日々の臨床 ②:11月13日 月曜日<いまさら聞けない?頭痛の話>

総合医療・プライマリケア

 

<いまさら聞けない?頭痛の話>

 

慢性頭痛患者数は4000万人だそうです。この数字は盲点でした。

 

私が頭痛専門医の受験資格を得るための研修は、今週末の大坂での学会で一段落しました。

 

日本頭痛学会を構成する会員の構成は脳神経外科医と神経内科医が37%ずつ、内科医(神経内科以外を専門とする内科医)は3%とのことです。

 

ちなみに私は、3%のグループに属し、頭痛専門医資格取得のハードルは極めて高いそうですが、全く苦痛には感じませんでした。

 

なぜなら、私が毎日接している患者さんの多くが頭痛持ちだからです。

 

 

 学会名は第45回日本頭痛学会総会というものでしたが、朝7:30からの教育セミナー以外は、ほとんどが英語での発表で、あたかも国際学会のようでしたが、

 

頭痛に関する世界最先端の情報が国内で一両日中に学べるとても充実した内容でした。

 

 

ところで私はプライマリ・ケアというカタカナに馴染めないでいます。

 

頭痛専門医になるための研鑽をはじめてますますその感覚が強くなってきています。

 

我が国では、内科系開業医=プライマリ・ケア医との誤解が多く、また救急医療と混同しているケースが多いのが問題です。

 

プライマリ・ケアとは地域社会の全構成員が参加する健康福祉問題改善のための医療活動だとされます。

 

そしてプライマリ・ケア医はそうした全体組織のリーダーである、という人もいます。

 

 

30年近く地域の開業医を続けてきてのプライマリ・ケアについての率直な感想は、特に都市部におけるプライマリ・ケアに限れば、それは大いなる幻想に過ぎませんでした。

 

<絵に描いた餅>とは、まさにこのようなことを指すのだろうという思いです。

 

 

プライマリ・ケア医に対して家庭医や産業医は領域が特定されている分だけ役割が明確ですが、

 

プライマリ・ケア医の業務は、どのように考えても広範に過ぎ、

 

公的な役職を伴わない一私人が能力を発揮できるなどと考えること自体、世間知らずの誹りを免れないのではないかと思います。

 

なぜなら、地域社会の健康福祉問題改善を担当するのは、本来保健所の仕事ではないのでしょうか。

 

税理士が税務署の表玄関に名札を並べるかのように、医師も士業(さむらい業)化して、地域保健所の表玄関に医士として名札を並べることも悪くはないかもしれません。

 

 

それは、さておき、私も一時期は、そうしたプライマリ・ケアの認定医や指導医の資格を取得したことがありましたが、

 

無意味に思えて、これらの資格の維持はすべて放棄しました。

 

その理由は、私が必要であると考えている<健康福祉問題改善のための医療活動>と医師会あるいは行政が考えているものとの隔たりが大きいからです。

 

具体的に言えば、私の目の前にいる一人一人の患者さんにとって真に必要な仕事とのギャップをどうしても埋めることができないことを悟ったからに他なりません。

 

そうかといって、現行の保険医療制度を全面的に否定する立場ではないことは明確にお断りしておかなければなりません。

 

そうではなくて、現行の保険医療制度を十分に活用しても、多くの患者さんが救済されないまま放置されていることに臨床医はもっと意識と努力の焦点をあてるべきだと考えている、ということです。

 

なぜなら、国民病ともいえる頻度の多い病気でさえ十分な医療対応がなされていないことが明らかだからです。

 

 

たびたび話題にしている専門医制度を例にあげると、患者数が多い専門医の順番に並べてみると

 

アレルギー専門医(アレルギー疾患罹病率50%超)、

 

頭痛専門医(頭痛患者数4,000万人)、

 

痛風認定医(高尿酸血症患者頻度、男性では25%程度)、

 

高血圧専門医(高血圧患者数1,010万8000人:厚労省平成26年調査)、

 

リウマチ専門医(手足が痛む患者数560万人:線維筋痛症患者数200万人、関節リウマチ患者数70万人)、

 

糖尿病専門医(糖尿病患者数316万6000人:同年の調査)などなど・・・

 

 

皆様、いかがでしょうか。

 

<高円寺南診療所は、やたらと複雑な病気を診たがり、むやみにいろんなことに手を出している>、

 

と怪訝に思っていらっしゃる方が少なくないと聴きます。

 

これは、大きな誤解であることをご説明したいと思います。

 

 

ここで冷静にお考ください。高円寺南診療所は、当たり前の国民病、しかも現代人を苦しめている、ごくありふれた病気の診断と治療をテーマとしているにすぎないのです。

 

ごく当たり前の頻度の多い病気を診る医者に専門医制度が確立しつつあるので、専門医でない医師は、特殊な病気は不得手であるばかりでなく、

 

ありふれた病気についての診療能力についての説明責任をどのよう果たしているのでしょうか。

 

 

現代医療の問題点を根本から解決できないまま専門医制度の確立を急いだ結果、誇りをもって担当してきた開業医の仕事がどんどん奪われてきました。

 

実績のある第一線の現場の開業医までもが巻き込まれて、大いに困惑しています。

 

内科系開業医が信頼される総合医療を実践していくためには、以上の様な国民病をきちんと診ていくことができるだけの更なる知識・技術・経験が必要不可欠なのではないかと考えています。

 

また、それらを裏付ける資格を獲得する等の一連の努力による品質表示すらできない医師が、どのように総合医療を実践するのか、

 

さらに、プライマリ・ケア医として地域社会の全構成員が参加する健康福祉問題改善のための医療活動のリーダーとして認知されることなど、到底及びもつかないのではないかと、私は考えています。

 

敬意を受けることもなく、ひたすら都合の良い便利な医師に徹することも一つの生き方でしょうが、

 

それでは到底、知識と経験を兼ね備えた専門家としてのリーダーシップを発揮することには結びつかないと思われてなりません。

 

皆様は如何お考えでしょうか。