日々の臨床④:10月18日水曜日<なぜアレルギー・免疫系疾患が増え続けているのか?>

総合アレルギ‐科(呼吸器・感染症、皮膚科・眼科を含む)

 

<なぜアレルギー・免疫系疾患が増え続けているのか?>

 

 

近年、先進国を中心に気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどのアレルギー疾患が増加しています。

 

この現象は遺伝的素因以外に環境因子の影響を考えざるを得ません。

 

文明の発達に伴う大気汚染などの自然環境の変化やライフスタイルの変容による屋内環境の変化が影響を与えていると考えられます。

 

 

大気中の原因物質としては、二酸化硫黄(四日市ぜんそく)、一酸化炭素、二酸化窒素、浮遊粒子状物質、微小粒子状物質(粒径2.5㎛以下:PM2.5)が挙げられ、呼吸器など人体の影響が指摘されています。

 

 

また国民病ともいえる花粉症の増加は花粉飛散量の増加が主因です。

 

高度経済成長後の林業の衰退により、花粉の生産能が十分となる樹齢30年以上の樹木が伐採されずに残っていることが花粉量急増の原因とされます。

 

高円寺南診療所で観察してきたことは、スギ花粉の暴露によるスギ花粉症患者の増加が著しいばかりか、

 

スギ花粉症の一般化により、無治療で放置する患者も増え、

 

易感染性(たとえば、ちょくちょく風邪をひきやすくなるなど、しかし、重大な感染症にも罹るリスクも高まります)

 

や気管支喘息発症につながっているケースの激増です。

 

 

一方、屋内では、生活環境中のダニ、ハウスダスト、真菌などが感作抗原となり、アレルギー疾患の発症の原因となります。

 

近代化に伴い居住環境の閉密化が進み、ダニの繁殖に適した空調による温度、湿度などの環境が増えています。

 

 

さらに、アレルギー発症には「衛生仮説」という仮説があります。

 

乳幼児期まで都市部での衛生的な環境に育つと、かえってアレルギー疾患の発症をきたすという有力な仮説です。

 

最近では自己免疫寛容や免疫恒常性の維持に重要な役割を担っている制御性T細胞の関与が示唆されています。

 

それは、乳児期まで衛生的な環境で育つと制御性T細胞の活性低下がみられ、

 

Th1細胞(細菌やウィルスなどの異物に対して反応し、サイトカインという生理活性物質を分泌してB細胞やキラーT細胞を活性化させます)、

 

Th2細胞(ダニやカビ、花粉などのアレルゲンに反応し、B細胞を活性化させて、抗原を退治するため抗体をつくります)、

 

ともに活性化が促進され、アレルギー疾患の発症をきたすというものです。

 

 

 

注目される“花粉症アレルギー症候群(PFAS)”

 

 

花粉症アレルギー症候群(PFAS)は、食物アレルギーの特殊型であり、環境中に存在する花粉に対する感作から発症します。

 

PFASは花粉の感作成立後に果物や野菜などとの交差反応によって引き起こされます。

 

食物摂取直後から、口唇・咽喉頭粘膜の掻痒感、疼痛、血管性浮腫が出現します。

 

特に注意すべきなのはカバノキ科花粉症(カバノキ科にはカバノキ属、シラカバ属があります)です。

 

この患者さんが豆乳などの大豆製品(大豆はピーナッツとともにマメ科)摂取時に全身の蕁麻疹や呼吸困難、さらにはアナフィラキシー・ショックを呈することがあるからです。

 

 

高円寺南診療所での診断は病歴聴取や血液検査を基本としています。

 

皮膚テストによる感作の確認を参考にすることもあります。

 

血液検査で特異的免疫グロブリン(IgE)抗体価を調べますが、花粉の抗体価が上昇していても食物抗原については上昇していないことが多いため、その場合は、生の果物や野菜を用いたプリック‐トゥ‐プリックテストが有用とされます。

 

しかし、入院施設を持たない高円寺南診療所においては、このテストが、確定診断である食物経口負荷試験に次いでアナフィラキシー発症リスクがありため、原則として実施することはありません。

 

 

PFASの場合は、一般的な食物アレルギーとは異なり、加熱などの加工品、缶詰、加熱処理された市販ジュースでは症状を認めない例が多いです。

 

また、ほとんどの果物、野菜の誘発症状は口腔粘膜症状のみであることが多いです。

 

しかし、カバノキ科花粉による大豆アレルギーについてはアナフィラキシー・ショックに陥るリスクが高いため注意を要します。

 

その場合は、アドレナリン自己注射液(エピペン®)の処方をします。