Covid-19問題で見落とされがちな急性咽頭炎の問題点 ②


急性咽頭炎の診断・治療および事後管理に関する問題点と当クリニックの方針
(杉並国際クリニック令和3年初版)その2(全4回)

 

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急性咽頭炎を考えるべきケースは、咳や鼻汁を認めないか、軽度であるにもかかわらず嚥下時痛を伴う咽頭痛が強い場合です。

 

1週間程度経過しても症状が軽快しない、あるいは再度、咽頭痛や発熱が増悪した場合は細菌感染を疑う必要があります。

 

なお、抗菌剤を必要とする細菌性咽頭炎は、咽頭炎全体の約10%に過ぎない。咽頭炎の大半はウイルス性であり、1週間程度で軽快することが多いとされます。これに対して、当クリニック推奨の『常備漢方セット』によるセルフケアでは通常は当日内、長引いても概ね3日以内に復調するため、早めの対応によって早期に病因の見当を立てて、しかも効率的な対応をすることが可能になります。

 

しかし、一般の方が何らかの急性感染症に罹って発熱すると、すぐに解熱剤や抗菌剤を求めがちです。

 

それが往々にして問題になります。とくにウイルス性感染症の場合、解熱剤の使用により抗体産生が妨げられて自然な回復が遅れたり、ライ症候群(註1)を発症させることがあり、また抗菌剤使用によって重篤な過敏反応を来したり、耐性菌問題(註2)をもたらしたりすることがあります。

 

(註1)ライ症候群(Reye's syndrome)

インフルエンザや水痘などの感染後、特にアスピリンを服用している小児に、急性脳症、肝臓の脂肪浸潤を引き起こし、生命にもかかわる病気です。成人では稀ですが、それでもアスピリンを内服するメリットよりデメリットの方が多いと考えます。当クリニックにおいては、推奨の『常備漢方セット』を活用することによって、アスピリンを新規に処方する機会には遭遇しておりません。

 

(註2)耐性菌問題:

今日、耐性菌の増加と蔓延は世界的な問題となっています。そのための対策としては、感染症を疑って抗菌薬を投与する場合には「十分量を、できるだけ短期間で」という原則を徹底することが大切であるとされます。そして、起因菌に関する細菌検査をしっかりと実施し、その結果によって抗菌薬の変更・中止を的確に判断することが必要であるとされます。それよりも大切な基本的対策としては、しっかりと予防策を講じて、防衛体力の向上を図る(例:水氣道®)なり、『常備漢方セット』を使いこなせるように訓練するなり、感染症の発症数を抑制することではないでしょうか。このような工夫を積み重ねることによって、抗菌薬を可能な限り使用しないで済むような治療戦略を立案して実践することが肝要なはずですが、そのような視点からの議論は甚だ乏しいのが現状です。


それでは、そもそもどのような臨床所見に基づいて抗菌薬を処方すべきなのかということになりますが、それには一応の指針があります。

 

抗菌薬の適応(日本呼吸器学会「呼吸器感染症に関するガイドライン」より)

病初期から、あるいは経過中に下記の症状、所見を認める場合には抗菌薬の適応と考える。

 

① 3日以上の持続性高熱orかぜ症状が軽快した後の2峰性発熱

 

② 膿性喀痰

 

③ 扁桃腫大+膿栓・白苔付着、圧痛を伴う頸部リンパ節腫大

④ 鼻副鼻腔炎(中等度以上)合併

 

⑤ 強い炎症反応:白血球増多・CRP陽性

 

⑥ 基礎疾患(慢性呼吸器・心疾患、糖尿病や腎不全、免疫不全)を有する者

 

 

コメント:

上記の指針の問題点は、6項目のうち、どの程度の症状、所見が見られれば抗菌薬の適応があると判断すべきなのか、必ずしも明確ではなく、判定基準が定量化されていない点にあると思われます。ただし、①~③は診察所見、④は鼻鏡検査および副鼻腔エックス線検査、⑤は血液検査、⑥は詳細な問診が必要であり、少なくともこれらの検査手続きを踏まえて判断することが望まれるものと考えることができるでしょう。