻、自発性低下)や滞続言語です。

 

主に前頭葉と側頭葉が障害され脳が委縮します。

 

 

脳組織病理ではピック球があればピック病です。異常蓄積蛋白は、タウ蛋白やTDP-43です。

 

 

脱抑制とは、

 

「状況に対する反応としての衝動や感情を抑えることが不能になった状態」のことです。

 

患者は外的な刺激に対して衝動的に反応したり、

 

内的な欲求を制御することができず本能のおもむくままに行動します。

 

 

常同行為とは「特定の行為、行動を繰り返す状態」です。

 

繰り返し膝をこすったり、パチパチと手を叩くような単純な運動を繰り返したりする症状から、

 

「いつも同じ服を着たがる」「デイルームの決まった椅子に座りたがる」

 

のような比較的まとまった行動まで幅広いです。

 

 

滞続言語はpick病などに見られ、

 

行為の統制が取れないために何に対しても同じ返答をしてしまう症状です。

今月のテーマ「神経疾患の最新医療」

 

 

<神経系疾患の発症と経過>

 

 

日常の外来診療で、さまざまな神経系の病気を鑑別することは、

 

とても難しい技術を要します。

 

 

ただし、平成元年の開院以来、最も役に立ってきたのは、

 

病気の始まり方と経過を整理することでした。

 

それによって、その病気の大まかな性質と鑑別がある程度可能でした。

 

 

タイプ1:症状固定のまま経過

 

 

1)発症時期不明…奇形 

 

2)発症は外傷受傷後…外傷後遺症

 

 

タイプ2:症状の寛解と増悪を繰り返す(再発性あるいは発作性)

 

1)日内変動型:朝は軽快、次第に増悪…重症筋無力症

 

2)再発の回数は年に3~4回から数年に1回…多発性硬化症

 

3)発作回数は一生に数回からほぼ連日まで…低カリウム性周期性四肢麻痺

 

 

タイプ3:徐々に進行する

 

1)緩徐進行型:アルツハイマー病、 

 

2)多くの変性性神経疾患(パーキンソン病脊髄小脳変性症など)

 

3)急速進行致死型:クロイツフェルト-ヤコブ病進行性多巣性白質脳症

 

4)浸潤型の脳腫瘍筋委縮性側索硬化症

 

 

タイプ4:劇症型:脳血管性障害中枢性感染症ギラン‐バレ症候群

 

以上のように分類したうえで、高円寺南診療所で経験した疾患

 

未経験の疾患を分けてみると、すべてのタイプを経験してきたことがわかります。

 

 

特にタイプ4の劇症型の典型例を経験してきたことを振り返ってみると、感慨ひとしおです。

 

これらの疾患の中にはCTスキャンやMRIその他の高額医療機器を活用しても

 

診断がつかない疾患が多数含まれていることも新たな発見です。

今月のテーマ「神経疾患の最新医療」

 

<抗NMDA受容体抗体脳炎>

 

 

抗NMDA受容体抗体脳炎(NMDAE)は、自己免疫性辺縁系脳炎です。

 

2007年に提唱された疾患概念です。

 

 

『カゼを引いた後に総合失調様の精神症状で急性発症した若い女性』に遭遇したら,

 

まずこの病気を疑わなければなりません。

 

 

その場合は卵巣奇形腫の超音波検査をすることが必要です。

 

 

心療内科専門医が外来で卵巣腫瘍を診断しなければならない時代に入りました。

 

 

なお、この病気は、自己免疫疾患なのでアレルギー専門医としても、

 

無関心・無責任ではいられないことを自覚しました。

 

 

NMDAとは、N-methyl-d-aspartate型グルタミン酸のことです。

 

抗NMDA受容体抗体は抗グルタミン酸受容体抗体と一部で交差反応します。

 

 

症状:精神症状・自律神経症状・意識障害など亜急性発症で進行性です。

 

若年女性に発症し、しばしば卵巣奇形腫を伴います。

 

通常の脳炎と比べて特徴的なのは、

 

精神症状(幻覚、妄想)、自律神経症状(よだれ、不整脈など)を主徴とし、

 

髄膜刺激症状(項部硬直など)は伴わないことが多いことです。

 

 

典型例での症状経過は、

 

<前駆期>非典型的感冒症状(発熱・頭痛・倦怠感など)

 

<精神病期>数日を経て、感情障害(無気力・抑うつなど)、

 

統合失調症様精神症状(幻覚・妄想など)、けいれん発作など

 

<無反応期・不随意運動期>数週~1年間、

 

意識障害(自発開眼しているが、自発運動や発語、外的刺激に対する反応性低下)、

 

換気障害(自発呼吸低下⇒人工呼吸管理 となることも)。

 

不随意運動(口・舌・顔面)、けいれん発作。

 

 

自律神経症状(頻脈・徐脈、発汗過多、唾液分泌亢進)

 

<緩徐回復期>不随意運動が落ち着き始め意識も緩徐に回復。

 

検査:髄液中の抗NMDA受容体抗体が特異的自己抗体であるほか、脳脊髄炎を疑う所見がみられます。

 

脳MRIでの異常所見は側頭葉に軽微な変化を認めるのみで、

 

ガドリニウム造影効果も乏しく、FLAIR像では軽度の脳溝造影効が観察されるのみです。

 

脳波では徐波を認めることが多いです。

 

合併症:よだれが顕著であるため、誤嚥性肺炎を併発するリスクがあります。

 

不整脈(重度伝導ブロック)の合併も多くみられます。

 

 

治療:卵巣奇形腫を伴う場合には卵巣奇形腫摘除が奏功します。

 

伴わない場合および摘除による効果に乏しい場合などでは免疫療法を行います。

 

ステロイドパルス療法を試みて無効な場合は、血漿交換・大量γグロブリン静注療法、

 

シクロフォスファミド静注療法が検討されます。

 

近年、リツキシマブが試みられています。

 

症候性てんかんを呈する場合、ジアゼパムは有効ですが、あくまで対症療法です。

 

カルバマゼピンなどの抗てんかん薬は無効である場合が多いです。

 

 

予後:加療により緩徐に回復し、社会復帰可能となりますが、

 

後遺障害(15%)、死亡例(7%)を認めます。

 

なお、速やかに診断して適切な加療を行わないと重症化し、

 

人工呼吸器管理となりやすいとされます。

今月のテーマ「神経疾患の最新医療」

 

 

<脳卒中慢性期の薬物療法>

 

脳梗塞慢性期の治療は、従来、病態別に治療法が推奨されています。

 

近年、新しい抗血小板薬としてプラスグレル、クロピドグレルなどが、

 

また新規経口抗凝固薬(NOAC)と総称されるトロンビン阻害薬(ダビガトラン)、

 

Xa阻害薬(リバーロキサン、アピキサバン、エドキサバン)が登場しています。

 

 

○抗血小板療法(アスピリン)は、非心原性脳梗塞で推奨されます。

 

非心原性脳梗塞の再発予防においては

 

抗血小板薬2剤療法の併用効果はなく単剤使用が推奨されています。

 

シロスタゾール、プラスグレル、クロピドグレルはアスピリンと

 

同等以上の有効性があります。

 

 

○抗凝固療法(ワルファリン)は、心原性脳梗塞、弁膜症性心房細動、器質的心疾患や

 

機械人工弁をもつ患者では第一選択になります。

 

ワルファリンは個人差や食事(ビタミンK含有食品)、薬物相互作用により薬効が一定しないため、

 

PT-INRによるモニタリングが必要です。

 

 

心原性脳梗塞でワルファリンによる抗凝固療法中では、

 

PT-INRを2.0~3.0に維持します。ただし、7

 

0歳以上では低めの目標設定(1.6~2.6)出血性合併症のリスクを下げます。

 

 

虚血性心疾患に対するステント留置後では、

 

再狭窄予防のための抗血小板薬2剤療法が一般的です。

 

 

○新規経口抗凝固薬(NOAC)は、非弁膜症性心房細動で第一選択とされます。

 

新規経口子凝固薬は、頭蓋内出血を含めた重篤な出血性合併症が

 

ワルファリンよりも明らかに少ないとされます。

 

また薬効の個人差が少ないことから、PT-INRによるモニタリングは不要です。

 

ただし、ワルファリンに対する優越しているのはダビガトラン300mg/日投与のみです。

今月のテーマ「神経疾患の最新医療」

 

 

<脳卒中急性期の血栓溶解療法(rt⁻PA、アルテプラーゼ静注療法)>

 

 

脳卒中の治療法は大きく進歩していますが、現実の医療現場は困難を増しています。

 

 

担当医にとって、極度にストレスフルな限界状況下で、

 

様々な情報を漏れなく確実なチェックを強いられる疾患の代表だと思われます。

 

 

そもそも、意識障害で救急搬入されてくるような場合、

 

どのようにして発症時期を確定できるのでしょうか?

 

 

コミュニケーションすらおぼつかない患者さんから、

 

どのようにして既往歴を聴き出すのでしょうか?

 

まさに「予防に勝る治療なし」です。

 

 

脳卒中の原因が血栓症による脳梗塞である場合には、血栓溶解療法が試みられます。

 

血栓溶解薬には、抗トロンビン薬や

 

遺伝子組み換え組織型組織プラスミノゲンアクティベータ(rt-PA)があります。

 

 

血栓溶解療法は、心原性脳塞栓症、アテローム血栓性脳梗塞、

 

ラクナ梗塞などすべての臨床病型に適応できます。

 

アルテプラーゼ静注による血栓溶解療法は、脳卒中患者の神経予後を有効に改善させます。

 

 

ただし、頭蓋内出血などの重篤な副作用が生じうるので、

 

多くの禁忌基準があり、慎重に判断しなければなりません。

 

 

1)発症から治療開始までの時間:

 

血栓溶解療法の適応は、発症から治療開始までの時間が4.5時間を超える場合

 

 

2)既往歴:

 

非外傷性頭蓋内出血になったことがある人など

 

 

3)合併する臨床所見:重篤な肝障害、急性膵炎

 

くも膜下出血、急性大動脈解離、出血、降圧療法後の血圧185/110mmHg以上、

 

 

4)血液所見:凝固療法中でPT₋INR>1.7、aPTT延長(前値の1.5倍)

 

異常血糖値(<50mg/dL,または>400 mg/dL)、血小板減少≦100,000/mm³、

 

 

5)画像診断(CT/MRI検査)所見 

 

広範な早期虚血性変化(CT)、圧排所見(正中構造偏位)

 

 

 

今月のテーマ「膠原病の最新医療」

 

 

<全身性エリテマトーデスの分類基準>

 

 

全身性エリテマトーデスは、米国リウマチ学会分類基準(1997)、SLICC分類基準(2012)

 

に基づいて診断されます。

 

 

とくに、SLICC分類基準(2012)は臨床11項目、免疫6項目よりなります。

 

 

臨床所見の項目では、(1)(2) 急性および慢性皮膚ループスを詳細に定義しています。

 

また、新たに関節炎を(5) 滑膜炎(2関節以上)に変更し、

 

(8) 多彩な神経症状(けいれん、精神障害、多発単神経炎など)、

 

を診断基準として採用しています。

 

 

その他、(7 ) 腎障害を腎症に改め定量化し、

 

(10) 白血球減少、リンパ球減少が独立した基準としています。

 

 

免疫の項目では、新しく(5) 低補体を採用しています。

 

 

備考として、腎生検にて病理学的にループス腎炎と診断でき、

 

1, 抗核抗体ないしは 2,抗dsDNA抗体が陽性であれば、

 

それだけで全身性エリテマトーデスに分類することができます。

 

今月のテーマ「膠原病の最新医療」

 

 

<出産を契機に起こりやすい関節炎>

 

 

関節リウマチは、妊娠により症状が軽快する場合があることが知られています。

 

 

しかし、出産を契機に新規に発症したり、増悪したりする場合もあります。

 

 

その原因疾患は、

 

1)関節リウマチ、関節リウマチ以外の膠原病、その他の自己免疫疾患

 

2)内分泌環境・生活環境の変化に伴う腱鞘炎(ドゥ・ケルヴァン症候群など)

 

 3)産後甲状腺炎(一過性甲状腺機能亢進症)に伴う関節症状

 

 

鑑別診断のポイントは以下の通りです。

 

1)関節症状の特徴を把握する

 

2)関節炎は1か所か複数か所か

 

3)急性発症か否か

 

4)関節症状の広がり

 

5)関節外症状の有無

 

 

したがって、関節の診察を基本としつつも、

 

単純エックス線検査、関節超音波検査などの画像検査をはじめ、

 

血液検査では関節リウマチの早期発見のためのスクリーニングとして

 

リウマチ因子、抗CCP抗体、その他の膠原病の鑑別のための自己抗体検査を行うほか、

 

必要に応じて甲状腺ホルモンなどを測定します。