週間<外国語>旅行
なぜイタリアでの混乱が収まらないのか?No2
-イタリア病の病理学と病態生理学-
イタリアは、欧州連合(EU)の加盟国ではギリシャに次いで公的債務の対GDP比が高い国です。<公的債務拡大>それを国家の崩壊のみならず、新型コロナ・パンデミック拡大や高い死亡率にまで直接結びつける政治経済の専門家が少なくないようですが、私はそうした見解は短絡的過ぎると考えています。むしろ、それ以上に問題なのは、イタリアの統治機構の欠陥(病理)と国家機能の混乱・麻痺(病態生理)にあるとみています。
そのためには、イタリアの現在の責任政権の歩みを整理し、その病理と病態生理を指摘してみました。
2018年3月4日の総選挙にて左派ポピュリズム(大衆迎合)の五つ星運動が大勝し、5月21日に同党は右派ポピュリズムの同盟と共に閣僚評議会(内閣に相当)の議長(首相に相当)として政党に属さない法学者のジュゼッペ・コンテ氏を首相に担ぎ出し、セルジョ・マッタレッラ大統領に推薦し、同月23日に大統領はコンテを首相に指名し、組閣を指示しました。
<病態生理:左派と右派の連立の共通基盤が大衆迎合であること>
<病理:左右バランスの軸である首相に政党人(政治家)ではなく学者を据えたこと>
しかし、経済相候補に立てた欧州懐疑主義のパオロ・サボナ元産業相をマッタレッラ大統領が拒否したため、27日になってコンテはいったん組閣断念を表明したが、サボナを経済相から欧州担当相にスライドさせるなどの妥協が図られ、再びコンテが首相に指名され、6月1日に左右ポピュリズム(大衆迎合)連立政権が発足しました。
<病理:大統領が閣僚指名権までも握り、首相は内閣の議長に過ぎず、
首相の権力基盤が不安定であるという統治機構であること。
つまり、合議体である内閣は大統領がデザインした箱庭という枠組みに過ぎないこと>
註:
イタリアの大統領はイタリアの国家元首です。概ね象徴的な元首であるとされていますが、議会解散権、首相任命権、軍隊指揮権などの非常時大権(議会や内閣の助言によらずに独自の判断で行使できる権限)を持っているのが特徴的です。
コンテ首相は、就任当初からポピュリストを自任し、緊縮財政に反対する政策を掲げました。これに対して欧州委員会も2018年10月に史上初の加盟国に対する予算案差し戻しによる修正を要求して対峙しました。また、移民・難民に対する受け入れ規制も大幅に強化しました。
<病態生理:反EU・欧州懐疑主義の立場で、自らもポピュリストであったこと>
2019年3月、G7で初めて「中国の一帯一路協力の覚書」に調印してアメリカ合衆国やEUの懸念を呼びました。
<病態生理:反EU・反米かつ親中路線を打ち立ててしまったこと>
同年4月、EU各国が財政難を背景に受給開始年齢を引き揚げ傾向にある中で、イタリアが単独で年金受給開始年齢引き下げるなど異例の措置をとり、同時期に大規模減税とともに最低限賃金保障制度までも導入しました。しかし、これらの裏付けとなる財源については、制度発足段階では担保されませんでした。
<病態生理:不要不急の人気取り政策をとり、財政崩壊を加速させてしまったこと>
そこで同年5月に欧州委員会はイタリアの財政規律違反を認定して「過剰財政赤字是正手続き」(EDP)の開始を勧告しました。これに対してコンテ首相は、安定・成長協定(SGP)を改正すべきと反発していました。
<病態生理:EUに対して強気の態度を示していたこと>
結局、同年7月に財政赤字目標の引き下げによりEDPの正式開始は見送られました。
しかし、左右のポピュリストが同居する連立政権内は意見の相違により多くの政策で折り合わず、2019年8月、マッテオ・サルヴィーニ副首相(同盟の党首でもある)は対立激化を理由に早期の解散総選挙を要求しました。コンテはこうした要求を拒否したため、サルヴィーニは連立離脱を表明し、内閣不信任決議案を提出しました。連立相手の五つ星運動はこうした動きを非難し、連立政権が事実上崩壊。8月20日にコンテは首相を辞任すると表明しました。8月29日、五つ星運動と中道左派の民主党が連立政権の樹立で合意したことを受けてマッタレッラ大統領はコンテを首相に再指名し、9月5日に第2次コンテ内閣を組閣し、所信表明演説で第1次内閣の欧州懐疑主義の方針を修正してEUとの融和路線を打ち出しました。
<病態生理:にわかにEUとの融和路線を打ち出したが、十分な支援を取り付けるまでの信用が得られていないこと>
こうした、国内およびEU内での状況のもとで、コンテ首相は、新型コロナウイルス感染症の流行の際はミラノやベネチアなどの主要都市を封鎖し、イタリア全土に外出禁止令を発動しました。
ポピュリズム政権の困る点は、国内での危機管理体制が脆弱になるばかりでなく、国外からの緊急支援が得られにくくなるからることです。
その理由は、目先の利益や利便性、平時での表面的な人気取り政策がすべてに優先してしまうと、国民の勤勉さや謙虚さが後退してしまい、国際協調性や信頼関係が希薄になり、往々にして不要不急の国民ニーズに対する財政支出が増える一方でGDPが伸び悩み、その結果として非常事態に対する備え(医療機関や医療スタッフ、医療技術など)がますます疎かになってしまうからです。
イタリアが、非常事態に対する人的・物的資源やインフラが確保されていたならば、さらに、EU諸国や日米との間の深い信頼関係を維持・発展させていたならば、また、せめて、中国とのリスクの高い関係を結んでいなければ、今回のような最悪の結果を避けることは十分に可能であったと思います。
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