5月20日(水)認知症とADLについてNo3

認知症の人や介護者が住み慣れた地域の中で穏やかな暮らしを継続できるようにしていくためには、地域の中で認知症に気づき、総合的なアセスメントを実施し、多職種間でその情報を共有し、必要な支援を統合的に調整していく必要があります。

 

認知機能の評価法と認知症の診断(その3)

 

3) 認知症の診断
 認知症の診断は米国精神医学会による診断マニュアルであるDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-5(DSM-5)(表2)、または国際疾病分類第10版(ICD-10)、またはNational Institute on Aging-Alzheimerʼs Association(NIA-AA)の診断基準に基づいて行います。認知機能障害だけでなく社会生活の障害を確認することが大切です(図1)。生活機能の低下があれば認知症を疑い、概ね自立している場合は、軽度認知障害(MCI)を考えます。
 認知機能障害が疑われる場合は、生活機能(手段的ADLなど)の障害について問診を行います。

 

 DSM-5による認知症の診断基準(2013年)

1. 1つ以上の認知領域(複雑性注意、遂行機能、学習および記憶、言語、知覚-運動、社会的認知)において、以前の行為水準から有意な認知の低下があるという証拠が以下に基づいている:

(1)本人、本人をよく知る情報提供者、または臨床家による、有意な認知機能の 低下があったという概念、および(2)標準化された神経心理学的検査によって、それがなければ他の定量化された臨床的評価によって記録された、実質的な認知行為の障害

 

2. 毎日の活動において、認知欠損が自立を阻害する(すなわち、最低限、請求書を支払う、内服薬を管理するなどの、複雑な手段的日常生活動作に援助を必要とする)

 

3. その認知欠損は、せん妄の状況でのみ起こるものではない

 

4. その認知欠損は、他の精神疾患によってうまく説明されない(例:うつ病、統合失調症)

 


 次に、認知機能検査(HDS-R, Mini-Cog, MMSEなどを推奨)を行います。

〇 HDS-R20点以下、Mini-Cog 2点以下、DASC-21が31点以上、MMSE 23点以下の場合には認知症疑い。

 

〇 MoCAは25点以下、MMSE 27点以下でMCI疑い。

 

しかし、これらのスクリーニング検査の成績のみで認知症・軽度認知障害(MCI)と診断することは困難です。せん妄やうつの除外、血液検査や脳のCT・MRIで二次性の脳機能低下を除外することが必要です。即ち、甲状腺機能低下症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症など治療できる認知症を見逃さないようにします。

 

また、HDS-R やMMSEの点数が高くても遂行機能障害があり、セルフケアができない場合があるので注意を要します。『取り繕い行動』がある場合もあるので介護者からも情報を聴取します。

 

4) 認知症の重症度の判定
詳細な認知症の重症度の判定には臨床認知症尺度(Clinical Dementia Rating, CDR)などを使用することが望ましいが、簡易にMMSE,DASC-21を用いて重症度を判定することもできます(表3)。DASC-21では、合計点31点以上と手段的ADL障害、基本的ADL障害、場所の見当識障害などを組み合わせて認知症の重症度を簡単にスクリーニングすることが可能です。


 認知症の重症度の判定例

軽度 中等度 重度

MMSE 21点以上 11-20点 0-10点
DASC-21 合計点が31点以上の場合は認知症の可能性ありと判定する

合計点が31点以上で,遠隔記憶,場所の見当識,社会的判断力,身体的ADLに関する項目のいずれもが1点または2点の場合は「軽度認知症」の可能性ありと判定する 合計点が31点以上で,遠隔記憶,場所の見当識,社会的判断力,身体的ADLに関する項目のいずれかが3点または4点の場合

 

「中等度認知症」の可能性ありと判定する 合計点が31点以上で,遠隔記憶,場所の見当識,社会的判断力,身体的ADLに関する項目のいずれもが3点または4点の場合は「重度度認知症」の可能性ありと判定する

 

 

杉並国際クリニックでの実践
現在、当クリニックに通院中の方は、軽度認知症や軽度認知障害(MCI)疑いの方はいらっしゃいますが、中等度以上の認知症の方はいらっしゃいません。そこで、認知症の重症度判定には、MMSEを最も重視しています。ただ、今後は、症例によっては、DASC-21や、詳細な方法である臨床認知症尺度(Clinical Dementia Rating, CDR)で確認することも大切だと考えております。