6月1日(月)特集:シリーズ『新型コロナウイルス罹患者の体験から学ぼう』症例6:故郷に戻れず逝った父 ⑧

症例6(その8)


第8節:ビジネスホテルで息子は父と約束の酒を酌み交わした   

 

父と最後に交わしたことばが、「退院したら一緒にお酒を飲もうね」ですから、近くのコンビニに行ったらお酒が売ってたものですから。

その日は父の遺骨の前にグラス1つ置いて、僕もグラス1つ置いて。ウイスキーを2人で。いろいろ父に語りかけながら、その晩はお酒を飲んで。やっと病院から出られてよかったねっていう話をはじめはしてたんですけど、やはりだんだんこみあげてくるものがあって。でも一晩じゅう泣いたというよりも、ずっと感謝のことばを言ったり、親不孝な子どもだったかなとか、そんなことを思いながら、ずいぶん飲んだせいで、その日はよく寝れて、次の日名古屋に父を連れて帰りました。

 

 

第9節:

お骨になって帰ってきた夫~妻の話~            

 

感染を広げないようにと、一度も東京に行けなかった妻。夫をみとることも、最後に顔を見ることもできなかった

 

実感がわかないんですよね。元気なときから1度も会ってないから。その過程を見ていないので、頭ではわかっているんですけど何か受け入れられない。お骨も見てるのに、どうしてもまだ帰ってくるような気がしてね。遺骨を息子から受け取ったときも「お帰りなさい」って、いつもの会話ですよね。

 

だから毎日、朝「おはよう」って言ってね。朝コーヒーいれたら、「お父さん飲みな」って言って、日常生きてたときと同じような会話をしてます。主人は絶対元気になって帰ってくると思ってたのでね、

 

一緒に食べようと思ってたものが、そのまま冷凍室に残ってるんですよ。お肉なんですけど、松阪牛のお肉だったから、2人で食べたらもったいないと思ってね、今度息子が来たら食べようかなって思って入れてあったのを、この間、冷凍室開けて、あぁもう食べることできないんだ、食べさせてあげればよかったなって。何かにつけ、やっぱり思い出しますよね。

 

 

第10節:

「コロナを広めているのは人」~息子の話~

亡くなって3週間余り、ごく親しい人だけが集まって男性のお別れ会が開かれた。ほほえむ遺影の前で、息子は取材を受けた思いを話してくれた

 

父が闘病している時はコロナが怖くて怖くてしかたがなかったんですけど、父が亡くなるとコロナが怖いというか憎い感じがしなくて、コロナ自身が意思を持って人に感染しているわけではないし、人がいなければ増えることもできないし、生きていくこともできないので。人の行動がコロナを広めているわけですし、父も母も人を介して、人の行動によって感染しているわけですから。

 

父が入院しているときに、「お母さんは大丈夫か? 大丈夫か?」と言っていたんですけど、父は自分の家にコロナを持ち込んだことに責任を感じているんだと思います。

 

自分の大切な人だとか愛する人を、ひょっとしたらうつしてしまうかもしれないとか、傷つけてしまうかもしれないということを、もっとリアルに想像してもらいたいなと思います。

 


(4月11日・12日取材 社会部 山屋智香子)

 

 

ご遺族の皆様、ジャーナリストの山屋さん、貴重な症例の提示、ありがとうございました。

 

<この項終わり>